第3話 ウルフムーン後編
ウルフムーン後編
Chapter???
鳥居を潜り歩き続ける
どれくらい歩けばいいのだろう
お社はまだ遠く…辿り着けない
Chapter0「海堂夏希」
私ーー海堂夏希は虐めを受けている
虐めは中学一年の時からあった。その時は私に矛が向く事が無く見て見ぬ振りをした。虐めを受けていた子が不登校になるとまた別の人が虐められ始めた。私はまた見て見ぬ振りをした。そして中学二年になって遂に虐めの矛が私に向いたのだ。私は友達も少なく人見知りするタイプだが何故、虐めの対象になったのかはわからない…いや、理由など無いのだろう。おそらくはただの暇つぶし…友達だった子も見て見ぬ振り…自業自得だ。今まで私もそうしてきたのだから…それでも私は勇気を出して先生に相談した。先生は虐めの元凶である子を注意…その行動は逆効果だった。
「あいつ、先生にチクった、調子にのってる」と言われ虐めは更にエスカレート、机にチョークで落書きされ、チョークを投げられ、ヒソヒソと悪口を言われ、椅子に画鋲を置かれ、思いっきり蹴っ飛ばされ…スマホでは、既読無視やブロック…果てには死と言う言葉まで使って来た…私の心は限界だった…親には言えない、言えば親はショックを受けるだろうし、何より迷惑をかけたくない…
じゃあまた先生に言えばいい。いや、また
「調子にのってる」と言われエスカレートするだけだ…調子にのってるのは向こうなのに…八方塞がり
だから私のとった行動は保健室登校だった
先生は不審がったが本当の事は言えず
中学二年の三学期…私は今も保健室登校をしている。不登校になれば親に本当の事を話さなくてはならない、それだけは嫌だ!
だから私は保健室登校の道を選んだのだ
それでも私は救いを求めている。
「誰か助けてよ…」始業式で誰もいない保健室に私の声が響く…
Chapter1 「学校」
今日から僕は人生初の学校に通う事になる
場所は入院していた病院から徒歩三分にある中学校だ。僕と恋人の雪は今、中学三年生になる。そして今はその三学期目
突然クラスに姿を現してもクラスメイトを驚かせるだけだ
だから僕と雪は保健室登校する事になっている。それに受験先の高校の説明も受けなければならない
朝の支度を済ませ僕は学校指定のジャージに着替える。何故ジャージ?と思うかもしれないが三学期しか通わない学校の制服を買うのは躊躇わられたからだ。医院長先生は気にしなくていいと言ってくれたが僕としては気にするし何より病院でずっとジャージだったのだ、ジャージが一番落ち着く
家を出て京成バスに乗り学校近くのバス停に降りる、そこには既に雪が来ていた
「おはよう!星野くん!」
「おはよう」僕は彼女の服装を見る
「どうかしました?」
「いや…何で君までジャージなのかな?」
そう、雪の姿は僕と同じ学校指定のジャージだった。確か前に制服がどうとか言っていた筈だが…?
「それは当たり前ですよ。だってジャージなら星野くんとペアルックです!」
「その考えだとこのジャージ着てる人皆んなペアルックになるんだけど…?」
「細かい事は気にしない!気にしない!それでは行きましょうか?」相変わらず元気だなぁ〜と思いながら僕は彼女の後に続く
「今日の予定は、先ず指導室で担任との挨拶、それから進路の資料を貰って…後は保健室に向かえればいいかな」
「私達が通おうとしてる高校はポスト投函でいいんでしたよね?」
「ネットで調べた限りだとそう書いてあったよ。その辺りの事も話し合うと思う」そんな話をしているとあっという間に学校に到着した。校門には担任と思しき女性教師が立っていた。僕達は名前を告げ指導室に案内される。上履きは無い為、来客用スリッパだ
先生は僕達の登校を心から歓迎してくれた。話によるとこの先生の担当は英語らしい。それから生徒手帳を渡され、校則を幾つか説明、そして本題である進路について…
僕と雪は同じ高校に通う為、進路指導も一緒に行う事になった、これは先生なりの配慮だろう。確かに登校初日に先生と一対一は絶対に嫌だ…
僕達が通う通信制の高校は今年出来るらしい。らしいと言うのは既存のビルを丸々学校として使う為、今は準備中だとか
試験等は一切無く、入学届を郵送で提出するだけでいいと言う、まさに僕達には願ったり叶ったりの高校だ。入学費も十万ととても安い。これなら医院長先生にも迷惑をかけないだろう。雪に至っては僕と同じ高校ならどこでもいいと言っている
僕達が既に行く高校を決めていたのが意外だったのか担任の先生には驚かれたが逆に安堵のため息もつかれた。どうやらもっと世間知らずで厄介な生徒が来るとでも思われたかな?その後、話は順調に進み入学届を渡された。どうやらこれを保健室で書いて今日は下校していいらしい。実はこんな事もあろうかと証明写真は撮影済み…そんな話をしたら担任の先生はじゃあ今から書いちゃおうか?と言ってきた。おかげで僕達は目的の保健室に入る事が出来た。今は始業式の最中…体育館からは校長だろうか?話し声が聞こえて来る
保健室はとても静かで保健室の先生も居なかった。おそらく始業式に参加しているのだろう。だからか保健室中央で椅子に座っている少女を見た時、この子がターゲットの子だとすぐにわかった
その子は僕達が保健室に入って来るなり驚いてベッドのカーテンに隠れてしまった
ここで動くのは得策じゃ無さそうだ…
「じゃあ雪、ささっと書いて帰ろっか?」雪も意図を理解したのか
「はい!」と言ってくれた
僕達は側にあった椅子を机の前に持って行き座った。机と椅子が三つ…保健室の先生が事前に用意してくれていたみたいだ。つまりカーテンに隠れてる彼女は僕達が来るのをわかっていた可能性が高い
「え〜と…入学志望の理由か」
「う〜んっと私は星野くんが入学するからって書きます」
「却下…」
「半分は冗談です!」やっぱり半分は本気だったのか…まぁ僕と同じ高校ならどこでもいいとか言ってたからなぁー
取り敢えず真面目に病気の事を書くか
それから三十分後…最後に証明写真を貼り付けて…
「出来ました〜!」
「僕も終わったよ」
「この後どうします?」
「せめてこれからお世話になる保健室の先生には挨拶しておきたいかな?」
「それには私も賛成です」
「それじゃあ待とうか」
「はい!」それから僕達は保健室の先生が帰ってくるまで待つ事にした
episode海堂夏希1
今、私は窮地に陥っている
目の前には知らない男女が二人…
私の咄嗟の防衛行動で隠れたが二人は気にする様子も無く何かを書いている
会話から高校の入学届だとわかる
つまり二人は中学三年生!私は中学二年生…つまり先輩!それがわかった瞬間、心の中で危険信号が鳴る、私の中で先輩は怖い人と言うイメージがあるからだ
今日の朝の出来事を思い出す…
私が登校するとそこには机と椅子が二つずつ増えていたのだ。だから私は保健室の先生に尋ねた。そして返ってきた言葉は
「今日から訳有りの子達が登校してくるの、海堂さん、仲良くしてあげてね」と…
仲良く…どころじゃない!相手が先輩だとは聞いていない!私はどうするべきか…
隠れてしまった手前、のこのこと椅子に戻るのは気が引けるし、このまま隠れているのも変だ。それに先輩に失礼ではないか…?
自分で言うのは変だが私は極度の人見知りだ
そんな私が先輩に話しかけられるとでも?無理!無理!絶対に無理!誰か助けて〜!
そんな祈りが通じたのか、保健室の先生が始業式を終え帰って来た。二人の先輩は先生に挨拶とこれからお世話になる事を告げると帰って行った…
た、助かった…
その後、私が隠れている事に保健室の先生は不思議がったが深くは聞いてこなかった。この先生はこの学校で唯一、心を許せる相手であり私が虐められてるのを知っている人…だから私の味方はこの先生しかいないのだ
episode海堂夏希1 end
翌日…
僕達は昨日と同じく病院の前で待ち合わせ私学校に登校する
「あの保健室に居た子…あの子が海堂夏希で間違いなさそうだね」
「はい…ショートボブに人見知り、それに組章は二年二組でした」まだ断言は出来ないかもしれないが…因みに僕と雪は三年二組だ
「あの子が近いうちに自殺…」
「アルクちゃんから聞いた時は驚きましたが私は彼女の自殺を止めるのが役目なんですよね?」そう、初詣に行った日、あの時アルクに言い渡された言葉、それは僕達が通う中学に近々、自殺する人が現れる…それを止めて欲しいと言う事だった。名前は海堂夏希、学年と組は二年二組、髪型はショートボブ、性格は人見知り…そして虐めを受けている事もアルクから聞いた…アルクは雪の病気を治した対価としてアルクが指名した人を救う事を言い渡した。拒否権はもちろん無い
人を救う…なんて簡単じゃ無い事はわかっている。それでもやらればならないのだ
「星野くん…やっぱり星野くんは無理に関わらなくてもいいんですよ?」
「無理はしてないよ。確かに僕は既に心臓という対価をアルクに払ってるから関わる必要は無いかもしれない…それでも僕は関わるよ。雪の対価は僕の対価も同じだよ。だって僕達、恋人でしょ?」少し恥ずかしい事を言ってしまったがこれが僕の本心だ
「ほ、星野くん…」雪は顔を赤らめている。僕は誤魔化す様にもう一つ意味を付け加えといた
「そ、それにさ、アルクは元々、僕の家系が祀ってた神様なんだから、祀ってた神様の願いが聞けるなんてきっと幸せな事なんだよ」
「ふふ!星野くん、お顔が真っ赤ですよ?」
僕はバツが悪くなり雪から顔を背ける
そうだ、これは僕と雪とアルクの三人で協力しないといけないんだ。アルクは僕に危ない事をして欲しくないみたいだが僕は雪に危ない事をして欲しくない…だからと言って僕一人でどうにか出来るとも思っていない。だから三人でやるんだ
学校に着き保健室の扉を開ける
「おはようございます」
「おはようございま〜す」僕と雪は椅子に座っていた先生に向かい朝の挨拶をする
海堂夏希はまだ来ていないか…
今日はどうやってコンタクトを取ろう?昨日は様子見だったが今日は少し話してみようと思う。彼女がいつ自殺するかはアルクにはわからないらしい。ただ自殺する…この事しかわからないのだ。アルクが僕達の病気を治した以上、予知能力を持っていても不思議ではない
「星野くん…」雪が小声で話しかけてきた。雪の視線を辿ると…海堂夏希がベッドのカーテンに隠れていた。どうやら先に登校していたらしい。そして既に警戒モード…そんな僕達のやりとりを見ていた先生が
「あの子、人見知りなの、気を悪くしないであげてね?」と言ってきたが…
「前途多難だね…」僕は自然と呟いていた
授業が始まり僕達は配られたプリントをやっていた。病院で問題集をやったおかげか難なく解ける。だけど…さっきから凄い視線を感じる。海堂夏希が僕達の事をちらちら、見ているのだ。僕達は、気付かぬふりをしているが、さてどうしたものか…雪の方を見ると私に任せてとウィンクしてきた。確かにコミュ力なら僕よりも雪の方が遥かに上だ。なら雪に任せるのがいいだろう
「私の名前は雪翔子、私とお話ししませんか?」雪は必殺、満面の笑みで優しく話しかけた。しかし、海堂夏希は「ひゃう!」と奇声をあげるとまたベッドのカーテンに隠れてしまった…保健室の先生はそれを苦笑いで見ている。
「星野くん…駄目でした…」しょんぼりして戻ってくる雪の頭を撫でる
もし海堂夏希が虐めを受けているのなら人間不信になっていてもおかしくないのかもしれない。それに彼女は僕と同じで人見知りだ。そう言えば僕はどうやって雪と仲良くなったんだっけ…?確か、去年の四月…病院の屋上で出会って、星を見せられて…それから僕は雪に惹かれていった。気付けばいつも側に居るのが当たり前で…それが闘病中の僕に力をくれた。僕と雪は[病気]と言う接点から仲良くなったのだ。じゃあ海堂夏希と僕達の接点は?その答えはすぐに出た
……無い
何か接点を見つけなければ会話をするのは難しいだろう…何かないか?何か…
僕は辺りを見渡す。するとふと海堂夏希のスクールバッグに目が止まる。バッグが少し開いていて中にはゲーム機が入っていたのだ。あのゲーム機は…スイッチ?あれなら僕も持っている。十四歳の誕生日に医院長先生にかってもらった。でも校則でゲーム機の持ち込みは禁止されている筈…そこで僕の左薬指にしてある指輪に目が止まる。そう言えばこの指輪も校則違反な筈だ、だが先生は注意しなかった…気付かれなかったのか?
僕は試してみる
「先生、僕のこの指輪…校則違反ですよね?」僕は左薬指にしてある指輪を保健室の先生に見せる。すると先生は…
「そうね。普通なら没収…だけど君達は少し普通の生徒とは違うから、だから多少の校則違反は見逃すわ」普通の生徒とは違う…その言葉の意味を僕はすぐに理解した
僕と雪は学校と言う場所自体が初めて、だから先生達も気を使っているのだと…
なら海堂夏希はどうだ?先生が特別扱いする何かがある、例えば虐めとか…
アルクの事を疑っている訳ではないが、本人の口から直接聞かない限りは断言できない
そして僕と海堂夏希の共通の話題を見つけた。これしかない!僕は攻める
「君のバッグに入っているゲーム機…スイッチだよね?実は僕も持っているんだけど…」
そこまで言って海堂夏希の目が光るのを僕は見逃さなかった
episode海堂夏希2
今、彼はスイッチを持っていると言った?
持っているだけなら別に珍しい事ではない。クラスの子も別の学年の子も持っている様なゲーム機だからだ。しかし私が注目しているのはゲーム機ではなく彼だ!彼はおそらく私と同じ友達はあまり作らない人見知りタイプ、同族の私の勘がそう告げている。先程、話かけてきた雪翔子と言う先輩はカースト上位も狙えるタイプ、先程見せた笑顔がその証拠だ、私の苦手なタイプ…
告白すると私は生粋のゲーマーなのだ
一日中ゲーム三昧、そんな生活を送っている。ゲームは現実逃避するにも向いている。虐められている私の唯一の癒しだ。だがそんな私でも誰かと一緒にゲームをしたい衝動に駆られる時がある。そんな時はインターネットを使って対戦したり協力したりするのだが私は人見知りだ…ネットで叩かれないか…ネットでも虐められないか…そんな心配からか心から楽しむ事が出来ない…でも私と同じタイプであろう彼ならどうだ?この際、性別は問わない、大事なのは私と同じタイプで保健室登校をしている訳あり!これだけだ。だから私は勇気を出して彼の問いに答える事にした
「あ、あの!あの!あの!せ、先輩も…ゲーム…好き…なの?」私の勇気ある一言に彼は
「うん、好きだよ。僕はインドア派だからね」やはり私の勘は間違っていなかった。その嬉しさから次々と言葉が溢れてくる
「ど、どんなソフト持ってるの?あ、後、後、どんなジャンルのゲームが好き?そ、それから、それから!読みゲーはやる?」
「お、落ち着いて…先ずは自己紹介からしようよ?僕は星野翔太、そしてさっき自己紹介していたけど彼女が僕のこ、恋人の雪翔子、僕達は二人とも三年二組だよ」
いけない…いけない…私は同族を見つけた嬉しさから我を忘れていた様だ…
「私は海堂夏希、二年二組、よろしくお願いします。先輩方」
「よろしくお願いしますね。夏希ちゃん」
「よろしく、海堂さん」
雪先輩はいきなり下の名前で呼んできた!やはり苦手なタイプかも…でも星野先輩さっき雪先輩の事、恋人って言ってなかった?私の聞き間違いかな?
私は改めて聞いてみる事に…
「あ、あの…先輩方はお付き合い…なさってる?」
「はい!お付き合いしてますよ?」
雪先輩が満面の笑みで答える。
星野先輩と雪先輩が恋人?冷静そうに見えて私と同じボッチタイプの星野先輩と清楚で笑顔が似合う雪先輩が?そう言えば先生が訳ありと言ってた…深く詮索しない様にしよう
「えっと…海堂さん?失礼な事考えてない…?」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!」どうやら顔に出てしまっていたみたい…気を付けねば
「それでさっきの質問だけどソフトは大人気の対戦ゲームで好きなジャンルとかは特にないかな。だって色々なジャンルやるし、もちろん読みゲーもね。元々僕は本が好きで濫読するタイプだからね」
「人気対戦ゲームとはこれの事!?」私はスイッチを取り出してソフトを見せる。それは大乱闘対戦する大人気シリーズのゲームだった
「そう。それだよ、海堂さんもやっぱり持っていたんだね。明日コントローラー持ってくるから一緒にやろうか?」
「その必要はありません!こんな事もあろうかともう一つコントローラーあります」
そう、備えあればなんとやら、私は常にコントローラーは二つ持ち歩く主義なのだ
「じ、準備いいね…海堂さん」
「今日の昼休みにやろう!」私のゲーマーとしての実力、見せてあげよう
「で、でも先生が…」
「私は何も見てないわ」
「星野くん!頑張って下さいね」
「…わかったよ、お手柔らかにたのむよ、僕下手だから」
お昼休み…
「星野くん!じゃ〜ん!お弁当を作ってきました!」
「助かるよ」保健室登校でも給食の筈だけど何故、二人はお弁当?
「夏希ちゃんには話してなかったね。私達、しばらく食べ物は病院が決めたものしか食べれないんです」
「な、なんで…」と言い掛けて止める。訳あり…おそらく何かあるのだろう。私にも触れられたくない事がある様に二人にも触れられたくない事がある。私はそう理解し給食を食べる。因みに今日の給食はバターロールと小松菜のスープ、もやしのナムル、フルーツヨーグルトだ
しかし、彼女の愛妻弁当…少し羨ましいかも
見た目はとても美味しそうなお弁当…これで私の目の前であ〜ん、とかったら私は気まずくて保健室を飛び出すだろう
だが先輩達は常識がある方々の様で普通の会話をしていた
「味、大丈夫?」
「うん、僕好みの味だよ」
「よかったです!」
二人を見ていると何だか落ち着く…最初は警戒こそしたが実際、話をしてみると星野先輩は私と同じくゲームが好き、じゃあ雪先輩は?私が勝手に苦手意識を持っているだけできっと優しい方なんだろう…だから私は聞いてみた
「雪先輩の趣味ってなんですか?」
「私の趣味ですか?」雪先輩は卵焼きを突きながら考える
「やっぱり天体観測ですかね」
「天体観測…と言うと星を見るやつですか?」
「はい!そうですよ」
私は星に詳しくないが月と雪先輩…きっと絵になるんだろうなぁ〜と思った
「雪はもう一つ趣味あるよね?お化けとかそういうの好きっていう」
「失礼ですね!ミステリーがホラー好きと言って下さい」
「意外ですね。そう言えばこの学校の七不思議、知ってますか?」
「七不思議ですか?」案の定、雪先輩は食いついてきた。これは仲良くなるチャンスだ
「先ず一つ目はトイレの花子さん…」
「ありきたりだね。そんなのは迷信だよ」
「星野先輩はあまり信じないタイプですか?」
「いや、神様とかは信じるよ。でも幽霊は信じないね」
「もぉ〜星野くんはすぐに迷信って決めつける…夏希ちゃん、続けて!」
「は、はい!二つ目は誰も居ない音楽室からピアノの音が鳴る…」
「それを確認した人はいるの?」
「これは放課後、忘れ物を取りに来た生徒が実際に聴いたそうです」
「これは…霊障ですね!」
「いや、違うよ。その生徒は聴いただけ…つまり音楽室は確認していない。音楽室でたまたま先生が演奏してただけ」
「三つ目は美術室の絵画の目が光る!これはどう説明する?」
「霊障ですね!」
「月明かりの角度だね」
「じ、じゃあ四つ目の数える度に数が変わる階段は?」
「霊障ですね!」
「ただの数え間違えだよ」
「じ、じゃあ、じゃあ五つ目の体育館の電気が点滅するは?毎回、交換してるのにその電球だけ点滅するんです!これは私も見たよ!」
「霊障ですね!」
「電球を変えてるだけだよね?電線の不具合…電気屋にでも修理してもらえばいい」
「じゃあ、じゃあ、じゃあ夜に走る校長先生は…?」
「ご本人ですね!」
「本人だね」
「七つ目はないんですか?」
「七つ目を知った人は神隠しにあう…」
「つまり無いと…」
「星野くん!本ばかり読んでるからそんな頭になっちゃうんですよ!」
「僕は至って普通だよ…」そんな当たり前な会話に私は笑ってしまった。これが私が欲しかった学校生活なんだ
「ふふふ…あれ…」それと同時に涙が溢れてきた
「夏希ちゃん!大丈夫…?」
「海堂さん…」保健室の先生は今は居ない。それでも…この二人なら…いや、まだ出会って二日しか経っていない。しかも先輩だ…困らせる訳にはいかない
「大丈夫…た、ただ可笑しくて」私は何もない振りをした。虐めなんて話したくないから…だから笑った
昼休み半ば私は約束通り星野先輩と対戦ゲームをする事にした。ルールは1on1の2ストック制、アイテム無し、必殺技無しのガチ対決だ。私に1on1で勝とうなんて…この先輩、下手と言ってたけど実はかなり上手いんじゃ…
「じゃあ始めようか?」
「はい…」先ずはキャラ選び…ここから勝負が始まってると言ってもいい。星野先輩は何を選ぶ…?
「僕はランダムで」え…?
「ふ、ふざけてる?」
「ふざけてないよ?だってランダムの方が色んなキャラ使えて楽しいし」それはどんなキャラでも私に勝てると言っているの!?
馬鹿にされたものだ!私のゲーマーとしてのプライドがそれを許さない
「私は本気でいきます!」私はマイキャラクターとして毎回使っている。スピードで相手を一方的に攻められるキャラにした
ゲームが始まり先輩のキャラが表示される。先輩のキャラは剣を持ったカウンター系キャラだった。これは勝った!カウンターなど投げ技からのコンボで封じられる
「お手柔らかに頼むよ」
「いいえ!全力でいかせてもらいます!」
試合開始!
私は開始、一気に攻める!投げ技からのコンボ!これの繰り返し!相手には何もさせない!そして…
「星野先輩?」
「どうしたの?」
「弱過ぎる!何で!?」
「だから言ったじゃないか…僕は下手だからお手柔らかにと」
「私、挑発されてるのかと思いましたよ!それで本気出したら何ですか!」
「ま、まぁまぁ夏希ちゃん、落ち着いて下さい」
「僕は協力の方が好きなんだ」
「その気持ちはわからなくないけど…けど!私の気持ちを返して下さい!」その時、保健室の先生が帰ってきた…
「あらあら、青春?若いわね〜」変な誤解をされた…
episode海堂夏希2 end
それから一ヶ月が経った
今日は二月十四日
僕はいつもの様に病院で雪と待ち合わせし学校へと向かった
「来月で私達、卒業…ですね」
「正直、実感ないかな」
「そうですよね」
「今のところ動きはないね」
「夏希ちゃんも教えてくれないし…」そう…ここ一ヶ月、特に進展は無かったのだ。
海堂夏希と仲良くはなれた。だがそれで終わり…お昼休みに僕がゲームでボコられるだけ…そんな毎日だった。
僕達は保健室に着き先生に挨拶する
「そう言えば聞いたわよ?高校、受かったんだって?おめでとう!」
「ありがとうございます」受かったと言っても郵送で入学届を送り、合格通知が届いた…それだけだ。だから実感はあまりない
「これで心配なのはあの子だけね…」先生がそんな事を口にした。今、気が付いたが海堂夏希はまだ登校していないらしい
「あの子とは夏希ちゃんの事ですか?」
「い、いいえ!何でもないわ、ごめんなさい」このチャンスを逃す訳にはいかない
「先生…この学校に虐めはありますか?」
「き、急にどうしたの?」先生は突然の事でキョトンとしている
「いえ、ただの興味ですよ」
「ある訳ないでしょ?」先生は否定した
「そうですか。ではもう少し直球で聞きます。海堂夏希は虐めを受けていますか?」
「………」先生は何も答えない…これは肯定したも同じだ。僕達はようやく海堂夏希を救うスタートラインに立てた
「先生、私達は夏希ちゃんを大切なお友達だと思っています。だから…必ず私達が救ってみせます」雪は断言したが先生は悲しい顔をした
「その気持ちは嬉しいわ、確かに貴方達が来てから夏希ちゃんは元気になったわ。でも現実は残酷なの…私達、教師が出来る事は限られているし、本人がそれを望んでいない…私だって救いたいわよ?でも教師が関わる事で事態が悪化するの…それは貴方達も同じよ」
先生は子供を諭す様な優しい口調で言った
「それは…」雪も正論を言われ黙ってしまった。
「つまり、僕達が関わらずに虐めを解決すればいいんですね?」
「ほ、星野くん?そんな方法あるんですか?」
「星野くん…貴方の気持ちはわかるわ…でもそんな方法はないの…わかって?」先生の言ってる事は正しい…だがそれは常識ではの話だ
「きっと海堂は僕達が卒業する頃には普通の学校生活を送っていますよ」先生が何か言おうとしたがそのタイミングで海堂夏希が登校してきた
「あれ?皆んな揃ってどうしたの?」この様子だと聞かれていないか…雪も聞かれていないとわかったのか。いつもの笑顔で話しかける
「今、私達が高校を受かったというお話をしていたんですよ」
「本当ですか!?それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「ありがとう」スタートラインには立った。後は行動するのみだ
今日のお昼休み、いつも通り雪が作ってきたお弁当を食べる
「先輩、卵焼き下さいよー」
「駄目、これは僕だよ。雪がせっかく作ってくれたお弁当を誰かにあげる事はしない」
「ちぇ、雪先輩は愛されてますね〜」
「ほ、星野くんも夏希ちゃんも恥ずかしい事言わないの〜もぉーう…夏希には私の卵焼きあげる」海堂夏希…雪の扱いが上手くなってる…なんか悔しいなぁー
でもそんな光景はまるで姉妹みたいでとても微笑ましいものだった
「海堂さん、いつもの対戦、やるでしょ?」
「え〜先輩弱いんだもん…」それは否定できない
「じゃあ今日の対戦に負けた人は何でも言う事を聞く、それでどう?」
「先輩、それ本気!?そんなに私と対戦したいんですか〜?」海堂夏希は意地悪な笑みを浮かべた
「そろそろ決着をつけようと思ってね。それに罰ゲームがある方がやる気、出るでしょ?」そんな挑戦的な僕の態度にゲーマー魂に火が付いたのか
「わかった、完膚なきまでに叩きのめしますよ」これで舞台は整った…それは海堂夏希を救う戦いの始まりでもあった
ゲームの対戦は佳境を迎えていた
僕と海堂夏希は互角の戦いをしている
「ど、どうして!?昨日まで私が圧勝だったのに!?」
「それは簡単な話だよ。今までは手加減してたからね」今までランダムでキャラを選んでいた僕だが今日は自分の得意キャラクターを選んだ
「星野先輩にゲーマー魂は無いんですか!」
「あるよ。だから今日は本気を出して相手をしているんじゃないか」
「本物のゲーマーならいついかなる時も全力を出す!そう言うものでしょ!」
「僕はいついかなる時も全力を出していたよ。全力で、遊んでいたよ」
「なっ!?」海堂夏希の操作が乱れ始める。今、僕は精神攻撃を行なっているのだ」心が痛む…だけどこの戦いに勝てなければ海堂夏希を救えない…
「ゲームは本気で楽しむもの、違うかな?」
更に挑発する
「むぅ〜!正論ばかり言ってるとモテないよ?」相手も反撃してきたが効かない
「僕、か、彼女いるし…」やっぱり少し効いた…
「そうだった!?あー!」そんなやり取りをしているうちに決着がついた
「僕の勝ちだね」
「むぅ〜!私とした事が〜!」どうやら相当悔しいらしい。僕も少し罪悪感を覚えたが今後のためだ…そんな気持ちを抱いていると雪が僕を抱きしめてきた
「やりましたね!星野くん!」
そして小声で(星野くんは優しい人ですから…だから一人で抱え込まないで下さい)と言ってきた。どうやら雪には僕の感情などお見通しの様だ。(ありがとう)僕は小声で返す
気持ちを切り替え
「それじゃあ約束通り言う事を聞いてもらうよ?」
「ゲーマーに二言はありません!何でもこいです!」その瞳は潤んでいた…(だから罪悪感が…僕も泣くよ…?」
「じゃあこの学校を案内してもらおうかな?」その言葉に海堂夏希は、ぽかーんとする
「も、もう一度行って下さい!」
「だから、この学校の案内を頼むよ」
「そんな事でいいんですか?」
「僕達、一ヶ月で卒業でしょ?それなのにこの学校の事何も知らないから、お願いしたいなーと思って」これは本心だ
「……し、仕方ないですねー、案内してあげる」海堂夏希は少し躊躇したあとオッケーしてくれた。僕は心の中でごめん、と謝った。だってこのお願いは海堂夏希にとって辛いものだから…保健室登校の人が廊下を出歩く…しかも僕達とは違って海堂夏希の顔を知っている生徒が存在する…そんなの…公開処刑の何物でもない…だから僕は謝り続ける…ごめん…ごめんと…
episode海堂夏希3
それから一ヶ月が経ち三年生が卒業する日がきた。私は卒業式には参加していない。更に言うなら保健室にもいない
私は今、屋上にいるのだ。鍵を壊し屋上に侵入した…そして柵を乗り越える
そう…私は今から死ぬのだ…自殺…それが私が今しようとしている事
「お父さん…お母さん…ごめんなさい…」私は大切な家族に謝る
「それと、星野先輩…雪先輩…仲良くしてくれてありがとうございました…」ここで命を経つ私をどうか許して下さい…
私は一歩踏み出す…あと一歩踏み出せば落下するだろう。校舎は五階建て…この高さからなら確実に死ぬ…
「はは…ここに来て私は怖気付いてるの?」でも…ここから飛び降りればもう虐められずに済む…もう辛い思いをせずに済む
そう思うと自然と恐怖は治まってきた
私は屋上から飛び降りようとする…
その時!屋上の扉が勢いよく開いた。ああ、先生に見つかって止めに来たんだなぁーと思った
私は後ろを振り返る、そこに居たのは先生でもなく星野先輩や雪先輩でもない
一番会いたくない人物…私が世界で一番憎んでる人物…虐めの主犯格だ
その主犯格がこの世の終わりの様な顔をして
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、私、死にたくないです。ごめんなさい、ごめんなさい」と言ってきたのだ
その後に続いて先生達もやって来た、どうやら屋上に立っている私に気付いて来たらしい
その光景に私はビックリして一歩後ろに下がってしまった。後ろには地面なんてないのに…
海堂夏希3 end
Chapter2「虐めは殺人未遂」
何故、海堂夏希を虐めていた主犯格がこんなに怯えて謝っているのか…それは一ヶ月前の校内を案内するから始まっていたのです
勝負に勝った星野くんは夏希ちゃんに校内を案内する様に頼みました。それを渋々、承諾した夏希ちゃん
私達は昼休み後半に夏希ちゃんに校内を案内してもらいました。勿論、知らない生徒が廊下を歩いているのですから「誰?」「転校生?」などと言う声はあちらこちらから聞こえてきます。先ずは四階の一年生の階から…ここでは先輩達が歩いているのをみて恐縮する可愛い一年生達が見れました
そして夏希ちゃんのクラスがある二年生の三回を案内してもらってる時です
殆どの生徒が夏希の登場に唖然としたり嫌な顔をしたりでした。その中で唯一、声を掛けてきた女子生徒がいました。髪を後ろでまとめスカートの裾は校則より短く、目つきが悪い…それが彼女に抱いた第一印象でした。その彼女が言ってきました
「先輩達を連れて何か用事?」夏希ちゃんはおどおどし…
「えっと…す、少し学校の案内を…」
「へぇ〜みない顔だもんね?転校生すか?」
「まぁそんなものだよ」
「ふぅ〜ん、じゃあ邪魔しちゃ悪いね。また遊ぼうね。海堂さん?」そう言い残し女子生徒は去って行きました。夏希は安堵の溜息をついていました
夏希ちゃんは少し足早になり私達、三年生のクラスがある二階を案内してくれました。反応は同じ様で「転校生?」とかでした
最後は職員室や保健室がある一階を案内して昼休み終わりのチャイムがなり案内は終わりました
学校が終わり下校時間、私と星野くんはバスで帰宅します。星野くんは私に尋ねてきました
「今日の学校案内、どうだった?」
「なんか私達だけ場違い感が凄かったです…疲れました」
「そうだね、僕も疲れたよ」
「それなら何で学校案内なんてやらせたんですか?」
「君は学校案内に意味が無かったと思っているのかい?」星野くんが言っている意味が無いは、おそらく夏希ちゃんにとって意味があるか無いか、でしょう
「少なくとも夏希ちゃんの心の傷を開く様な行動だったと私は思うな」
「そ、それは…ごめん…」
「でも、これも夏希ちゃんを救う為にやった事、ですよね?だったら私の責任でもあります。星野くんが一人で抱え込まないで下さい」
「君は優しいね…本当に僕の彼女なのかい?」
「正真正銘!星野くんの彼女です!」そこで私達が降りる浅間神社のバス停に到着した
「僕は幸せ者だね」星野くんがそんな事を恥ずかしげもなく言う時は何かあります。これは長い付き合いだからわかる事です
「夏希ちゃんが誰に虐められてるか知る為にわざと学校案内させたんですよね?」
「…流石だね」
「そして対戦ゲームも昨晩、猛特訓した、というところでしょうか」
「君は僕の事を監視してるのかい…?」どうやら全部、図星なようです。ですが監視とは納得いきません!
「愛が為せる技です!」
「そ、そろそろ恥ずかしいならやめないかな…?」
「え〜私は照れてる星野くん見るの楽しいですよ?」もっと眺めていたいが話が進まないので仕方ありません…私は話の先を促します
「君は誰が虐めの主犯格かわかった?」
お昼の夏希を思い返します…ある生徒を前にして動揺した…その事を思い出し
「あのポニーテールの子…ですよね」それはもう確信でした。子供の頃から入院していると看護婦さんの顔色を窺ったり真似をして成長する事になります。そうなると人を観察する事に長けるようになります。それが生きる為に私達が身に付けた特技…とでも言いましょうか。そしてポニーテールの彼女からは私達を三人を見下す様な…そんな態度がみてとれました
「他の生徒達は動揺していたところを見るにおそらく主犯格の女をどうにか出来れば解決…と言うところかな?」
「でもどうやって解決しますか?保健室の先生には虐めに対して関わらないと言っちゃいましたよ?」
「それを今から考える」とても難しい事なのは私でもわかります。夏希ちゃんに勘づかれず、更には虐めの主犯格を更生させなければいけません。そんな都合よく事が運ぶ事はないでしょう
「う〜ん…難しいな」そんな会話をしているうちに分かれ道に辿り着きます。星野くんとはここでさようならです。あぅ〜
「明日から休日だしゆっくり考えるとするよ。じゃあまた月曜日に」星野くんは去ろうとしますがまだ大事な事が残っています!
「ま、待って下さい!」私が急に呼び止めたものだから星野くんは驚いています
「ど、どうしたの?」
「ほ、星野くんは今日、なんの日か知ってますか?」前に看護婦さんが言っていました。今日と言う日は男性にとってとても特別な日…つまり星野くんが知らないはずないのです。それなのに星野くんは…
「き、今日…?なんの日だったかな?」とぼけて知らないフリをしてきます。星野くんはやはり男らしくないです!やっぱり男としてはハムスターみたいに小ちゃいです!むしろハムスターに失礼かもしれません!仕方ありません!私から言いますか
「今日はバレンタインデーですよ?なので星野くん!受け取って下さい!」私は昨日、お母さんに教えてもらいながら作ったチョコレートを星野くんに渡します
「あ、ありがとう…」星野くんは顔を真っ赤にさせて照れています。可愛いです
「大切に食べるよ」
「はい!」私達は笑顔で帰宅するのでした
翌日の土曜日、私はお母さんにスマホを買ってもらいました。お家に帰り早速、星野くんの連絡先を登録しメッセージを送ります
(翔子です!スマホ買ってもらいました)
(よかったね)
(これでいつでも連絡し放題ですね)
(うん)
この素っ気無さ…まさに星野くん!
今、私は星野くんとスマホでやりとりしているんだ!そう思うと自然と笑顔になります
(夏希ちゃんの事、何かおもいつきましたか?)
(なにも)
私も一晩、考えましたがやはり何も浮かびませんでした…それもその筈です
今、私達がしようとしている事は、夏希ちゃんにバレずに主犯格の彼女に虐めを辞めさせる事…前に先生が注意して事態が悪化した前例もある為、下手に動けないのです…
それに主犯格の彼女は虐めを悪い事とは捉えていないのです。相手にいかに虐めはいけない事で悪い事なのか…それを伝える必要があります
返信に考えあぐねていると
(僕は、虐めは殺人未遂だと思ってる)そんな返事が返ってきて私は唖然とします。ですが…そうかもしれません。病院のテレビで虐めについて取り上げられた特番を見た事があります。それは酷い内容で吐き気がするぐらいでした…本当に同じ人間なのかと…そしてその対応もとても難しく国も問題視していると…
虐められてる子が先生に言うと勿論、先生は虐めている子を注意します。そうすると調子にのってるとかで虐めが更に悪化…そして先生に注意を受けた子が親に虐めてないのに怒られたと言い親が学校に苦情の電話を入れる。そうすると先生は何もする事が出来なくなる…そんな事の繰り返し…結局、学校は虐めを見て見ぬ振りをするしかない。完全犯罪も同然なのです。星野くんが言いたいの虐めをしている人は人間ではない…と言う事でしょう
私の中に潜む裏の顔が言っています
相手が人でなければいくらでも方法はあると…
私は星野くんには内緒でアルクちゃんと会ってた時の事を思い出します。あれは私達が初詣をした次の日の事でした
「雪さん…必ず私のお願いを叶えて下さい」
「勿論、そう言う約束ですし私で出来る範囲なら何でもしますよ?その事を確認する為に私をこの世界に呼んだのですか?」
「それもありますが…これからする話は星野さんには内緒でお願いします」私は訳が分からずに聞き返しました
「どうして星野くんには内緒なんですか?」私が尋ねてもアルクちゃんは答えてくれません…ただ、真剣な眼差しで私を見つめてきます。その瞳の奥に宿る何かに私は…これ以上聞く事は出来ませんでした。だから…
「はい、約束します」この時は覚悟なんてものは無かったです。そして真実を知りました
「星野さんは…もう死んでいるんです」私は何を言われたか分からず、しばらく何も言えずにいました。それをアルクちゃんは先を話して欲しいと言う事だと思ったらしく続けます
「お母さんのお腹から帝王切開で取り出された星野さんは既に死んでいる状態でした…でも私は星野さんのご両親から頼まれました。無事に産まれさせ成長を見守ると…だから私は禁忌を犯したんです」アルクちゃんは何を言っているの?星野くんがなんだって?星野くんが…既に死んでいる?
「私が犯した禁忌は私と星野さんを繋げる事…」アルクちゃん、冗談は辞めて下さい…
「雪さん?大丈夫ですか?」
「冗談ですよね?だって…だって…だって!星野くんは生きています!」
「雪さん!落ち着いて下さい!雪さん!」
「私は!落ち着いています!」私は落ち着いている…私は落ち着いて…いる。大丈夫…星野くんは大丈夫…星野くんは生きている。先ずは深呼吸、私は息を大きく吸いゆっくりと吐いた。大丈夫だ、だから続きを聞こう
「それで星野くんとアルクちゃんを繋げたとはどう言う意味ですか?」
「神様にも命という概念はあります。その事を理解したうえでお話を聞いて下さい」
私はこれから語られる内容に覚悟が必要な事を悟った
「既にお母さんのお腹の中で亡くなっていた星野さんに私は私の命を繋ぎました。もっと単純に言えば私と星野さんは一心一体になった…と言う事です」命を繋いだ…それはおそらく神様だから出来る技なのでしょう。しかし一心一体とは?
「つまりですね…私が死ねば星野さんも死にますし星野さんが死ねば私が死にます」
「だから一心一体…」星野くんの彼女としては複雑な気持ちです…
「神様の死の原理は前に説明しましたよね?信仰が無くなり忘れ去られると力を失って消えてしまいます。それが神様の死です」アルクちゃんが伝えたい事が何となくわかってきました
「つまり人助けをしてアルクちゃんの存在を認めてもらえばいいんですね?」
「理解が早くて助かります。因みにですが私が死ねば雪さんも心臓に受けた加護が消えて死んでしまう事も忘れずにお願いします」二つ確認しなければならない事がある
「私が死んでも星野くんとアルクちゃんは死にませんよね?」
「私は、死にませんよ?ですが星野さんはどうでしょう?肉体的に死ななくても精神的には死んでしまうと思うのです。だから雪さんも絶対に死なないで下さいね?私達は三人で一つ春の大三角形…でしょ?」
「はい!そうです!私達は春の大三角形です。それからもう一つ聞いておきたいのですが指輪がある限りアルクちゃんは消えないのでは?」
「それはわかりません…隕石は神でもわからない未知の物体です…ですので指輪の力が永遠に続くとは限りません。そういった意味でも保険は必要なのです。そしてその力が失われるのは今日かもしれませんし、明日かもしれないのです。だから…失敗は許されません!」なる程…確かに未知の力に頼り切りも心許ないかもしれません…
「雪さんだけに背負わせるつもりはありません!私も全力で協力します!」
そんなやりとりを思い出していました。そして私は提案をしました
「アルクちゃんに手伝ってもらうのはどうでしょう?」
「アルクに?」
「はい!きっと協力してくれると思いますよ?」
「面倒くさいとか言いそうな気がするけど…今は何でも試せ…か、わかったよ。明日の黄昏時にアルクの世界に行ってみよう」
そう言い星野くんは通話を切ろうとしますがまだ恋人として大事な事を言っていません!
「ま!待って下さい!」
「まだ何かあった?」これを言うのは恥ずかしいですが…
「星野くん!大好きです!」そして私はすぐに通話を切りました
とても恥ずかしく私はベッドの上で転がりまくります!そんな事をしていると星野くんからLINEのメッセージが届きました
(チョコレート美味しかった、僕も好き、おやすみ)
そんなメッセージを眺めて…私はスマホを胸に抱きながら更に転がるのでした!
アルクの力
1・神様は信仰を失うと消える
2・星野とアルクの命は繋がっている
3・指輪の力で今はアルクも消えずに済んでいるがその力はいつ失われるかわからない
4・アルクが消えれば命が繋がっている、星野も死ぬ、雪も加護を受けているので加護がなくなり心臓病が再発し死ぬ
5・アルクが消えない為に人助けをし上手い事アルクを信仰させる
6・星野の心臓はアルクがもっている。心臓を治してもらった代償
7・アルクがいる世界には黄昏時にしかいけない
8・アルクの世界に行ける鳥居は江戸川区ならどこでも出現可能。理由はアルクが江戸川の神様だから
9・アルクの世界には誰でも入る事が可能、その世界は現実と時間の流れが違う、性格には現実世界の一時間がアルクの世界では一分である
10・アルクの世界から出る権限はアルクが持っている。またヒメサユリと雪が降っている地形はアルクの趣味、好きな形に地形を変えられる
アルクの力 end
翌日の夕方、私は星野くんと合流します
場所は星野くんのお家です!私が星野くんのお家に行きたいと言ったら星野くんはすんなりオッケーしてくれました。今日、私はハムスターから狼になった星野くんに襲われるかもしれません…勿論、想定済みです
「何もない部屋だけど楽しい?」星野くんの部屋を笑顔で見渡す私を見て彼は尋ねてきます
「彼氏の部屋ですよ!楽しくない訳ないじゃないですか!」私が興奮気味で言うと星野くんは照れたようで顔を赤くします
「そ、それならよかった…ぼ、僕も君の家に行きたいな」
「いつでもいいですよ!今日、この後、来ますか?なんならお泊りしていきます?天体観測をしましょう!」更に興奮した私に彼は
「落ち着いて…どうどう」と言って落ち着かせようとします
しかし落ち着ける訳ないじゃないですか!?だって彼氏の部屋ですよ?病院の病室とは違って凄く彼の生活感がします!それに彼の匂い…これは興奮するに決まっています!
「君は会った時から変わってないね」
「人間そう簡単に変わりませんよ?私は私です!」
「そうだね。君は君だ」
「星野くん?彼女がお家に来ているんですよ?」
「そ、そうだね、ごめん、お茶入れ忘れてた」彼はお茶を入れに部屋を出て台所に向かいました…なる程…彼に狼になる気はないみたいです。少しガッカリした様な安心した様な不思議な気分になりました
彼がお茶を持ってきて…それから黄昏時まで他愛もない会話をしました。中学での出来事や昨日のやりとりの事…そんな会話をしているうちに黄昏時がやってきました
星野くんの部屋に鳥居が現れ私達は潜りました
「お久しぶりですね!星野さん、雪さん」アルクがお社に座って待っていてくれた
「久しぶり、アルク、本当に会いたい時に現れてくれるんだね」
「常に見ていますからね?星野さんの事」
「…怖いよ」
「そうです!彼女は私なんですから私の許可をとって下さい!」
「僕の意思は関係ないんだね…」
「それで私に何か用があるんですよね?」おふざけは程々にして本題に入ります
「夏希ちゃんを助ける為に力をかしてください!」
「お願いできるかな?アルク」私と彼は頭を下げます。アルクの答えは既に決まっていたみたいですぐに答えてくれました
「いいですよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「それで具体的には何か決まっているんですか?」私達は顔を見合わせて首を横に振ります
「現状、一番難しいのは虐めの主犯格をどう更生させるかだね。一時的じゃ駄目、海堂が安心して三年生を過ごせないといけないからね」星野くん言ってたじゃないですか?虐めは殺人未遂だって…虐めてる奴は人間じゃないって…
「星野くんは虐めの主犯格を殺してもいいと思いますか?」私の中にある裏の顔が心を蝕んでいく…彼が一人で行おうとしている事に怒っているから?いいえ、きっと違います…悲しいから…だから心が痛む…
私がそうなセリフを言ったのがよほど変だったのか彼が驚く…
「き、君はそんな冗談を言う人だったけ…?」
「私は冗談じゃないですよ?」
「虐めの主犯格を殺す…」
「虐めの主犯格のを殺してこの世界に隠すと言った方がいいですかね?」
「殺す…」やっぱり…星野は…
「夏希ちゃんだって死にたいくらいの精神的ダメージを負っているんです。主犯格は死んで当たり前…そう思ってますよね。星野くん?」
「……」彼は黙ってしまいます。だから私は言います
「これは昨日、星野くんが考えてた作戦ですよね?」
「君はどこまでも僕の考えがわかるんだね…」彼は観念したかの様に話始めた
「そうだよ。僕は虐めを行う奴は人間だと思っていない。だからといって動物とも思っていない…そして虐めは殺人だと思っている。だから僕は正当防衛が通じると思ってる…でもこの言い分は警察には通じないだろうね」
「星野くん…私はあなたを愛しています。それにもうすぐ出会って一年になります。だから昨日の通話で察してしまいました…」
「君は…反対するだろうね…君は優しいから」違います…違いますよ。星野くん…
「本当に優しいのは星野くんの方です。だから私には言わずに一人で実行しようとしたんですよね?」
「本当に…君には敵わないな…」彼は涙を流し始める
「僕は海堂さんの事を大切な友達だと思っている…だから許せないんだ…彼女を虐める奴を…でも方法がこれしか無いんだ…」私は彼を抱きしめる。そして優しくいいます
「星野くん、人を殺したらその人こそ人間ではなくなります。だから他のやり方を考えましょう?私は絶対に星野くんの味方です。でも星野くんの考え方は間違ってません。虐めをする人は人間ではない…これには私も同意します。だからこそ人間じゃないものから人間へ更生させるのですよ?」
「でもどうやって…?そんな方法はないよ…」私はゆっくり…彼を諭す様にいいます
「アルクちゃんが力をかしてくれるんですよ?」次第に彼は落ち着きを取り戻します。しかし体は私に抱きしめられたままです
「僕はアルクの…この世界を利用して犯行を行おうとした…」
「その考え方は間違ってませんよ。この場所に主犯格の子を連れて来て怒ればいいんです。そして更生するまでこの世界から出してあげない…これが私の考えた作戦です」だから星野くんまで人間を辞めないでください
「もう二度と殺人をしようと考えない…約束できますね?」
彼はゆっくりと頷く
なんで彼が殺人を犯そうとしたか…昨日私は一晩中その事を考えていました。そして辿り着いた答えはとても簡単でした
彼には親がいない…何がいい事で何が悪い事かわからない…だから殺人の重さも知らないで育ってしまった。本来は親がやっていい事とやっちゃ悪い事を教えるものです。でも彼にはそれを教えてくれる人がいなかった…ただそれだけの事…だから私は決めました。彼の家族となり親が与えられなかったもの全てを与えてあげようと…
「これからは私は家族です!結婚は…まだ出来ませんがそれでも…家族です」
「うん…うん、ありがとう…ありがとう[雪]」
え…?今、星野くんは私の事をなんと呼びましたか?
「い、今なんて私の事を呼びました…?」
「〜〜〜」星野くんは私の胸に顔を埋めてしまいます。ここから表情は伺えませんが耳が真っ赤になっているのだけはわかります
「だ、だから雪…」
「〜〜〜」私は嬉しさのあまり声にならない程の喜びの奇声をあげました。だって!だってですよ?彼は一度たりとも私の事を呼んだ事はないのです!いつも私を呼ぶ時は「君」でした!それが!それが今!雪と確かに呼んでくれたのです!実はとても気にしていたのです…私はいつも君、呼ばわりされているのにアルクちゃんはアルク、夏希ちゃんは海堂さんと呼んでいるのに!!!と…それが!それが!今ようやく私の事を雪と呼んでくれました!私は彼を更に思いっきり抱きしめます。私の愛をたくさん注ぐ為に…
彼はジタバタしますがお構いなしです!今の私は誰にも止められません!私は猛烈に幸せなのです!
「あの〜雪さん?お邪魔だと思ってずっと黙っていたのですが…」アルクちゃんが話かけてきますが…
「アルクちゃん!聞きましたか!?星野くんが私の事を雪と呼んでくれました!」
「はい、ちゃんと聞いてましたよ」第三者から確認した事で私のテンションは更に上がります!
「あの…嬉しいのはわかりますが…そろそろ星野さんを解放しないと窒息死してしまいますよ?」私はその言葉に我に返ります!彼を見ると私の胸に顔を埋めたままぐったりしていました。私は慌てて解放しました
「……胸は…凶器になるんだね…」
「ご、ごめんなさい!星野くん大丈夫ですか?」彼はゆっくりと起き上がります
「雪の胸…大きんだね…もう甘えるのはやめるよ…」そ、そんな!私に甘える可愛い星野くんが見れなくなるのは嫌です!
「Dカップはありますからね!それよりもっと私に甘えて下さい!」
「D…?よくわからないけど…まぁ落ち着くのは確かだしたまに甘える程度なら…いい…かな?」照れながら彼はまた甘えてくれる事を約束してくれました
「そ、それより雪も甘えてくれてもいいんだよ?」彼だけが甘えるのが恥ずかしい様です
「星野くんがもっと頼りになるハムスターになってくれたら考えてもいいですよ?」
「ハムスターである限り無理なのでは?」当たり前です!歳は同じでも私の方が早く産まれた、お姉さんなのですから!
そんなやりとりを見ていたアルクちゃんが笑いました
「はははー!人って面白いね〜」
「アルクちゃんも人ぽいですよ?」アルクちゃんは笑ってできた涙を目に溜め込みながら答えます
「私は人の姿をした神様ですよ?私が人間らしく見えるのは星野神社の人達が私をその様に育ててくれたからでしょうね」
「育てたと言うのは崇めた奉った事?」
「はい!あっ!でしたら星野さんは私の弟になるんでしょうか?」悪戯ぽく笑いながらアルクちゃんはとんでもない事をいいます。流石の彼もむかついたのか反論します
「待って!僕が弟?それは無理がある」そうです!例え神様で何百年、生きていたとしても見た目は子供なのですからせめて兄と呼ばれるべきでしょう。そして私と彼が結婚すればアルクちゃんは妹に…
「血は繋がっていないんだ、責めて義弟じゃないかな?」やっぱり私の彼氏はズレているのでした…
それからしばらくして、お社に座り、アルクちゃんにどう協力して欲しいか言います
「先ずは先程も言った通り主犯格の人物をこの場所に送り込みます」
「この場所なら何時間いようと現実世界では時間は経たないんだよね?」
「正確には違います。この場所はお二人の住んでる世界とは時間の流れがとても遅いんです」
「それなら作戦には支障ありませんね。この場所で更生する…つまりもう虐めはしないと思わせるまで閉じ込めます」
「説得だと根気のいる作業になるよ?」
「説得ではありません。脅迫です!」
「脅迫?」星野くんは眉を潜めます。その疑問に私は笑顔で答える
「はい!こんな不思議な場所に閉じ込められるんです…きっとパニックなるでしょう
そこで神様のアルクちゃんが虐めをもう辞めるなら元の世界に帰してあげるといいます」
「なる程です。私は神様役ですね」
「僕はどうすれば?」
「星野くんは私と一緒に神様の遣いをします」
「つまり神様を守る役だね」
「それだけではありません、場合によっては脅迫も行います」
「武器とかは必要?」
「そうですね…脅しに適した武器なら必要になるかもですね」
「わかった」
「厄介なのは相手が走って逃げた時です…この雪道で走るのは今の私達では辛過ぎます」
「それなら心配無用です!」アルクちゃんは立ち上がると右手を上げます。その瞬間…景色が歪み見慣れた光景に変わります
「これは…僕達が入院していた病院?」
「はい!この場所は私の力で作られたものです。つまり地形や物体は好きに作り変える事が出来ます」
「ヒメサユリが咲いてた雪の場所は?」
「私の趣味です!」周りを見渡すと病院だがお社と鳥居だけは残っていた
「あのお社から元の世界に帰れますか?」
「帰れませんよ?私が帰さない限り」つまり地形も物もこちらが有利な物に出来るという事ですか…これは作戦の幅が広がります
アルクちゃんが地形を元に戻します
「アルクが神様みたいだね…」
「私は神様ですよ!?」その後も段取りが進み…後は決行日だけになりました
「決行はいつにするの?」
「まだ決めていませんが…夏希ちゃんが自殺する前じゃないと意味がありませんよね…」
「その事ですが多分、お二人の卒業式の日ではないかと思いますよ?」私達は驚き、アルクちゃんの方を振り向きます
「何でわかるんですか?」
「それを話すには先ずなんで私が海堂夏希さんの自殺がわかるかを説明する必要がありますね」どうやらちゃんとした原理があるようでした。でも前は名前以外わからないと言っていたような気がします
「私は…勘はいい方なんです!」あまりに予想外の言葉過ぎて私達は、ぽかーんと口が開いたままになってしまいます
「と言うのは冗談半分で…」
「全部冗談じゃないんだ…」
「星野さんがはめている指輪ですよ」
「この指輪に何かあるの?」
「その指輪を星野さんにあげてから未来が見えるんです」
「つまり?」
「隕石のおかげですね」私達はまた口をぽかーんと開けてしまいます…そして私は込み上げてきた感情を爆発させます!
「さ…流石は隕石!無限の可能性を秘めているだけはあります!」
「雪さん…?」
「雪はオカルト系が大好きなんだよ。幽霊や宇宙人、UMA、不思議な現象…とかね」
「だって!これは新発見ですよ!論文を出せばノーベル賞ものです」
「雪は放っておいて、もうちょっと詳しくお願いできるかな?」
「その指輪を星野さんに渡してから星野さんの身の回りで起こる事がわかる様になったんです。これは私の予想ですがお母様の影響だと思います」
「僕のお母さんの影響?」
「簡単な話ですよ。我が子を大切に思う…そんな力が働いているんだと思います。だって私が見えていた方ですよ?そんな力を持っていても不思議ではありません」私は我に返ります
「つまり星野くんの近くで起こる事や起こってる事がわかると言う事ですか?」
「そうなります。そして昨日です。見えたんですよ。屋上の柵を乗り越えている海堂夏希さんが…校門には卒業式の看板がありました」
「でも最初は自殺する事しかわからなかったんですよね?」
「最初はお葬式で泣いている星野さんの姿で次にスマホで海堂夏希さんから遺書の様なメッセージが送られていました」
「未来予知と同じですか?」
「映像ではなく写真の断片みたいな感じで見えます」私はふと思った事を口にします。誰もが思うであろう最悪の事態です…
「それは…決められた未来なんでしょうか…?」その言葉に二人とも黙ってしまう…
「僕達が行動した結果…それでも自殺した…と言う事?」
「勿論、その可能性でもあり、私達が行動しなかった可能性でもあります…」
「雪、それは心配要らないよ。僕のお母さんがこの力を与えたなら僕を悲しませる事はしない筈…未来は変えられるよ」星野くんの瞳は自信で満ち溢れていました…
「ご、ごめんなさい…いらないことを言いましたね」
「雪さんの疑問は最もです…でも私も星野さんのお母様を信じます」全く私は駄目ですね…恋人の親を信じられないとは…酷い話ですね…反省です!
「そうですね!信じましょう」
「そろそろお開きにしないかな?僕はもうクタクタだよ…」体感ではもう三時間ぐらいこの場所にいた気がします
「色々、段取りも決まりましたし明日は月曜日で学校ですからね」
「では元の世界に帰しますね?またお会いしましょう」
「またね!アルクちゃん!」
「またね、アルク」
それから私達、二人は頻繁にアルクちゃんの世界に行き作戦を修正したりしていきました。それと同時に夏希ちゃんと更に仲良くなりLINEを交換したり遊びに出掛けたりもしました。勿論、星野くんも一緒です
お昼休みにはいつも対戦ゲームをしています。どうやら夏希ちゃんはあの時、星野くんに負けたのが悔しかった様で…
「星野先輩にはもう二度と負けないから!」と言って勝ち続きです。そんな楽しい平和な生活が続き…早いもので私達が中学を卒業するまであと一週間になりました
今日は私のお家の屋上で天体観測です!
「へぇ〜ここからだと江戸川が一望できるどころか千葉県まで見えるんだね」と星野くんは屋上の景色に感動していました
「星野先輩って意外にロマンチスト?」夏希ちゃんは彼を揶揄う様に言います
そう!今日の天体観測は夏希ちゃんも一緒なのです!天体観測は初めてらしく今日を楽しみにしてくれていました!
「失礼だね。海堂は」
「星野くんはロマンチストですよ?私とお付き合いする時も指輪を…」
「あれは君がやったんだよ…」
「そ、そうでした…」夏希ちゃんはやっぱり年頃の女の子だからかこの話にくいつきます!
「どっちから告白したの?星野先輩から…は性格的に無さそうだからやっぱり雪先輩から?」
「ど、どっちでもいいよ。大事なのは今、好きな事なんだから」星野くんはさらっと恥ずかしい事を言います…
「きゃー!星野先輩、大胆ですね〜」
「ほ、星野くん〜!」
「たまには仕返ししないとね」彼は少し得意げな表情で私を見てきます。今日は私の負けです…まさか星野くんがこんなにも大胆に仕掛けてくるとは思いませんでした…私は仕切り直す様に咳払いをし
「そ、それでは月の観測をしたいと思います」夏希ちゃんは待ってました!と言わんばかりに拍手してくれます
「それでは星野くん?テストです!二分で天体望遠鏡を組み立てて下さいね」最近はこうして彼に天体望遠鏡を組み立てさせ、レンズ調整させるのが天体観測をする時のお決まりになっていました
「二分もあれば充分だね。まかせてよ」頼もしい返事です!スマホのタイマーを起動し
「それではスタート!」私の合図と同時に彼は先ず三脚を広げて脚の長さを三つ揃えます。そして次に三脚の下にアクセサリー置きをセットし三脚は完成…ここまで三十秒です。次に鏡筒の三脚にセットする為、持ち上げ固定ネジで固定します。鏡筒を固定させたら次はポインターを月に向けレーザーポインターで角度調整…最後にレンズ調整し…
「終わったよ」時間は…一分十二秒
私はレンズを覗き、月が見えるのを確認すると…
「合格です!」と言いました。これは将来有望です
「へぇー星野先輩、手際いいですね」彼の作業を見ていた夏希ちゃんが驚いた声で言う
「雪に鍛えられたからね…失敗する度にジュースを奢らされたものだよ」
「毎日、お弁当を作ってる対価です!」
「美味しい、お弁当には感謝してるよ」
「病院でお料理のお勉強しか甲斐がありました!」私は彼を見つめる…彼も私を見つめる…
「ストップ!ストップ!二人の世界に入らないで!」あ、危ないところでした…夏希ちゃんが目の前にいるのを忘れてました…
「それでは夏希ちゃん、レンズを覗いて見て下さい」そう言うと夏希はレンズを覗く
「わぁ〜凄い!」それは心から感動しているのが伝わるぐらい透き通った声でした。そんな声に私は嬉しくなり自然と笑顔になります
「星野先輩も見ますか?」
「僕は後でいいよ」星野くんも気付いているのでしょう。夏希ちゃんの笑顔に…
初めて会った時の夏希ちゃんは私達に警戒してベッドのカーテンに隠れていました。まるでこの人達は自分を虐めるんじゃないか…そんな視線を私は感じでいました。それが星野くんのゲームという発言に反応し、ゲームという娯楽で仲良くなり、海堂夏希という存在は自分を取り戻していきました。そして…今、私達に見せている笑顔はきっと本来の夏希ちゃんの笑顔…私達が見たかった、笑顔…
こんなにも可愛らしい笑顔を奪った虐めの主犯格は許せません…ここ何週間の調査でわかった事、それは虐めの主犯格は全く悪いと思っていない事…それに二年二組は虐めという腐った絆で結ばれている事…きっと虐めの主犯格は将来、虐めていた事などさっぱり忘れて生活していくのでしょう。ですが夏希ちゃんは…夏希ちゃんが負った心の傷は永遠に癒える事はないでしょう…例え虐めの主犯格が更生して謝ったとしても…例え虐めの主犯格が虐めの罪の重さを知り自殺したとしても…夏希ちゃんは消える事のない傷を負って生きていかなければいきません。だから私達が卒業式当日に実行する行動はきっと正しい…例え世間ではグレーゾーンにあたる行動でも…私達は無邪気に笑う夏希ちゃんをいつまでも眺めているのでした
「今日、海堂さんは雪の家に泊まるんだよね?」
「はい!その予定です」
「それじゃあ僕はそろそろ帰るよ。雪、後はよろしくね?」
「はい!任せてください!」
「ちょっと〜先輩方?私は先輩方の子供じゃないんですよ?」そんなやりとりに私達は笑います
星野くんを玄関まで送り、私は自分の部屋に戻ります
「久々のお泊りだ〜!」
「夏希ちゃんは友達のお家でお泊りした事あるの?」
「ありますよ?でも同級生の家だから先輩の家に泊まるのは初めてだな〜…少し緊張してきたかも…」
「自分の家だと思ってくつろいで下さいね?」今日、お母さんはお仕事で遅くまで帰って来ないのでお夕飯を作らなくてはいきません
「私、夕飯の支度してきますね?」私が部屋から出て行こうとすると…
「あっ!雪先輩、私も手伝いますよ!」と言われます。ですが夏希ちゃんはお客様、ここは断るべきでしょう
「大丈夫ですよ。夏希ちゃんは待っていて下さいね」
「先輩…なんか笑顔が怖い…」どうやら私も緊張しているようです…そういえばずっと入院生活でお友達をお家に泊めるのは初めてでした…今更、その事に気付く
私は台所に行き事前に買っておいたカレーの材料を冷蔵庫から取り出します
玉ねぎ、ジャガイモ、ひき肉、カレー粉(中辛)
人参は私が嫌いなので入れないです!絶対に!
カレーは四十分で出来ました。お皿に盛り付けて…と、完成です!私は夏希ちゃんを呼びに行きます
「夏希ちゃん、夕飯できましたよ〜」夏希ちゃんはスイッチでいつもの対戦ゲームをしていました
「あ!は〜い」夏希ちゃんはゲームを中断する。私はリビングに向かいます。その後を夏希ちゃんがついてきます
「あのゲーム、そんなに面白いんですか?」私は前々から気になっていた事を聞いてみます
「凄く面白いよ!雪先輩もやりませんか?」
「私は遠慮しておきます。見ている方が好きなので」
「雪先輩はやっぱり星野先輩の事を応援しているんですか?」
「私はどちらも応援してますよ?」それは私の本心です。リビングに着き椅子に座ります
「わぁ〜カレーだ!」
「お口に合えばいいけど…」
「いただきます!」
「召し上がれ」夏希ちゃんはスプーンでカレーをすくい、口に運びます
「お、美味しい!」私はほっとします…
「お口に合って良かったです」
「何言っているんですか!?毎日、学校で美味しそうなお弁当持ってきておいて!」
「あれは病院の献立を参考にして作っているから…」
「そう言えばお二人は訳ありと聞いていたけど入院してたの?」そう言えば話していませんでしたね
「そうですよ。学校から見える病院がありますよね?そこの病院で入院してました」
「なんの病気だったんですか?」その言葉に私は答えていいか躊躇います…その僅かな沈黙が夏希ちゃんには聞いちゃいけない事と思わせてしまったようで
「ご、ごめんなさい!誰しも聞かれたくない事、ありますもんね」
「う、ううん!気にしないで」夏希ちゃんには悪い事したかな…?でも心臓病と答えたらもっと心配させてしまうでしょう
その後、夏希ちゃんはカレーにガッツいて三杯もおかわりしました。作った側からしたらとても嬉しい事です!
それから私達は一緒にお風呂に入ります
「それで結局、どちらが告白したんですか?」お風呂に浸かりながら夏希ちゃんは聞いてきます
「どちらかと言えば私から…ですかね」私は体を洗いながら答えます
「星野先輩って臆病そうですもんね〜」
「確かに甘えん坊な一面はありますが決して臆病じゃないですよ?」
「そうなの?」
「私だけが知っている星野くんの一面もあります」
「例えば?」
「内緒です!」
「気になる〜!」これがガールズトークと言うのでしょうか?私は恥ずかしくてきっと顔が真っ赤です…でもお風呂なので誤魔化せますよね?
お風呂から上がり、後は寝るだけです。ですが、私達は夜が明けるまでお喋りし続けました。これがお泊まりの醍醐味なんだなぁ〜と私は実感したのでした
そして卒業式…運命の日がやってきました。私達が作戦を実行する日です
私達はいつも通りに保健室に登校します
「おはようございます!先輩方!」夏希ちゃんは既に登校していました
「おはよう」
「おはようございます!」
「ついに今日、卒業ですね。おめでとうございます!」
「まだ気が早いよ」
「それに私達が卒業式に参加するのは午後部からです」卒業式は二回行わられます。一回目は普通の生徒達の卒業式、二回目は特殊な事情をもつ生徒達の卒業式…私達は後者の方の卒業式に参加します
「今日で先輩方とお別れかぁ〜」
「別に永遠の別れって訳じゃないよね?LINEで連絡とれるし、会おうと思えば会えるよ」
「……」その言葉に夏希ちゃんは反応しません…
「夏希ちゃん?」
「…あ、ごめんなさい…少し考え事を…」夏希ちゃんは何を考えていたのでしょうか?
「そ、それより!星野先輩からLINEと言う言葉がでる事に驚き!」
「なんで?」
「だって星野先輩、LINE返事、短いんだもん!顔文字とかつけて欲しいです!」
「用件をスマートに伝えるのが一番だよ」
「怒ってるのかな?とか思うじゃん!」
「そ、そうなの?」星野くんは私の方を向き意見を求めてきます
「そうですね。少し機嫌が悪いのかな?とかは思っちゃいます」
「雪まで…次から顔文字つけて送るよ」
「そうして下さい!」
「海堂さん、僕も君に言っておきたい事があったんだ」
「なんです?」
「なんで敬語になったりタメ口になったりするのかな?」
「え?私、そうな喋り方になってます?」思い当たる節が無いのか夏希ちゃんは不思議そうな顔をする
「なってますよ。これは私の考えですが夏希ちゃんは先輩に対して慣れていないのではないでしょうか?」
「し、仕方ないじゃないですか!私、人見知りだし…すみません…」しょんぼりしてしまいました…
「僕が言いたいのは僕達は別に敬語だろうとタメ口だろうとどっちでもいい…ただ海堂さんは大切な友達だから素の姿でいて欲しんだ」そんな星野くんの言葉に夏希ちゃんはぽかーんと口を開いたまましばらく停止してしまいました。私も星野くんの後に続きます
「私も、素の姿の夏希ちゃんの方がいいです!だって私は、夏希ちゃんが大好きですから!」
episode海堂夏希4
私は星野先輩と雪先輩の言葉を聞いてどんな顔をしていたか…?そんなのわからない、でも自分の瞳から熱い液体が流れるのがわかる。そんな私を雪先輩が抱き締めてくれる。それはとても温かく…例えるなら、そう、母親に抱き締められた時と同じ感じだ。そんな雪先輩の胸の中で私は堪えていた感情が爆発し…温かな胸の中で優しい鼓動を聞きながらただ泣きじゃくるのでした
それは嬉しい涙なのか?それとも悲しい涙なのか?そんなのはわからない
それでも確かなのは…私も星野先輩と雪先輩が大好きだと言う事だけだ
その後すぐに保健室の先生がきて何事かと驚いていたが、先生はすぐに理解してくれた。だって今日は卒業式なのだから…私が先輩方の前で泣いていても不思議じゃない。それに先生は何だか嬉しそうにしていました
それはきっと私に信頼できる親友が出来たから…
だからこれから起きる事に私は耐える。絶対に耐えて見せる
それは今日の朝の事だった
スマホに着信があったのだ、私は通話相手の名前を見てゾッとした…その相手は私を虐めている人物だったから…二度と会いたくない相手からの通話…普通は出ない、でも出なければまた虐められる…だから私は通話に出た
「も、もしもし…」私の声は緊張で震えていた…
「海堂さん、おはよう、突然だけど今日、学校が終わったら二年二組に来て?これ、命令だから、来なかったらあんたが仲良くしてる先輩達がどうなっても知らないから、それじゃあ」相手は用件だけ伝えるとすぐに電話を切った。私を呼び出して何を考えているのだろう?それよりも恐ろしいのは最後に言った言葉だ…私が仲良くしてる先輩達…?真っ先に星野先輩と雪先輩が頭に浮かぶ、相手は先輩方に何をするというのか…いや…大丈夫、私が二年二組に行けばいいのだから…先輩方には手を出させない!絶対に!
学校が終わり夕方…今頃、星野先輩と雪先輩は卒業式の第二部に出ているのだろう
私は二年二組の教室の前にいた…
何度か深呼吸し決意して教室の扉を開ける
扉を開けた瞬間、何かが私に向かって飛んできた、私はそれに直撃する…そして足元に落ちる…それはチョークだった
「ナイス!」教室の中には複数の女子生徒がいた、その真ん中には今日、私を呼び出して来た虐めの主犯格がいた
チョークを投げたのはその隣にいる取り巻きのようだ
「いやー正直、先生とかだったらどうしよかとも思ったけど、あんたで良かったわ!」
あっははは!と周りの取り巻きが笑う
私は突然の事で何も出来ないでいた…
「あんたさ!最近、仲良くしてる人いるよね?名前知らなけど、男と女の二人」
星野先輩と雪先輩の事だろう
「ムカつくんだよね〜あんたみたいなゴミが楽しそうにしてるのさぁー」
何で知ってるの?そんな疑問が顔に出ていたのか答えてくれた
「あんた前に学校を案内していた事あったじゃん?あの後さ、跡を付けてみたんだよね〜そしたら、楽しそうにお喋りして?笑って?…あんた調子にのってない?先輩と仲良くなって私達から逃げる気だったの?でも残念!その先輩達は今日で卒業!そしてあんたはまた一人ボッチ」取り巻きが私に向かってまたチョークを投げてくる。正直痛くはない…でもとても不快な感覚が込み上げてくる
「せ…先輩達は関係ないよね…?」これがせめてもの私の抵抗だった
「まぁ一応、先輩だし?大目に見てあげるつもりだけど?それはあんた次第、先ずは土下座しな?調子にのってすみませんでしたってさ」誰かと仲良くしただけで調子に乗ってる?調子にのってるのはそっちでしょ?私はそう思いながらも大人しく従うしかない…私は彼女達の前に行き土下座しようと膝をつく…その瞬間、無防備になったお腹を蹴られる。私は後ろに飛ばされて無惨にも床に転がる。あまりの痛さに私は咳き込む…
あっはははは!彼女達が一斉に笑う
「あんたさ!どんだけその先輩が大事な訳?ウケるー!そういうのマジ無理ー!」
いまだに立てない私に向かってまたチョークを投げて来た…
「そうだ!いい事考えた!あんたさ、屋上から飛び降りなよ?そうしたら先輩達には手を出さないであげる」流石に言い過ぎだと思ったのか取り巻きの一人が「やりすぎじゃない?」と言う、だが彼女は視線で黙らせる。この行動だけで彼女がどれだけこのクラスで偉い立場にいるかわかる。いわゆるカースト一位なのだ
「噂に聞いた話だとあの先輩達、入院していたらしいじゃん?私のお父さんの圧力で就職出来なくしてあげてもいいけど?」彼女がカースト一位の理由、それが父親が大きな会社の社長だとか…だから皆んな彼女には逆らえない、だから彼女は調子にのる…
先輩方には手を出させない…絶対に!そしてもう一つ私の頭の中で案が浮かぶ、もし私が死ねば彼女を社会的に陥れる事が出来るのではないかと…馬鹿な考えかもしれないが虐めを受けている人が最終的に至る場所だろう
「いいよ…屋上から飛び降りればいいんだね」私は教室から出て屋上に向かう…誰かついて来てないか後ろを見る
「誰もついて来てない」私は最後の切り札を使う。それはスマホだ、実は教室に入る前に録画モードにしていたのだ…それを、星野先輩にLINEで送る、私の遺書も文章に加えて…私は屋上に辿り着く、そこから見える景色はまるで私を天国に誘うかの様な綺麗な景色だった。確か黄昏時だけ…?私は屋上の柵を乗り越える。これで私が死ねば彼女に大きなダメージを与えられる筈だ…星野先輩ならきっと送った遺書と動画を警察に見せて彼女を社会的に倒してくれる…
そんな事は叶わないのは頭のどこかで理解している。どうせ彼女の父親に揉み消されるだけだろう。それでも彼女には私を殺してしまった罪悪感を一生味合わせる事ができる
だから…これがせめてもの私の抵抗…
episode海堂夏希4 end
Chapter3〜海堂夏希と言う人間〜
今、僕達は卒業式に参加している。事になっている。実際はアルクの世界に居た。僕達は作戦実行の為、卒業式には参加しなかったのだ。この場所には僕と雪とアルクが居る。アルクの姿はいつもの白いワンピースだが僕達は黒いレインコートを着ていた。そして手にはエビ鉈がある。黒いレインコートはお店で買った物、エビ鉈は委員長先生の家にあったものだ
「準備はいい?」
「私はいつでも大丈夫です!」
「アルクは?」
「はい、大丈夫ですよ」
「じゃあ最後の確認」
顔を見られない為にレインコートにフードを被る。アルクは神様なので顔を見られても社会的に大丈夫
僕の手にはエビ鉈が握られていた。先端が前に尖っているのが特徴だ
そして作戦はこうだ。先ずアルクの世界に虐めの主犯格と取り巻きを呼ぶ。そしてアルクが一芝居し鬼ごっこを開始する。地形の形は僕達が通う中学校の校舎の中、開始場所は二年二組、外には出れない。鬼は僕と雪、逃げるのは虐めをしている奴ら、僕はタッチする代わりにこの鉈で虐めを行った奴を斬る…のは冗談で斬るフリをする。上手く角度を調整して他の人達からは本当に斬られた様に見せる。実際は斬っておらずアルクの力で外に逃すだけ…だが他の人達から見るとエビ鉈で斬られて消えた様に見える訳だ。そしたら嫌でも信じるだろう…この鬼ごっこの恐怖に…僕達は体力がないので雪と交代交代に行う。取り巻きから斬っていき最後に主犯格を追い詰め約束させる。もう二度と虐めはしない…と、その時には主犯格も恐怖で肉体的にも精神的にも限界だろう。きっと約束してくれる筈だ。これが雪が考えた作戦。そして今から僕達が行おうとしている事だ。
「じゃあアルク、鳥居を虐めてた奴らの前に頼む」
「了解!」
最初が一番の難関だ。黄昏時しか現す事の出来ない鳥居に果たして全員、もしくは主犯格だけでも入ってくれなければその時点で作戦は失敗する
僕は強く祈る…どうか鳥居に入ってくれ…と
その願いは通じたのか六人が入ってきた
虐めてた奴ら全員かわからないが、僕は確認した…そこに主犯格の彼女いた事を…さぁ作戦開始だ
「ようこそ、私の世界へ!私は神様のアルクです。どうぞお見知り置きを」彼女達は何が何だかわからない様子だ。それはそうだ。突然現れた鳥居を潜ったら変わらない景色…二年二組なのだから、変わったのは目の前に僕達が現れた事だけ…
「は?あんたら誰?」主犯格の彼女が言う
「だから最初に言いましたよ?私はアルク、そしてこの隣にいる二人が遣いの者です」
「さっきまで居なかったよね?それになんか変な門が出てきたし…なんなの?」
「あれ?皆さんは知りませんか?学校の七不思議」アルクが一芝居する
「七不思議って…確か全部くだらないやつだよね?」取り巻きの一人がそんな事を言う。そう僕達は学校の七不思議を利用する事にした。誰でも知っていると海堂さんから聞いていたからだ
「七不思議の七番目、あなた達は神隠しにあいました!おめでとうございます」アルクは手をパチパチさせ拍手をする。その姿が気に障ったのか取り巻きの一人がアルクの胸ぐらを掴もうとする
「あのさ、いい加減な事ら言ってると私達怒るよ」僕はエビ鉈でその取り巻きに斬りかかる。角度はバッチリ、頼むよ?アルク
作戦は上手くいった。僕は斬りかかるフリをしアルクが上手く外の世界に返した。その様子が彼女達にはどうやら斬られて消えた…その様に見えた様だ
僕は左手に持ったエビ鉈に右手に隠した赤い絵具を塗りたくった。これで血液がついた様に見えるだろう
「私に手出しすれば殺しますよ?」アルクは不気味な笑みを浮かべ彼女達に伝えた
「きゃーーー!!!!!!」取り巻きの一人が状況を理解して悲鳴をあげる
「だから皆さんは七不思議の七番目、神隠しにあいました。この世界では殺してもバレません。人を神隠しにあわせ殺していくのが私の趣味なのです」演技とは言え凄い威圧感だ…流石は神様
「ふ、ぶざけんな!そんな事してただじゃ済まさないから!」主犯格の彼女はこの光景をみても尚、歯向かってくる
「少しウザいですよあなた?」アルクは地形を操作し地面から岩を出す、その岩に主犯格が当たり天井にぶつかる…そして地面に落ち、気絶した…僕も雪も動揺した…事前に計画した作戦とは違うからだ。そしてアルクの表情は怒りに満ちていた
「ごめんなさい…少しムカついてしまいまして…それでは今から鬼ごっこを始めます。鬼は私の遣いの者、逃げるのはあなた達です。捕まればどうなるか、わかりますよね?」アルクは満面の笑みに戻っていた。その表情が取り巻き達に更なる恐怖を煽った
「十秒数えますので逃げて下さいね?それではスタート」アルクはゆっくりと一から数える。最初取り巻き達は唖然としていたが自分達がおかれた状況が理解できたのか悲鳴を上げて廊下に逃げる
「八〜九〜十…これで大丈夫ですか?」アルクは僕達に自分は作戦通りに動けたか確認してきた
「アルクちゃん…天井に叩きつけるのは駄目です!お説教します!そこに正座!」
「は、はい!」雪は怒らせると怖い…覚えておこう。こうして神様の遣いが神様にお説教するという奇妙な光景がうまれたのだった…
雪のお説教は長かった…この世界では何分経ったかわからないのだ…だから僕はそろそろ止めに入った
「雪、そろそろ鬼ごっこしないと、彼女が気絶してるのは、やり過ぎにしろいい事だよ。全員を捕まえてから彼女を起こせば取り巻きは全員、死んだ、そんな状況が作れる」
「仕方ありません、今回の事は許します」
「うわぁ〜ん!星野さん!」アルクは大泣きしていた…
「アルク?これからは雪を怒らせない様にしようね?」
「はい…」雪が怒りアルクが泣き、僕が慰める…なんだかその光景は…
「はは!何だか親子みたいだね?僕達」
「ほ、星野くん…それでは私は怖いお母さんになりますよ!?私は優しいお母さんなんです!」口を尖らせて反論する雪を見て僕は思った。将来本当にこんな家族になれたらいいいなぁ〜と
「それよりアルク、他の四人の居場所は?」アルクの世界なのだから当然どこに誰が居るかわかるのだ
「ここが三階で一番近いのは四階の一年二組の教室のロッカーの中ですね」
「わかった。雪と交代交代にやる予定だったけど僕一人でやるよ。雪は主犯格の彼女を見ていて」雪は一瞬、心配そうな表情をしたがすぐに笑顔になり
「わかりました。気を付けて下さいね?」
「僕には神様がついてるからね。大丈夫!それじゃあ行ってくる」もし武器を奪われたりしたらアルクがさっきの様に地形を操作して助けてくれる手筈だ。だから大丈夫…僕は集中する…すると世界がスローモーションに見えた。体の中の細胞が殺れと言っている
四階の一年二組の教室に入るとロッカーから音が聞こえた。僕はロッカーに近づき…一気に扉を開ける!中にはロングヘアの取り巻きのが居た
「お、お願い!助けて!」そんな命乞いをしてくる
「君がした罪…わかってる?」
「罪…?罪ってなによ!私何も悪い事してない!」どうやら思った通り、虐めを罪だと思っていないらしい。だから僕は容赦なくエビ鉈を取り巻きの彼女に斬りつけた。彼女は刃が当たる前に消えていった…
この行動は正直言ってヒヤヒヤする。もし刃が本当に当たってしまったら?と考えると…いや…アルクを信じよう
そう改めて決意した時にアルクの声が脳内に響いてきた
「聞こえてますか?次は同じ階の放送室にいますよ」これがテレパシーとか言うものなのか…まるで音楽をイヤホンで聞くのと同じで脳内にガンガン響く…そんな感じだった
僕は放送室に向かった。前に海堂に校舎を案内してくれたお陰で主犯格の炙り出しに成功したのと校内のどこに何の部屋があるかわかる
放送室にはショートヘアの取り巻きがいた
「何で私がこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」
「自覚はないの?」やはり彼女も虐めを悪い事と思っていないらしい。僕はエビ鉈を彼女に向かって斬りつける。そして彼女は消えていった。アルクが消してくれたのを確認して再度安心した…
「お疲れ様です!残る二人は体育館にいます。どうやらやられる前にやる気みたいです」少し厄介か…?でも臆する事はない、それだけの気持ちが僕にはあった
一階に降り体育館に向かう。取り巻き二人は体育館の真ん中に堂々と立っていた
僕の姿を確認すると左右に逃げた。ようやく鬼ごっこらしくなってきた
僕は体育館の真ん中に陣取る。そして全神経を集中させる…取り巻き二人は僕を挟み込む。おそらく一人に集中すればもう一人に後ろからエビ鉈を奪われるだろう
だったら簡単な話だ。奪うつもりならくれてやろう
僕は眼鏡を掛けた取り巻きに向かいエビ鉈を投げつける。その行動が予想外だったのか。眼鏡の取り巻きは咄嗟に立ち止まろうとする…だが体育館は滑る…バランスを崩す
エビ鉈は眼鏡の取り巻きに当たらなかったが僕の反対側にいるツインテールの取り巻きには当たった様に見えるだろう。眼鏡の取り巻きは消えていった…その光景を見てツインテールの取り巻きは体育館から校庭に繋がる扉まで逃げる。僕はエビ鉈を壁から抜くと左手に持ち直した。そしてゆっくりツインテールの取り巻きに近づいていく
「どうして開かないの!?」外には出られない…それがこの鬼ごっこのルールなのだ
僕はツインテールの取り巻きの目の前まで辿り着く
「い、いやーー!まだ死にたくないよ!ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「何で神隠しにあったかわかる?」
「わ、わかる訳ないじゃない!」
「悪い事をしたからだよ」僕は冷静にそして冷徹にその言葉を口にした
「虐め…したよね?」
「い、虐め!?あれは軽い冗談だったのよ!虐めじゃないわ!」彼女もまた虐めではないと言う…やはり虐めをおこなってる奴は皆んな虐めてるとは思っていないみたいだ
だから僕はまた躊躇なくエビ鉈を取り巻きに斬りつける…
「お疲れ様です!星野さん」僕は安心した…無事終えたのか…いや、まだ主犯格がいる
僕は三階の二年二組に戻る
「星野くん!大丈夫でした?」
「正直、精神的に大丈夫じゃない…また胸、かしてもらおうかな…?」雪は優しい微笑みで「いいですよ」と言ってくれた…だがそれはまだお預けだ
「主犯格をなんとかしてから…かりるよ」
主犯格の彼女はまだ気絶していた
僕は近くにある机にエビ鉈を叩きつけ大きな音を出した、何回か繰り返しているうちに主犯格の彼女は目を覚ました
「お目覚めですか?」
「ここは…?」一瞬、自分がどこにいるかわからなかったらしいがすぐに思い出したらしい。主犯格の顔が険しくなる
「他の皆んなはどうしたの!?」そんな怒りに満ちた声を上げた
「殺しましたよ?鬼ごっこで逃げきれなかった罰です」アルクは平然と答えてみせる
「ふ、ふざけないで!」
「こちらは真面目ですよ?七不思議の七番目…何で神隠しにあったかわかります?」
「わ、わかる訳ないでしょ!?」アルクは不気味に笑った後
「虐めをしたからですよ?」と言った
「い、虐め?私がいつ虐めたの!?」やはり主犯格も虐めを自覚していないようだ
「海堂夏希さん…知ってますよね?あなたは彼女を虐めた」アルクは淡々と話を続ける
「あれは海堂さんが悪いのよ!すぐに調子にのるから…」
「調子にのっているのは自分だと理解できませんか?」
「私がいつ調子にのったの?」なる程…主犯格だけはある…罪の意識がこれっぽっちもないようだ。そこで今まで黙って聞いていた雪が動いた
「ふざけないで!夏希ちゃんがどれだけ苦しい思いをしたのかあなたに絶対にわからない!でもあなたがやった事は殺人と一緒よ!」その言葉には海堂さんを思う気持ちが篭っていた。それでも主犯格の彼女は…
「海堂さんの事なんて知ったことか!私は大手会社、社長の娘なのよ?こんな事してわかってる?」
「私は神様ですよ?大手会社だろうとその娘さんだろうと関係ありません。人間の決めた法律は私には通用しないのです」
「神様?そんなのいる訳ないでしょ?あんたら馬鹿じゃないの!?」
「まぁ最近の人が神様を信じないのは仕方がない事なのでその反応は否定しません」
「だったら私をここから生きて出しなさい!これは命令よ!」その言葉がアルクの機嫌を損ねたらしく。机の一つが吹き飛び、壁に当たる。その音は当たればただでは済まない…そんな恐怖を植え付けるには充分だった
「こ、殺すの…?私も…皆んなと同じ様に…」
「う〜んどうしようかな〜」アルクは考えたフリをする。全ては計画された事…だから次のセリフは決まっている
「海堂夏希さんに謝り、二度と虐めをしない、それと私は江戸川区の神様なのであなたが江戸川区に居るかぎり目障りです。この地を去ってもらいましょう」
「じょ、冗談じゃ…」主犯格の彼女が否定しようとした瞬間、アルクの力でまた机を壁に激突させる。それがトドメになったらしい
「わ、わかった!謝る!謝るから!だからお願い…殺さないで!!」
「約束ですよ?」
「約束する…するから!」
「それでは元の世界に返しますのですぐに謝って下さいね?もう二度と会わない事を願います」主犯格の彼女は消えていった…
「終わりましたよ。星野さん、雪さん」
「お疲れ様です!星野くん!アルクちゃん!星野くん…胸をかしてあげます」僕は今にも泣きたい気分だった、エビ鉈で人を追いかけて、斬りつけるフリをする…それだけでも正常な人間なら罪悪感に押し潰されてしまうだろう。僕が考えた作戦を実行していたならきっと僕は罪悪感に押し潰され自殺していたに違いない…今回の事で僕は三つの事を学んだ。一つは人の命の重さを…一つは人を傷つける罪悪感の重さを…一つは雪とアルクの大切さを…だから僕は遠量なく雪の胸で泣いた…泣いて、泣いて、泣いて…泣きじゃくった…そのうち緊張の糸が切れたのか突然の疲労と眠気が襲ってきて、そのまま僕の意識は暗闇に包み込まれるのだった
気付いた時には雪の膝の上にいた
どうやら僕は膝枕されていたらしい
「星野くん、起きましたか?」雪が起きたのに気付いて話かけてきた。僕の寝顔をずっと見ていたと思われる。
「ごめん。今起き上がるよ」少し名残惜しかったが僕は雪の膝から起き上がった
「私は気にしませんよ?星野くんには必要な休息だったのですから。それに…今回の作戦を考えたのは私です。辛い役目を押し付けてしまいごめんなさい」
「雪…」確かに辛かった、二度とこんな事はしたくない。でも雪は悪くない
「適材適所、それにエビ鉈を持って襲うなんて僕の読んだ小説と同じ展開だったからね」僕は立ち上がり、そんな冗談が言えるぐらいまでには回復した事を自覚した
気付けばいつものヒメサユリの世界に戻っていた
「星野さん。私はあなたに関わって欲しくなかったです。次からは関わらないで下さいね?」アルクに注意される…確かに僕を守りたいアルクにとっては今日行った事は危険な行動だったかもしれないでも僕は…
「嫌だよ、僕は雪を守りたいんだ。残念ながら次からも関わらせてもらうよ」アルクは予想していただろう僕の言葉に溜息をつく
「でもこれで海堂さんは自殺せずに済むんだよね?」この言葉に雪とアルクは少し困った顔を見せた
「星野さん、海堂夏希は今、屋上に居ます。柵を乗り越え飛び降りる寸前です」その言葉に絶望した…
「私達がこの世界に来たと同時に夏希ちゃんは屋上に向かったみたいなの…」この世界と現実世界では流れが違う。僕達は時間をかけ過ぎたのだ…そもそも結構日をもっと早めていればこんな事にはならなかった…
「準備に時間が掛かったのはしょうがない事です。私は今は現実世界には行けません。ですが星野さんと雪さんはまだ間に合います
私がお二人を屋上に帰します」
「そんな事が出来るの?」確か僕達がアルクの世界に入ったのは保健室だ。先生が居なかったので保健室から入った。その後しばらくして主犯格と取り巻きが入ってきた。しばらくして入ってきたのはこの世界と現実世界の時間の流れが違うからだ
「江戸川区ならどこでも出現可能なのですから帰すのも江戸川区ならどこでも可能です」
「その事でアルクちゃんと話し合っていました。作戦は、私達を屋上に帰し夏希ちゃんに全力ダッシュ…これしかありません」海堂さんが落ちるところに待機…という案もあったそうだが僕達、二人だけでは受け止められないだろうと言う事で却下したらしい
「お二人共、覚悟はいいですか?もしこれで海堂夏希を助ける事が出来れば未来は変えられる。出来なければ未来は変えられない。私達三人の生死も関わってきます」
「絶対に変えてみせるよ」
「私達は幸せに生きるのです!まだ死ねません!」僕も雪も覚悟は充分だ
「じゃあいきますよ?」
光に包まれる。最後の大仕事だ
絶対に海堂を助ける!
僕達な屋上に居た
前には先生達が居てその前には虐めの主犯格が土下座をしている
そして海堂さんは…一歩後ろに下がろうとしていた
僕は全力で走り先生達の横を駆け抜け、虐めの主犯格の横を駆け抜けて柵に向かいジャンプした。僕の人生で一番速く走った瞬間だっただろう。既に海堂さんの足は宙にあった。僕はそのまま全力で右手を伸ばし海堂さんの手を掴む…しかし僕の左足も宙にあった。このままだと二人共、落ちる僕は左手で柵に掴もうとするが届かない…
しかし幸運な事に左手に持っていたエビ鉈の先端が柵に引っかかる。もって数秒だろう
だがその僅かな時間稼ぎが僕達を助けた
雪が柵の外から僕の左手を掴んだのだ
その後に続き先生達が僕の腕を掴み引っ張ってくれる。僕は右手で掴んだのだ海堂の手を決して話さなかった
僕達はなんとか柵の中に戻り先生達から心配された…
だが雪は違った…こうなるだろうとは思っていたが…海堂さんは案の定、雪に叱られた。私達がどれだけ心配したか。命を粗末にするな、など色々言われていたが…僕は主犯格に目をやった。先生に色々聞かれている
遠くてわからないが確かに聞こえたのは海堂さんを虐めていたと自白したのだ
僕は全てが終わったんだと安堵の溜息をついた
視線を雪達に戻すと海堂さんが雪の胸で泣いていた。ああ…やっぱり雪の胸は凶器だと僕は改めて思うのだった
僕達は無事に卒業した
卒業式は出なかったが先生達も何も言わなかった。幸いな事に僕がなんでエビ鉈を持っていたかも聞かれなかった
それよりも生徒が自殺しようとしたと言う事を世間から隠すのに必死な様で僕も雪も今日あった事は忘れる様にとかなり入念に注意された
それから僕達は強制的に家に帰された
どうやら海堂さんと主犯格の処遇をどうするか決めるらしい
その帰り道、僕と雪は今日の事を話し合っていた
「屋上での星野くんかっこよかったです」
「自分でも不思議だよ。世界がスローモーションに見えて…あれがゾーンとかいうやつかな?」僕は鞄にしまったエビ鉈に感謝しながら言った
「でも最初に僕を助けてくれたのは雪だったよね。ありがとう」
「私も必死で…よく覚えていません」
「正直、僕も実感ないよ…」しばらく沈黙が続く…そして雪はいい事を思い付いたらしくこう切り出しだ
「つまり私は星野くんの命の恩人という事ですよね?」
「まぁ…そうなるね」
「なら星野くんは私にご褒美をくれるべきです!」
「そう来たか…でもいいよ。僕に出来る範囲であればね」
「簡単な事です!これから星野くんの事を翔ちゃんと呼びます!」予想外の提案に僕は一瞬歩みを止める…
「それだけ?」
「それだけです!」少しむず痒いがそれくらいならいいだろう。それに恋人同士なんだし下の名前で呼ばれるのは普通か
ちょうど雪の家の前に着いた
「いいよ。僕は雪のままでいくけどね、じゃあ、またね雪」
「はい!またです。翔ちゃん」しばらく沈黙が続いた後、雪は顔を赤くし鞄で顔を隠しながら家に入っていった
僕も自分の家に向かう
「……思ったより恥ずかしいな…」僕は気軽に承諾した事を後悔した
家に着きエビ鉈を元の場所に戻す。院長先生はまだ帰ってきていない
そして着替えるため自分の部屋に入る。そして着替え終わりベッドの上に置いてあった。スマホを見る。LINEの通知が来ていた。海堂さんからだ…LINEを開くと
メッセージは削除されましたと書いてあった。そして次に
(ありがとう)とだけ書いてあった
僕はベッドに横になり、明日からの春休みをどう過ごすか考えるのだった
その日の夜、海堂さんから通話があった。僕は迷わず通話に出る
「もしもし、星野先輩?」
「どうしたの?電話なんて珍しいね」それもその筈だ。僕と海堂さんは電話した事がない、つまりこれが初めてだ
「改めて今日の事、お礼を言っておこうと思って」
「ああ、そういうことか」
「今日は助けてくれて本当にありがとうございました」海堂さんの真剣さが伝わって来る
「どういたしまして」
「それで…何で先輩方は屋上に居たの?さっき雪先輩にも電話したらそれは翔ちゃんに聞いてと言われて…ていうかいつから翔ちゃんになったの?」アルクの話をするなら僕からした方がいいからか…しかし雪、海堂さんの前でもその呼び方にしてるのね…
「先ず後者の質問は今日、君を助けた事で更に絆が深まった、というところかな」
「それで星野先輩は雪先輩の事をなんて?」
「雪のままだよ…」
「……」その沈黙、痛い、辞めて?わかってるから
「僕なりの気遣いだよ。二人共、翔だとわかり辛いからね。それにまだ時間はたくさんある」
「先輩の意気地なし…」
「それが今日助けた人に言う言葉かな…?」
「ご、ごめんなさい!ただ…お二人には幸せでいてもらいたいので…」
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ」
「そ、それで!何で屋上にいたの?」何て説明するか考えた後、僕はこう説明する事にした
「僕の家系はね神社を任されていたんだ。今は無いけど星野神社と言ったらしいよ。ネットで検索したら出て来るよ。それで祀ってる神様…アルクトゥールスと言うんだけど、その神様がね。未来を見せてくれたんだ…君が自殺する未来…だから僕も雪も君が卒業式の日に屋上から飛び降りるのを知ってた。こんなところだよ。まぁ信じてくれないよね?」
僕は最初からこの説明では信じてくれないだろうと思った。だが海堂さんは…
「信じるよ。そのアルク…何ちゃらと言う神様が未来を教えてくれたと言う話…」
「君は正気かい?」
「あいつを懲らしめたのも先輩達でしょ?星野先輩、手に鉈…持っていたもんね」エビ鉈を見られていたのか…
「方法は聞かないでくれると助かる」
「はい、聞きません、でも…どんな手を使ったとしてもこれだけは言わせて下さい…本当にありがとうございました」その、ありがとうを聞けただけで何故か僕は救われた気がした。ようやく実感出来たんだ…今回の事件が終わったと…
「それでアルクの存在を信じてくれると助かる」
「わかりました!全力で信仰します!」
「ありがとう」これで目的達成かな…?
「あ!先輩、明日空いてます?」
「特に予定はないけど…」
「じゃあ明日、十二時に小岩駅集合で!あとあと!私の事は呼び捨てでお願いします」
「一気にもの頼み過ぎ…明日、小岩駅に十二時集合ね。わかったよ、海堂」それで満足したのか海堂は「それでは、おやすみなさい」と言い通話を切った
僕はベッドに横たわり心に達成感と心地良い疲労を感じながらそのまま深い眠りに入った
誰かが僕を呼ぶ声がする
まだ、僕は眠いんだ、放っておいてほしい…
だが今度は体を揺さぶられる
医院長先生かな?だったら起きないと失礼だ
僕は重い目蓋をゆっくりと開く
「ほ〜し〜の〜さーん」僕の名前を呼び体を揺さぶる正体を確認する
「なんだ、アルクか…僕は昨日とても疲れたんだ。もう少し寝させてよ」僕は再び目蓋を閉じる
ん?僕は疑問に思う。今、目の前にアルクが居なかった?じゃあ僕はアルクの世界にいるの?いや…でも僕はベッドに寝ているしスマホにセットしたアラームはまだ鳴ってない
じゃあまだ早朝だ。と言う事は幻聴か?でも今も僕を呼ぶ声はするし揺さぶられている
つまり現実だ
僕はもう一度、重い目蓋を開ける
「ようやく起きましたか?まったく!私が起こしてあげてるのになかなか起きないからそろそろベッドにダイブしようと思ってましたよ」僕はベッドから起き上がる
「君はいつからこちらの世界にこれる様になったの?」僕は当たり前の質問をする
「昨日、海堂夏希が私を信じた時ですかね?私に神様としての力が少し戻ったのです!」
「それでこちら世界に来れる様になったわけ?」
「海堂夏希だけでなく虐めていた主犯格とその取り巻き達も私を神様として認識してくれたみたいですね」
「来れるなら事前に伝えてほしかったよ…」
「昨日、言いましたよ?私はまだ現実世界には行けませんがと」僕は昨日の出来事を振り返る…確かに言っていた。海堂が屋上から飛び降りる時だ…アルクに屋上に帰してもらう時に言っていた。でもその時の僕は…いや雪もだろう、聞いてる余裕はなかった
「じゃあこれからはいつでも会えるの?」
「会えますよ!これもお二人のおかげです!ありがとうございます!…というか星野さん…冷静ですね?もっと、こう…ドヒャー!とかなると思いました」寝起きじゃなかったらなっていただろう。僕は朝、弱いのだ。だから低血圧…いきなり驚くまでには至らない。心臓バクバク程度だ…いや心臓ないからわからないけどね?
「幾つか確認するね?」
「はい、どうぞ!」
「先ずは神様としての力は使えるの?」
「地形を変えるやつですか?あれは私の世界なので出来る事…ここでは出来ません」
「この世界で使えたら問題だからね、使えなくてよかったよ。じゃあ今のアルクは普通の人間と同じと言う事かな?」
「はい、食事などはしなくて平気ですが基本的にこの世界の住人と同じです」なる程…
「僕達意外にもアルクの姿は見えるんだよね?」
「誰でも見えますよ!見た目の年齢は十歳です!」
「力を取り戻していったら他に出来る事があるの?」これを聞いておかないと今度はなにされるかわからない
「この世界でできるのは姿を変えるぐらいですね。もう出来ますよ?因みに私のお気に入りはカピバラさんです」アルクは光に包まれると一瞬でカピバラになった。しかも綺麗な白い毛のカピバラだ…異質すぎる…
「人間の姿で頼む…」
「わかりました!」カピバラ姿で承諾するアルク、その姿で更に喋れるのか…アルクはいつもの少女の姿に戻る
「理解できましたか?変身は神様なら誰でも出来る事です!」
「つまり変身さえしなければこの世界でも普通に過ごせると言う事がわかったよ」これは早速、雪に連絡した方がいいだろう
「では私は一旦、元の世界に戻りますね?必要になったら指輪に話しかけて下さい!」そう言うとアルクは指輪に吸い込まれていった。どうやら出入りは鳥居ではなく指輪かららしい
時刻は七時ちょいを回ったところだ。雪、起きてるかな?僕はLINEを開き、雪に通話する。メッセージより直接伝えた方が早いだろう。幸いにも雪はすぐに通話に出てくれた
「おはようございます!翔ちゃんから連絡なんて珍しいですね」しっかり挨拶するところが雪らしい。あと呼び名の件、忘れていて少しドキッとした。心臓ないんだけどね…
「おはよう。朝早くからごめんね。実は…」僕はさっきあった事を雪に話した
「つまりアルクちゃんの力が少し戻ったと言う事ですね!」
「理解が早くて助かるよ」
「今日、夏希ちゃんにも会わせてあげましょうよ?」アルクを海堂に会わせるか…確かにそっちの方が今後の事を考えればいいか…
「うん、その意見には賛成だね」
「それでは十二時に小岩駅で会いましょうね!」雪と通話を終え僕は朝食を作る事にする。どうやら医院長先生は昨日帰って来なかったみたいだ
今日の朝食はフレンチトーストにしよう!
料理を作る、これが退院してからの僕の日課になっていた。僕達、退院したての人は他の人にとって当たり前の事でも当たり前じゃないのだ。だからそこ楽しめるし、苦労もする。でもそんな当たり前に過ごせる毎日が幸せだ。僕は今日も幸せを噛みしめるのだった
当たり前を知らない…だからこんな光景も生まれる…
僕と雪は初めて来るファストフード店に戸惑っていた。セット?単品?何が何だかわからない…
十二時に約束の小岩駅に着いた僕達は海堂の提案でファストフード店に行く事になった。その結果がこれだ…何もわからない
海堂は「先輩方、本気ですか…?」とドン引きしていたが何も聞かずに同じものを三つ頼んでくれた。これも海堂の優しさ
因みに今日の雪の服装はもこもこした白いセーターを中心とした可愛い系コーデだ。萌え袖が決まっている
対して海堂はお洒落に興味はあまり無いのかとてもラフな格好だ。そして雪のもこもこセーターを堪能しているアルク…側からは仲のいい姉妹に見えるだろう
僕達は四人席に座ったがアルクは雪の膝に座ってしまった
「今日のアルクちゃんは甘えん坊さんですね」雪は嬉しそうにアルクの頭を撫でる
「だって久々に人間の世界で過ごしているんですよ?」そんな様子を微笑ましく見ていると海堂がこっそり聞いてきた
「あの子が昨日言ってた神様…だよね?」
「そうだよ。ぱっと見じゃわからないでしょ?」見た目はただの少女なのだから信じられなくても仕方ない
「私は信じますよ?先輩方が嘘をつくとは思っていませんし」
「凄い信頼されてるね。僕達」
「先輩方は…その…命の恩人だから」
「結果的にみればね。それで昨日は大丈夫だった?」僕のその言葉に雪も改めて海堂に向き直る。アルクは雪のポテトをパクパク食べていた
「その事で今日呼んだのでした!先ずは私が虐められていた事はもうご存知ですよね?」僕と雪は頷く
「それで学校側はその事を問題視して虐めに加担していた人達には反省文を書かせ、主犯格には転校してもらう流れになりました」その結果に僕は驚く
「転校?」
「それがですね!主犯格も加担してた人達も精神的に異常で…その…神隠しにあった…とか言ってまして…学校側も対処に困ってるらしくて…」海堂が言うには六人共に虐めを行っていた事を認めたらしい。虐めに対しては反省文で対応する。だが六人共、神隠しにあったなど鉈で斬られたなど意味不明な事を言い出した事で学校側は精神の異常さに薬物を疑って今、検査を行なっているみたいだ
主犯格の父親にも当然連絡はいったみたいで大手会社の社長と言う事もあり大事にはしたくない。だから娘を転校させる…と言う結果になった、との事
僕はコーヒーで喉を潤し、しばし考える…
つまりは海堂にとっては最高の形で終わったのか?そんな考えをしているとポテトを食べていたアルクが笑顔で
「海堂夏希さんは今、幸せですか?」などと言った。海堂は予想外の質問にしばらく黙ってしまったがやがて笑顔で
「はい!」と答えたのだった。その笑顔を見て僕と雪は一人の少女を虐めから救えたんだ…と心の底から喜んだ
だからだろうか?海堂がこんな事を言ってきたのは…
「私、中学卒業したら先輩達と同じ高校に行きます!」
「私達と同じ学校て…通信制の高校に?」
「はい!」
「海堂、もう少し考えてからでも…」海堂は興奮気味らしく、僕の言葉を遮った
「これはもう決めた事!絶対に覆りません!」
「いい事じゃないですか?私としては駒が増えるので大いに結構です」
「こら!アルクちゃん!」雪に怒られても尚、ニコニコしているアルク
「私、神様の僕になれるんですか!?」そんなアルクの言葉に一層興奮する海堂…流石はゲーマー…やれやれ…こうなっては誰も止められまい。だったら仲間は多い方がいい
「海堂…もし君が僕達と同じ高校に来たのなら全てを話すよ」だから僕は海堂のやる気に更に火を付ける…いや油を注ぐと言った方が正確か
「本当!」
「雪、いいよね?」
「はい!私は大歓迎ですよ」
「そう言えば先輩方の通う高校の名前、何でしたっけ?」
「明星館高等学校だよ」僕はそう答えた
ウルフムーン後編 end
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