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たまたま、好きなひとが海辺にいるのを見つけた。
ときどき声が出なくなる体質のひとなので、何をしたいのか、どういう気持ちなのか、よく観察しなければいけない。今の彼女は、夕陽を見てる。真上の空の雨雲に気付いていないみたいだから、とりあえず隣に座って夕陽を眺めた。
好きなひと。こちらに寄ってくる。今日はずいぶんとぐいぐい来るなあ。
雨が降ってきたので、傘を差して好きなひとが濡れないようにした。そうしたら、もっとこちらに寄ってきた。肩がふれあいそうな、ぎりぎりの距離。心臓の音や息づかいまで聞こえてきそう。大丈夫かな。
好きなひと。こちらを見ている。抱きしめてほしそうな顔。えっ抱きしめないといけないのかな。今の状態でもけっこう近くてどきどかしてるんだけど。
今度は、抱きしめてほしくなさそうな顔。表情豊かに、交互に現れる。どっちなのかな。両方なのかな。抱きしめてほしいけど抱きしめてほしくないのかな。
しかたないので、好きなひとを眺めるのをやめて、夕陽を眺めることにした。綺麗な夕陽だった。もういっかい、好きなひとを眺めてみた。満足げな顔をしている。どうやら、ふたりで夕陽を眺めるのが、正解らしい。
喋れたとしても、喋れなかったとしても、好きなひとの気持ちに寄り添う。そういう自分でいたいなと、ちょっと思った。この、好きなひとの満足げな顔を、少しでも長持ちさせてあげたい。
夕陽が、綺麗に、海面に沈んでいった。
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