第19話、初めての戦闘

「おまたせ。じゃあ早速だけど、これを装備しなさい。そしたら初めてのゴブリン退治に行くわよ。」


 俺はルビーに手渡された武器と防具を装備する。これから俺は初めての戦闘、言ってしまえば童貞を捨てに行くようなものだ。戦闘童貞。俺は一度ゴブリンを見たことがある。あの時は友人達が一緒に居たため、俺は一切戦っていない。


 しかし今回は違う。俺が戦うのだ。正直こわい。もう今にも走って逃げ出したい程に。だがこれを乗り越えた時俺は今よりももっと、男としての高みに上ることができるだろう。俺、この戦いが終わったら……


 ……ちょっと待ってくれ。確かルビサファ姉妹は、雌のオークに重症を負わされたんだったよな。どこで戦ったのかは知らないが、もしかしたらまだこの近くにいるんじゃないか?


「……なぁ、一つ疑問があるんだが。」


「何よ。」


「お前たち姉妹は、確か雌のオークとやらにやられたんだよな?」


「……そうよ。」


「どこでやられたのかまでは知らないんだが、もしかしたらこの町の近くにいるんじゃないのか? もしそうなら、すごく危ない気がするんだが……」


「多分大丈夫なんじゃないかしら。私達はあの時、この町から少し離れた森でモンスターを討伐していたの。そこで運悪く雌のオークと遭遇して、悔しいけど為すすべもなくやられたわ。後の流れはあんたも知ってる通りよ。そして私はサファイアを担いで森から逃げて、あの洞窟へと逃げ込んだのよ。」


「つまり町からあまり離れなければ大丈夫、って事か?」


「そうですね。あれから雌のオークの目撃情報はないようですし、多分大丈夫だと思いますよ。オークは余程の事がない限り、この町みたいに少し大きめな町を襲うことはありません。なのでもし運悪く遭遇してしまっても、最悪町に逃げれば問題ないと思います。」


 なんか微妙に不安は残るが、二人がこう言ってるから多分大丈夫なんだろう。最悪遭遇してしまったとしても、サファイアの言う通り町に逃げ帰ればいいだけだからな! 大丈夫、大丈夫……


「あんたは雌のオークの心配なんかより、これから戦うゴブリンに集中しなさい。いくら最弱のモンスターとは言っても、油断してたら怪我しかねないわよ。」


「……あぁ、分かった。」


 そうだ。遭遇するか分からない雌のオークの心配なんかよりも、まず俺はこれから戦うゴブリンに集中しないといけない。俺がどれだけ戦えるのか分からないが、これだけ装備を整えたんだ。最弱と名高いゴブリンの一体程度なら、もしかしたら何とかなるかもしれない。


「じゃあ行くわよ。道中の索敵とかは私達に任せて、あんたはゴブリンにどう対応するかだけ考えておきなさい。」


 俺とルビサファ姉妹は、町を出てすぐ近くにある、ゴブリンがよくいると噂のスポットへ歩みを進めた。ふー、緊張してきたな。できる事なら俺もこんな事やりたくない。だが商人になって楽に金儲けするためだと思って、頑張るしかない。


「……っ、止まって!」


 歩く事数十分、ゴブリンと遭遇した。運がいい事に相手は一体だけのようだ。こちらとは少し距離があるため、相手はまだこちらに気が付いていない。これはチャンスだ。


 この辺は障害物もほとんどなく、見晴らしがいい。なので現状援軍の心配はしないでもよさそうだ。それにこちらにはルビサファ姉妹という、頼もしい味方もいる。だからきっと大丈夫……そう信じたい。


「相手は一体、近くに敵影もなし。これはチャンスよ。やられそうになったら私が助けてあげるから、あんたは存分に戦ってきなさい。ただし頭とかの急所だけはやられないようにしなさい。ゴブリンはそこまで力も強くないから、腕とかならやられても最悪何とかなるわ。」


「……何か他にアドバイスとかはないのか?」


「ゴブリンは力もそこまでないですが、動きも速くないです。なのでしっかりと相手の動きを見て、チャンスと思ったら攻撃してください。一撃で仕留めようとはせずに、可能なら腕や脚を狙うのがいいですよ。」


「……すーっ…ふーっ。分かった、行ってくる。」


 俺は先程買ったショートソードを腕に持ち、ゴブリンへ向けて歩みを進めた。流石にこの距離まで近づけば、相手も気付くようだ。ゴブリンが俺に気付き、もっている棍棒片手に襲いかかってきた。


「うおっ……!」


 俺は相手の攻撃を、思い切り後ろに飛んで避ける。ここまで大げさに避ける必要はないと思うが、当たったら絶対痛そうだからな。あの棍棒。絶対に当たりたくない。


「ギギッ!」


 再びゴブリンが棍棒を振るう。今度はさっきよりもなるべくギリギリの位置で避ける。さっきは大げさに避けすぎて反撃できなかったが、この距離ならギリギリ当たるはず!


「……っの、死ねオラァ!」


 俺は棍棒を振った際に下がったゴブリンの右腕めがけて、ショートソードを振った。すると上手く当たったのか、ゴブリンの右腕にスッパリと傷が入って血が吹き出た。どうやらゴブリンの腕は思っていたより、だいぶ柔らかいらしい。


「ギギ―――ッ!?」


 ゴブリンが泣き叫び、痛みからか持っていた棍棒を落とした。チャンス! 俺は素早くゴブリンの横に回って、今度は左脚を斬り裂いた。そしてゴブリンの左脚からも血が吹き出した。


「ギギッ!?」


 左脚を斬られたゴブリンは体勢を崩し、尻もちを着いた。その時傷を負った右腕で地面をついたため、さらなる痛みでゴブリンが苦痛に顔を歪めた。


「今よ! 首を狙って!」


 後ろからルビーの声が聞こえた。俺は反射的にその声に従い、ゴブリンの首に向かってショートソードで斬りかかる。しかしこれは左腕で上手くガードされてしまった。


「ギッ…!」


 だがこれでゴブリンの両腕は使えない。俺は今度こそ! と心の中で思いながら、再びゴブリンの首めがけて思い切り剣を振った。これ以上にないくらい力を込めたので、そのまま勢いで地面に倒れ込んでしまった。


 急いでゴブリンの方を見ると、首と胴体が切り離されたショッキングな状態で倒れていた。どうやら俺は、無事にゴブリンを討伐することに成功したようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る