13.二度目の朝
ようやく俺は、受付のお姉さんが困っていることに気付く。
ずっと待ってくれて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
俺と彼女たちは、一緒になって謝って、止まっていた手続きを進める。
パーティー名はまだ決まっていないらしい。
リーダーはアリアで、順番に名前を記入し、最後に俺の名前を書く。
受付で受理され、登録が完了する。
これで正式に、俺も彼女たちのパーティーメンバーだ。
「この後はどうしますか? クエストボードはあっちみたいですけど」
「いいや、今日はクエストじゃなくて、街を見て回らないか? しばらく拠点にする街なんだ。どこに何があるか、くらい把握しておきたいだろ?」
「確かにそうですね」
「私も賛成です」
「ボクも良いよ」
三人の了承を得たので、今日は街の探索をすることに決まった。
内心は少しほっとしている。
昨晩は色々あって眠れていないし、クエストに行くのはしんどい……というのが、正直な理由だったり。
そうは言っても、言葉に出した理由も嘘じゃない。
街のことを把握しておくのは、今後に向けて必要不可欠だ。
「武器屋、防具屋、アイテムショップは最低限見つけておきたいかな」
「ですね」
「後は飲食店とか、日用品を扱っているお店もほしいです」
「ボクは遊べるところもあるといいな」
それぞれに意見を口にしながら、ギルド会館を出る。
どっちへ向かうかは、ほとんど気分で決めて歩いていく。
地図を手に入れれば楽だけど、それじゃ面白くないからね。
こういう探検は、あえて何の情報もなしでするのが一番だ。
それから俺たちは色々な場所を回った。
最初に挙げた三つのお店は、比較的早くに見つかったよ。
三店とも並んでいて、ギルド会館のすぐ傍に建っていたからね。
ギルド会館から近いのは便利だし、立地的にもこの場所が良いのだろう。
早々に三つを見つけたから、あとは適当に見て回る。
ほとんど観光気分だったけど、お陰で楽しかったし、疲れも多少は消えたような気がする。
夜は見つけた酒場に入り、談笑しながら食事をとる。
「今更だけど、三人て年いくつ?」
「十五ですよ」
予想よりも若いな。
「ユースさんは?」
「俺は今年で二十五だよ」
「そうなんですか? もっと若いと思ってました」
「はははっ、よく言われるよ。昔から外見が幼く見えるって言われてたからね」
俺が冒険者になったのは五年前。
二十歳になった日だ。
当時は未成年 (十五歳未満)に間違われて、酒場から追い出されたりしたっけ。
「十も離れているんですね」
「そうだね。あーでも、変に気は使わないでほしいな。無理に敬語使ったりもしなくていいよ? そういうのは苦手なんだ」
「ユースさんがそう言うなら」
アリアがそう答えると、二人も続けて言う。
「敬語苦手だから、ボクはうれしい」
「私は敬語の方が話しやすいので」
「うん、話しやすいようにしてくれれば良いよ」
その後も楽しく話して、夜の時間を満喫した。
帰りになぜか部屋替えで揉めていたけど、俺は変に首を突っ込まないまま黙っていた。
この街で二度目の朝が来た。
一日目は色々あって、あんまり眠れなかったからな。
今夜はぐっすり眠りたいし、眠れるだろうと思っていたよ。
それがどうして……
「こうなるんだ?」
部屋にベッドは二つ。
一つは奇麗に布団が畳まれていて未使用。
もう一つには、四人が寝そべっていてぐちゃぐちゃな状態。
真ん中で寝ている俺に、アリア、ティア、マナの三人が引っ付いている。
どうしてこんな状況になったのか。
その原因は、昨晩に遡る。
酒場からの帰り道、部屋割りについて三人は何やら揉めていた。
気づいてはいたけど、首を突っ込むと火傷しそうな気がしたので、俺は彼女たちにこう言った。
「俺は先に戻ってるから」
ようするに丸投げした。
前日が眠れていないこともあって、さすがに疲れていたんだ。
という言い訳の元、彼女たちを置いて先に部屋に戻った俺は、軽くシャワーだけ浴びて布団に寝転がった。
シーツはルームサービスの人が毎日清掃してくれるし、奇麗で気持ちよかった。
気が付けば、寝転がって数秒で眠りについていたよ。
と、ここまでは良かった。
気持ちよく眠っていた俺だけど、妙な重さと圧迫感に襲われて、寝苦しさを感じだ。
目が覚めるまでじゃなかったのだけど、身体に変な疲れが残っている。
「意味がわからん……」
どういう話し合いをしたら、こんな結果が出せるんだ?
まぁ昨日よりは眠れたけど、結局半分以上は眠れなかったぞ。
「おーい、君たち起きてくれないかなー」
それから、三人が目覚めるのを待って――
事情聴取を開始する。
「で、何で俺のベッドにいたの? アリア」
「えーっと……昨日の夜、誰が一緒の部屋になるか話し合ってて……」
「うん、それは知ってる」
「全然決まらなくて、マナが……」
「マナが?」
「面倒くさくなったから、もう部屋に入って寝ちゃおうと思った」
マナは堂々とそう答えた。
無表情なりに誇らしさみたいなものを感じる。
とりあえず、反省している様子はない。
「それを止めようと思って、私とアリアも入ったんです」
「それでわちゃわちゃやってたら、いつの間にか寝ちゃってました」
「なるほどね」
大体の事情はわかったよ。
この二日で俺が思ったのは、なるべく早く一人部屋と三人部屋に分かれたい。
ということだったな。
その後、俺たちは準備を済ませ、ギルド会館へと足を運んだ。
パーティーの登録は済んでいるし、今日からは冒険者としての活動再開だ。
現在の時刻は朝の八時前。
クエストボードの前には、波うつ川のように人だかりが出来ていた。
「うわぁ……すごいですね」
「さすがレガリア。混雑具合も世界一だな」
「あれに突っ込むのは……正直気が引けますね」
「ボクは潰される気がするよ」
俺を含む全員が、人の多さにしり込みをしていた。
もう少し早く来ていれば、多少は少なかっただろうか。
いや、あまり変わらないか。
クエストは基本的に早い者勝ちだから、早朝はどこも混み合う。
「ユースさん」
「しばらく待とうか」
「良いんですか?」
「ああ。俺たちが受けたいクエストは、たぶん残ってるだろうし」
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