第91話 ensemble ③

拒否きょひされた時の事は考えてるの?」

「交換条件を出す。俺達は絶対にここを使いたい。でも彼らが嫌がるなら、比較的安全な別の場所を用意するしかない」

「ここがベストでしょ。敵の居る地上にわざわざ降りてまで移動してくれるかな?」

「ホーリーボムの生成が始まったら、敵は他の生存者を無視して最優先でここを狙ってくる。敵を刺激しない限り、他の所は安全だ」

「私達が失敗しない事が前提でしょ?」

「失敗した時は、結果はどうであれ俺が巻き戻るだけ。だから――」

「皆は安全、そういう事か。でも納得するか?」


 これ以外に方法は無い。

 今の案は、あくまで最後の手段なので出来れば協力して貰いたい所だ。

 ゆうが不安げな表情で、遠くのリオン達を見て目を細める。


「本当に15分で話がまとまると思う?」

「信じるしかない。まだ、時間の余裕はある」


 本当は、準備には時間がどれだけあっても足りない。

 何しろ、24時間の長丁場ながちょうばだ。

 視界最悪の夜を乗り切る必要もある。

 スタート時点で日が暮れてしまっていると、最も厳しいラッシュが起こっているであろう終了間際を視界最悪の状態で戦う羽目になる。

 単に失敗するだけなら百歩譲ひゃっぽゆずって良しとしても、疲労で判断力が鈍った状態では仲間の誰かを先に死なせてしまうかもしれない。

 それが万が一にでも春日凛かすが りんだったなら、唯一の希望がついえる事になる。

 絶対に、それだけは避けなければ。


 そして、リオン達が離れて14分。

 遂に方針が決まったようで、彼女だけが立ち上がって恭平達きょうへいたちの元へと戻って来る。


「決まったわ。私達は――」


 さぁ、どっちに転ぶ?


「貴方達を信じられない。申し訳ないけど」


 何となく、彼女だけが戻って来た時点で分かっていた。

 分かっていても尚、気分が沈む。


「一番の理由は、貴方達が本当に強いのか分からないって事」


「レベル見たでしょ」と優が噛み付くと、リオンは「それだけじゃ分からない」と返す。


「ここまで来たのが証拠、それじゃ駄目ですか」

「運よく、敵が少ない所を進んできたのかもしれない」

「ボスを倒した実績だってあるわ」

「それがボスの実績だって証拠もない」

「ならどうしろってのよ。口で言って信じないなら――」


 優が吐き捨てると、リオンは落ち着いた表情で頷いた後、「だから私が代表として見極める。下に降りて、敵を倒せるって事を証明して?」そう続けた。


「それって……」

「うん。私が信頼できると思ったら、他の皆も従う。これが私達の出せる最大限の譲歩」

「おいおい、楽勝じゃん!」


 八木やぎが声を張り上げる。

 優が「気が早い」とツッコミを入れたが、彼が言うように実力を見せるのは造作もない。

 それだけの実力が恭平達にはある。

 皆でアイコンタクトを取り、同時に頷く。善は急げ、だ。


「分かりました。今から出発でいいですか?」

「その前に。まずは私をパーティーに入れて。倒すのをただ見てるだけより、経験値が入った方がお得でしょ?」

「確かに」


 登録方法を説明した後、リオンがチームに加入した。

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