【短編】プロスケニオン・センス

在存

第1話「□□の壊滅」

「大丈夫ですかー?!聞こえますかあー!!」

 

 瓦礫のはざまにヒトがいる。ウワーーーン、と、水槽で反響を繰り返したような悲鳴。絶望のサイレンだ。しかし生きている証でもある。あと何個か灰色の瓦礫を退ければ、助かる希望はあるはずだ。

 時間がない。水平線を見渡せば、赤と灰色の地獄絵図。火がこの近辺まで移るのも遠くはない。それに要救助者は他にもいる。車の中に取り残してしまっているのだ。何分も待たせるわけにはいかない。


「あともう少しで出られますよー!!あと少しの辛抱ですー!!」


 届いているかもわからぬ言葉。声援。あれやこれやと叫びながら瓦礫を退けつづける。


* * *


「……!やった!」


 ひとつの瓦礫を蹴り飛ばす。辺りはジェンガのようにぐらぐらと崩落する。そうしてヒトの全貌が見えた。ウワーーーン、という悲鳴が一層はっきりと聞こえる。生きている。生きている!


「聞こえますか?助かりましたよ!」


 耳元で声を張る。聞こえている様子は見えない。しかししばらくするとこちらに気づいたようだ。うねるような悲鳴を突如として止めた。


 そのヒトは……空虚な目でこちらを見た。世界を見た。世界が笑った。

 振り返り、水平線を見渡した。消火のおかげか赤い炎は一時的に姿を消し、後には灰色だけが残った。


 □月□□日。□□は壊滅した。

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