第23話、雌のオーク3

 まさかあの雌のオークが、俺と同じ地球出身の人間だったなんて……


「ねぇ、転移とか召喚とか聞きたい事は色々あるけど、ちきゅうって何? あんたの出身地か何か?」


 ルビーが小声で俺に質問してきたので、こう返した。


「……まぁそんな感じだ。」


「……ふーん。よく分かんないんだけどさ。あんたとあいつは、別に知り合いってわけじゃないのよね?」


「あぁ、知らない。俺に雌のオークの知り合いなんていない。」


「……もしかしてあのオークは、話が通じるのではないでしょうか? ザーメンさんとの会話内容はよく分かりませんでしたが、少なくとも今の時点では敵意がないように思えます……」


 サファイアの言う通り、今の所あの雌のオーク、エメラルドだったか? からは敵意等を感じない。少なくともゴブリンのように、問答無用で襲ってきたりはしないようだ。これはチャンスか?


「なぁ……えー、エメラルド、さん。あんたは俺達と敵対するつもりは、ないのか……?」


「ん~? 別にあなた達に興味はないわぁ。私はこのチンコ達で遊ぶのに、忙しいねぇ。」


「……ねぇ。この近くの町があんたと同じ雌のオークの集団に襲われてるんだけど、あんたはいかないの?」


「私にはエメラルドって言う、美しい名前があるって言ったでしょぉ? 次はないわよぉ?」


「……ごめんなさい、エメラルド。次からは気を付けるわ。」


「分かればいいのよぉ、分かればぁ。それでぇ、この近くの町は襲わないのか、だったかしらぁ。そうねぇ、今の所はこのチンコで満足してるからぁ、特に興味はないわねぇ。」


「……エメラルドさん。あなたは、あの雌のオーク達の仲間ではないのですか……?」


「仲間、って程でもないわねぇ。まぁ、知り合いではあるけどぉ。私はあの子達みたいにぃ、男を無理やり犯す、なーんて野蛮な真似は好きじゃないのよねぇ。」


 どうやらこのエメラルドと町を襲っている雌のオーク達は、知り合いではあるが仲間ではないようだ。このエメラルドは、俺と同じく向こうの世界からこっちの世界に来たようだし、もしかしたら単独で好き勝手に行動しているのかもしれない。……試しに聞いてみるか。


「……俺達は、この先にある町に行こうと思っているんだが、その……もし可能なら食料を分けてもらったりは、できないだろうか……?」


「ちょっとあんた! 何言ってんのよ! そんな事できるわけないでしょ!?」


「そうですよ、ザーメンさん! いくら何でもそのお願いは……!」


「ん~? 別に言いわよぉ。私のってわけでもないしねぇ。その辺の家から勝手に持っていけば、いいんじゃないかしらぁ?」


「え? いいの!?」


「いいわよぉ、別にぃ。私には”これ”があるからぁ。その辺にある食料なんてどおでもいいわぁ。」


 エメラルドは壁から生えている男性器を指差し、村の食料はどうでもいいと言い放った。あそこにいる男性諸君には悪いが、俺達が生き延びるためだ。勝手に食料を持って行かせてもらう事にしよう。


「いささか気は引けるが、分担して食料を探すぞ。彼らには悪いが、俺達が生き延びるためだ。綺麗事なんか言っていられる状況でもないしな。」


「……そうね。こんな状況だし、仕方ないわよね……」


「……分かりました。村の人達には申し訳ないですが、私達もあまり余裕はないですので……」


 ◆◇◆


「よし、とりあえずこんなもんかしらね。」


「そうですね。これだけあれば、三人でも一週間は保たせることができると思います。」


 俺とルビサファ姉妹は村長の家以外はあらかた漁り、しばらく旅をするのには充分であろう量の食料を入手した。やっている事は盗賊というか火事場泥棒というかだが、綺麗事を言っていられる状況ではないと、無理やり自分を納得させた。


「……それじゃあ、俺達はそろそろ行くよ。その、何て言うか……ありがとうな。」


「はぁい、気を付けてねぇ。あなた達の無事を祈っているわぁ。」


 俺達はエメラルドに別れを告げ、次の町へと歩き出した。何て言うか、悪い奴ではなかったな。村の人達は気の毒だが。


 彼らはおそらく、これから世にも恐ろしい事をされるのだろうが、まぁ正直俺達には関係ないからな。まずは自分と仲間の命が大事だ。ありがとう、エメラルド。ありがとう、壁から男性器を生やしてた男性諸君。俺達は君達の事を、きっと忘れない……


「そういえば~、最後に一つだけ忠告しておくわぁ。」


「……?」


「私は同郷の人間には興味ないから見逃してあげたけどぉ、私の知り合いは私みたいに優しくないわよぉ? きっと問答無用で襲いかかってくると思うわぁ。だから、せいぜい気を付けなさいよねぇ。 多分だけどぉ、今のあんた達じゃあ、何回戦っても勝てないと思うわぁ。」


「……ありがとう。肝に免じておく。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る