第53話 セカンドコンタクト ⑥

「二階へ!」

「どうしてだ?」

「いいから、早く!」


 三人をかして二階へ。

 上階の窓を開き、下に集まった敵が狙える位置である事を確認する。

 加えて、赤玉が居ない事も確認。

 これだけ密集していれば最大限の効果を発揮する筈だ。


「ここに立って、あの下の敵に向かって撃ってもらえますか」

「ここから? まぁいいけど」


 八木やぎはぎこちない動きで窓から少し身を乗り出し、銃を斜め下に構える。


「どれを狙えばいい?」

「どれでも。一発でいいです。予想が正しいなら、どれを撃っても全部当たる」

「よくわかんないけど、いいや。撃つぞ」


 パンッ、と大きめの音と共に弾丸が射出される。

 弾丸は正確に下方へ直進し、群れ為す案山子かかしの一匹の肩に着弾した。

 恭平きょうへいは鑑定機能を起動した携帯で案山子達の詳細を確認する。

 するとどうだろう。何か虫が飛び回っているような風切り音が幾重いくえも続き、案山子のライフが継続して削られていく。

 一体だけではない。周りの案山子も全てだ。


「「「「あ˝あ˝あ˝ァァァ」」」」


 案山子の絶叫。最初に撃たれた案山子だけでなく集まった案山子全てが時間差で叫び出す。

 弾は速度が速く見えないが、間違いなく跳弾ちょうだんし続けている。

 一発で与えられるダメージはおよそ5と威力は低いが、何度も高速で跳弾するので時間単位のダメージはかなり大きい。


「もしかして、俺のスキルってすごい?」

「凄いってレベルじゃないです。俺たちが外に居たら案山子が此方に向かって走ってくるから、途中で跳弾が途切れるかもしれないけど、密集してたら最強――」


 そうしているうちに、中心付近に居た案山子の一体がその場に崩れ落ちた。

 後を追うように中心付近から順に案山子が絶命していく。

 中心から死んでいくのは、跳弾が一番集中しやすいからだ。

 次々に敵は倒れ、残るは2体。


 ピシッ。


「……ん?」


 残った敵は1匹。跳弾先が無くなったので二体のラリーが終わったのだ。

 ラリーが終わると同時に響いた音を耳で拾ったのは恭平だけだった。


 今の、何の音だ?


 些細ささいな、しかし無視できない違和感に目をらす。

 すると、下階入口付近のガラスに蜘蛛くも巣状すじょうひびが入っている事に気づいた。

 元々、あんな傷は無かった筈だ。現状は安置の建物正面に案山子が傷を付けられるとは思えない。思えないのだが、確かにそこにある。

 胸騒ぎと嫌な予感は目の前で即座に現実となった。

 罅の入ったガラスが砕け、案山子が身を屈めて入ってくる。


「はっ!? どうなってるんだよ!?」

「分からない……けど、三人はここで待ってて。一匹ならすぐ倒せる!」


 ライフも極限まで減っている。素早く階段を駆け下りると、案山子は一直線に階段に向かってくるところだった。

 隠れて待ち伏せする知力が無い事に感謝しながら携帯をボウガンに戻して六連射を見舞う。

 六本の矢は全て案山子の上半身に突き刺さり、後ろ向きにひっくり返りながら絶命する。

 実際には最初の一発でライフが尽きたのは明らかだった。

 少し警戒しながら案山子に近寄る。その個体は体中からどす黒い血を滴らせていた。

 その血の筋の数だけ、弾丸が体を貫通したのだろう。

 安置あんちを破壊できるような特殊な個体には見えない。

 追い打ちの矢を撃ち込みながら死体を踏み越えて入口の方へ。


「なんだ、これ」


 ガラスに刻まれた傷は一つではなかった。

 砕けたガラスとは別の面、罅こそ出来ていないが無数の傷がついている。

 石で何度も何度も殴ったように。

 外を警戒しながら割れたガラス面に顔を近づける。

 やはり、小さな穴を中心にガラスが割れたようだ。

 割れなかったガラスにも、満遍まんべんなく細かな傷が刻まれている。

 尖った石で何度も何度も叩いたような。


 ……何度も、何度も?


 改めて、割れていないガラスを見る。傷は入口付近に多く、外に行くにしたがって数が減っている。


「そういう事、か」


 理由に思い至り、愕然がくぜんとする。いや、最初から気づくべきだった。


「どうだ、もう安全か?」

「倒したよ。降りてきて大丈夫」


 上階から恐る恐る覗き込んでくる八木達に答える。


「ただ、ここはもう安地として使えない」

「化け物がそんなに強かったのか?」

「いや、自分たちが壊した」

「は?」

「跳弾。その可能性を思いつかなかった。ごめん」


 跳弾が削ったのは敵のライフだけではなかった。

 敵からの攻撃には鉄壁のとりでも、生存者の攻撃は別のようだ。

 八木の銃弾の跳弾能力は必ず敵を一度貫通し、その後に跳弾する。

 敵を貫いた弾丸が正面扉のガラスに何度もぶつかり、耐久値を削り切ったのだろう。

 別の安置とはいえ、りんの爆弾でも割れなかったガラスを砕いた。

 相当な蓄積ダメージだ。


「……意外と厄介なスキルだな」


 対象の付近に別の異物があれば、跳弾に巻き込まれる。

 この跳弾の途中で敵が絶命する、もしくは跳弾先が無くなった場合、弾は最後に向かった敵を貫通して飛び続ける。

 敵の位置によっては、撃った弾が跳弾を重ねて撃った側に帰ってくる可能性があるのだ。


「あーつまり、自滅じめつの可能性もあるってことじゃん」


 八木は困った表情で笑い、眼鏡の位置を直した。

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