第16話、冒険者登録2

「ではこれから、先程の説明で意図的に省いた部分について、話していきますね。」


「……」


 サファイアの事を若干睨め付けながら、話を聞くことにした。まぁ多分碌でもない事なんだろうが。


「説明の際に重要となりますので、まず冒険者の区分から説明します。冒険者には以下の七つの区分があります。上から順に、ブラック・プラチナ・ゴールド・シルバー・ブロンズ・アイアン・ホワイトの七つです。私と姉さんは現在ブロンズで、これは駆け出し冒険者とも言われています。」


「……」


「ザーメンさんは今日登録したばかりなので、当然一番下のホワイト、初心者冒険者と言われるところから始めることになります。ホワイトからアイアンに上がるためには、自分だけの力でゴブリンを五体、半日以内に討伐する必要があります。」


「……続けてくれ。」


 何かもうすでに嫌な予感しかしない話だな。上の区分へ行くには、ゴブリンを一人で倒さないといけない? しかも半日で五体? いやー、無理なんじゃないか。俺戦闘能力皆無だしな。


「冒険者区分がホワイトの方は、一人、または同じ区分の方と組んで行動するのは禁止されています。必ず自分より二区分以上上の方に付き添っていただき、数ヶ月の間様々な知識や経験を学ばないといけません。基本的にはブロンズ区分の冒険者が、この役目を負います。」


 ここまで聞いて思ったのだが、別に俺は冒険者として活動したいわけじゃあない。というよりもむしろ、危ない目に合うのは嫌だからやりたくない。だから無理に冒険者として活動する必要はないんじゃないか?


「……別に俺は、冒険者として活動したいわけじゃあない。だから別に、異冒険者としての活動をしなくても問題ないんじゃないか?」


「もう一度お尋ねしますが、ザーメンさんは、商人になりたいのですよね?」


「なりたいというか、俺の能力的にそれが一番楽に金を稼げるんじゃないか、と思ってはいる。」


「先程私は、商人の方や錬金術師の方の中にも、冒険者として活動している方がいると言いましたよね? すみません、実はアレは正確な表現ではありません。」


「……というと?」


「商人や錬金術師、それ以外もそうですが、そういった活動を始めるためにはまず、冒険者区分をブロンズまで上げないといけません。」


「……え?」


 商人になるためには、まず冒険者区分をブロンズまで上げないといけない? ブロンズと言えば、ルビーやサファイアと同じ区分だよな。え? そこまで上げないといけない? HAHAHA。冗談も休み休み言えよ。サファイア、コラ。


「商人や錬金術師の方は、時には自らが危険な場所に行き、素材等を集める必要が出てきます。ですので、最低限自分の身くらいは、自分で何とかしないといけません。自分を守る方法は、戦ってもいいですし逃げてもいいです。そこは臨機応変に対応する必要があります。そして自分を守る事が最低限できると判断されるためには、冒険者ランクがブロンズ以上という条件があるんです。」


「……つまり?」


「ザーメンさんが少なからずなりたいと思っている商人になるためには、まず冒険者ランクを私達と同じブロンズまで上げないといけない、ってことですね。」


「ちなみにだが、商人になるのにも何か証明できるような物が必要なんだよな……?」


「はい。冒険者以外の仕事をする際には、それぞれの冒険者ギルドのような集まりに行き、先程作ったカードのような物を作らないといけません。それがなくても活動はできますが、もしも国の兵士さん等に見つかりでもしたら、無許可商売ってことで投獄されます。」


「と、投獄?」


「はい、投獄です。そして最悪、そのまま死刑ですね。」


 投獄、さらに死刑と来たか。いやー、この世界舐めてたわ。完全に舐めてた。まさかそんなに厳しい条件があったとは。つい数時間前まで、チート級の能力が覚醒して俺の異世界人生イージーモードじゃん、とか思ってた俺をぶっ飛ばしたい。


「もしこの話を聞いた上で、ザーメンさんが無許可で商売をしたいというのなら、私達は止めはしません。ですがもしも、ザーメンさんが無許可で商売しているのを見つけたら、近くにいる兵士さんに知らせちゃうかもしれません。」


「……今聞いた話は本当に、本当か?」


「はい、本当の話ですよ。先程の受付の女性に聞いたとしても、同じような内容を言われるかと思います。」


 ……おいおいおい、とんだ策士だわ、この子。別に騙されたとかってわけじゃないんだろうが、まさか商人になるためにそんな面倒くさい工程をクリアしないといけないとはな。その辺で適当に商品を売るつもりだったんだが。


 まぁ一応、俺の愚行を事前に止めてくれたとも考えられはする。この話を聞かなかったら投獄からの、最悪死刑だったっぽいしな。だからそう考えるなら救世主、いや女神か? 女神サファイア。


「あっ、ちなみになんですけど、先程冒険者登録をする際に、私達と行動を共にするって手続きもしちゃいました。なので、他の方と行動を共にすることはできませんからね。もしも違反したら二度と冒険者登録ができなくなっちゃいますよ。」


 抜け目ないな~、サファイアさん。マジで抜け目ない! いやまぁそもそもその辺の人に指示を仰ぐなんて事は多分できないから、この際彼女らと一緒に行動するのは仕方ない。だがこれはもう女神なのか悪魔なのか分からんな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る