21.ゴブリン軍団【追放側】
救援要請が発令された翌日。
レスタの街では、避難の準備をする人々の波が出来ていた。
商人や一般市民にとって、戦場となりうる街から出ることは、自らの命を守ることに繋がる。
ギルドも避難を推奨しており、一部の冒険者がその援助に当たっていた。
要請発令から四日後には、すっかり街も殺風景になり、人が集まる唯一の場所は冒険者ギルドだけとなっていた。
「あ~あ、ついてないな~」
「まったくだな」
「ゴブリンとか全然可愛くないし、やんなっちゃう」
「可愛さ以前の問題ですよ」
シルバーロードの四人も、ギルド会館の中にいた。
クエストを受けるわけでもなく、ダラダラと過ごしている。
とは言え、彼らだけではない。
他の冒険者たちも、同じようにギルド会館で屯していた。
救援要請を受けて、街中の人たちが避難した影響で、ギルドに寄せられる依頼が激減したのが、この惨状の理由だ。
人がいなければ依頼もない。
当たり前のことを、彼らは身をもって体感している。
だが、それも終わりと時が来る。
悲報を告げる鐘は突然鳴り響いた。
「なっ、嘘だろ!?」
「この警報はまさか――」
ギルド会館の扉が大きな音を立てて開く。
一人の男性が息を切らしながら、全員に聞こえる声で叫ぶ。
「ご、ゴブリンが草原まで迫ってきてるぞ!」
場に緊張が走る。
彼の言う草原とは、レスタの街に隣接する広大な緑の大地。
そこまで迫っているということは、街への到達は時間の問題ということ。
冒険者たちは立ち上がり、武器をとる。
「草原へ急げ!」
『おぉー!』
掛け声と共に、冒険者たちは草原へと走る。
予想よりも早い到着で、救援要請で駆け付けた冒険者もまだ少ない。
一番の頼みであるレガリアからの部隊も到着していない。
戦力的には不十分。
それでも戦わなくてはならない。
負ければ街は破壊され、彼らは拠点を失ってしまう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
草原に到着した冒険者たちは唖然とする。
地平線の彼方まで、ゴブリンの軍勢で埋め尽くされていたのだ。
予想された光景とは言え、さすがの彼らも肝を冷やす。
「怯むな! 戦えー!」
流れるように戦闘が始まる。
大規模かつ急な戦闘のため、細かな指示系統や作戦は出来ていない。
各パーティーに簡単な役割が与えられ、臨機応変に対応する。
地力が試される戦場に、シルバーロードも加わる。
「いくぞゴードン!」
「うむ!」
「援護は任せて」
「回復は私が!」
彼らの位置は、ゴブリン軍団と最初にぶつかる地点。
与えられた役割は、最前線で戦い続け、可能な限り相手をせん滅すること。
厳しくなれば一時的に後退し、体勢を整えて再度参戦する。
そういう算段で動いていた。
「はんっ! ゴブリンなんて屁でもないぜ!」
「油断するな」
「わかってるって!」
最前線には、彼らを含む高ランクの冒険者パーティーが集まっている。
ゴブリン程度が相手なら、一人で数匹を相手取るくらい簡単だ。
しかし、ゴブリン軍団の中には、ただのゴブリンではない個体も混ざっている。
「ぐっ……」
「レイズ!」
レイズの元に、巨大な木槌が振り下ろされた。
衝撃で吹き飛ぶ彼を、ゴードンがキャッチする。
「あれは……」
「ホブゴブリンだわ!」
三メートルを超える巨体に見合う武器を持ち、鋭い眼光で彼らをにらむ。
ホブゴブリンは、ゴブリンの上位種。
その強さは、オーガやトロールと言った大型モンスターに匹敵する。
油断していたレイズは傷を負い、アンリエッタが治療する。
「悪い……っ!?」
「冗談でしょ……」
彼らは驚愕する。
姿を見せたホブゴブリンは、一体や二体ではない。
騎士の隊列のように、何重にも列をなし、彼らの前に立ちふさがっていた。
「おいおいおい……これやばいだろ」
「う、うむ……一度撤退を――」
ゴードンが気付く。
脅威を振るっているのはホブだけではない。
他の上位種であるシャーマンやライダー、希少種のゴブリンナイトまでいる。
すでに最前線は崩壊しつつあった。
退路を確保したくても、援護できそうな味方がいない。
「無理だ……逃げられない」
「ふざけてるわよ。こんなの戦えるわけないじゃん!」
焦り声を荒げるシーア。
そんな彼らに向って、ホブの隊列が迫る。
レイズは回復しきっていない。
絶望の中、彼らに最後の瞬間が――
「剣よ――
降り注ぐ無数の剣が、ホブゴブリンを襲う。
戸惑う彼らの前に、一人の男が降りたった。
彼らは男を知っている。
その男も彼らを知っている。
「情けないな……レイズ」
「ユース?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます