第69話 雲集霧散 ⑧

 ヒタッ……、ヒタッ……。


 爆発の範囲に居なかったボスは健在。

 そして今、恭平きょうへいの攻撃によって敵は完全に此方へ狙いを定めて向かってきている。

 爆発が治まると同時に、霧が再び周囲を閉ざした。

 三拍さんぱく待ってから、更に一発を射出。

 前方の敵は既に吹き飛ばしたので、少し大通り側を狙って爆発を起こす。

 比較的足の速い水母くらげが数匹、爆発に巻き込まれて爆散する。

 この火力の攻撃に対して少ない成果だが、仕方ない。

 代わりに、晴れた霧の中でボス級を確認する事が出来た。


「浮いてるのか」


 見た目は頭の部分がТ字型に広がった巨大なサメだが、ヒレの代わりに長く青白い腕が生えており、それが時折地面を叩いて「ヒタッ……、ヒタッ……」という音を立てている。

 ハンマーヘッドが頬のエラを大きく開き、呼吸と同時に濃い霧を吐き出した。

 間違いない。こいつが霧の発生源だ。


 残る矢は、あと四本。倒し切れるだろうか。


「だれ、か……敵の情報を見れないか」

「おい、そんな状況かよ。その腕、大丈夫か!?」


 大丈夫、と言おうとして、しかし上手く呂律ろれつが回らない。

 恭平は八木やぎに言われるままに右肩、――腕だったものを見た。


「なんだ、これ」


 折れ曲がり、じれ、大量の血をしたたらせる物体が、辛うじて胴体と肉で繋がっていた。

 

 認識した瞬間、鋭い痛みが体を駆け抜ける。

 

 強い眩暈めまいに、武器を取り落しそうになったが気力で何とか踏みとどまった。

 駄目だ、こんな所で。早く、敵の詳細を。


「『ハンマーヘッド:食い破る混迷こんめい! ライフ、10,000! 特技:濃霧のうむ浮遊ふゆう真空波しんくうは!』」


 大声で知らせてくれたのは、美和子みわこだった。

 やはり、いざというときに頼りになる。

 半分も開いていない目で彼女を一瞬だけ見て、口だけを動かして「ありがとう」と言う。

 もう、体がもたない。あいつだけでも道連れにする。

 その一念いちねんだけでボウガンを構える。

 敵の姿は乳白色の海に隠れて見えない。


「当たれぇ!!」


 引き金を引いたその時。

 霧の奥から飛んできた見えない何かで、恭平はボウガンごと体を真っ二つに切り飛ばされて絶命した。



 ― Continueコンティニュー





「……くっそぅ」


 今回は家の最寄り駅の辺りまで戻された。

 電車に乗り込み、頭を抱える。

 ハンマーヘッドは間違いなくボス級だった。刺し違えてでも倒せていれば、実績によるスキルが獲得できた筈だ。そのチャンスを見す見す逃した。

 更に自分自身の最低な指揮しきに腹が立つ。

 的確な指示とは程遠い。優柔不断で皆を不安にさせるばかりだった。

 思い出すのは、美和子の完璧なリーダーぶりだ。

 恭平はまだ、足元にも及んでいない。


「スキルにばっかり頼ってたらダメだ……」


 しっかりと戦略を立て、実行しなければ文字通り命がどれだけあっても足りない。

 落ち込んでいる暇なんてない。

 皆のスタート位置、合流ポイントは分かっている。携帯を取り出し、池袋周辺のマップを確認する。

 どのコースを進めば最短で四人と合流できるのか。

 それに、ただ合流するだけでは駄目だ。

 4人にしっかりと事情を説明した上で、ある程度は敵を撃つ事に慣れて貰わなければならない。


「……どうやって話すのが一番うまくいく?」

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