saloon.(lit&extinguish the fire)

春嵐

1st.

 クラスにひとりだけ、太っている女がいた。

 他の生徒は曲がりなりにもいい見た目ばかりで、頭の中身はともかく、顔のいい学年だった。

 その女はさも当然のようにクラス全体から疎外されたが、当人は特に意に介した風でもなかった。自分も、特別何か気にかけたわけでもない。

 ちょっとした内偵を兼ねていた。クラスのなかに、どうやら若者の狐がいるらしい。狐憑きとかいうやつで、普通に暮らしているのに、ある日突然おかしなことをしはじめる。街全体でその狐に対処しているが、若者でちょうど手が空いていた自分に今回は内偵が回ってきた。

 ひとりだけ太っている女が狐だと思って観察していたが、そうでもなかった。本当に、周りを意に介していない。クラスでひとりぼっちというのは切ないものだろうに、それよりも重要な何かがあるかのように、日々を過ごしている。

 気になって、声をかけた。


「あなたの視線を気にしてたわ」


 そう返された。太った女の笑顔。このクラスのどの美形のやつよりも、端麗で優美だった。

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