あやかし後宮物語~第二幕~

青月花

恋の宣戦布告



 ずっと会いたかった人の腕に抱かれ、玉玲ぎょくれいの胸は幸福感でいっぱいだった。

 春の到来を感じさせる温かい風が吹き、桃の木も言祝ことほぐように開花し始めている。


 だが、すぐに幻耀げんようが幸福感も甘い空気も全て吹き飛ばした。


「どうだ? 本当の妃になる気になったか?」


 彼の本音が透けて見えた気がして、玉玲は脱力感に襲われる。

 口づけも甘い台詞せりふを向けてきたのも、自分を本当の妃にするための方便だったのか。

 抱きしめられてまだそう時間もたっていないというのに。今それを言う? 


 疑惑がモヤモヤとなって胸を覆った。

 彼は乙女心が全くわかっていない。


「なりません! お断りします!」


 玉玲は苛立ちをあらわに答えた。

 彼は霊力のある女性を求めているだけなのだ。同じように霊力のある子供を産む確率が高いから。自分に恋愛感情があるわけじゃない。

 

 断固とした態度で見すえていると、幻耀の目が獲物をとらえたけもののように鋭く光った。

 

 強く出過ぎただろうか。本来、皇子の申し出を雇い人ごときが拒めるものではない。

 ひるむ玉玲だったが、幻耀は口もとに薄い笑みをいて、こう告げたのだった。


「ならば、自分から本当の妃になりたいと思うようにしてやろう。覚悟しておくがいい」


 それは、玉玲を落とすという宣戦布告。

 契約妃の強気な態度が、堅物な皇子の闘争心を刺激し、男の本能を目覚めさせたのだ。


 玉玲はこの日以降、幻耀の積極的な言動に悩まされることになる。


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