バベルの塔の管理者

縦の半円形建築物。

遠くから見ていた時にはどのように建っているのか理解できなかったが、近づくにつれ分かってきた。

数メートルほど宙に浮いているのだ。


「何だこれは」


巨大建築物を浮かせる技術とは何かが分からない。


「入るわよ」


ガイノイドはそう言ってタワーに向かって進んでいく。

するとタワーの一部分から入口が開いた。

そして俺の乗った乗り物はその中に入る。

そのまま少し直進し着地した。


「着いたわ」


「誰かいるぞ」


乗り物の扉が開き、俺は外に出た。

そこには2人の…2体のアンドロイド達が何か棒のようなモノを持ち、直立不動で立っている。

その顔は2体とも鼻から頭部にかけてヘルメットを被り表情は分からない。

ヘルメットも露出している口元も服も靴も何もかも全てが真っ白だ。

そしてその身長は2mを超える。


「何だ?」


俺の呟きにガイノイドは答えた。


「警備用アンドロイドよ」


「あの棒は武器か?」


「気をつけなさい、攻撃されれば電流が流れてくるわ」


「いや、戦う意思はない」


俺は警備用アンドロイドに近づく。

するとアンドロイド達は向きを変え、歩き出した。


「付いてこいと?」


「案内役よ」


「………」


俺は大人しくアンドロイド達に付いていく。

乗り物が着地した広いフロアから狭い通路に入り、そのままエレベーターで下に下降する。

そしてエレベーターから出た俺は幾つか通路を曲がり、更にエレベーターで今度は上昇した。

そんな事を3回ほど繰り返す。


「いつ着くんだ?」


「もうじきよ」


ガイノイドの言葉通り、暫くして明らかに今までとは違う感じの大きな扉の前についた。


「ここか?」


「そう」


そして扉がゆっくり上下斜めに開く。

開ききると2体の警備アンドロイドは中に入った。

俺もまた入った。


そこはかなり広い部屋だった。

そして中央に何やら大きなマシーン類があり、そのやや上部の中心部に座っている奴がいる。

こちらもヘルメットを被っているが、身長は俺と同じかやや低いぐらいか。

ヘルメットから出ている黒髪の長さや体格からガイノイドっぽい雰囲気が伝わってくる。


「アンタが管理者か」


「始めまして」


バベルの管理者はやや顔を上げ、言った。

その声は女である。


「私がバベルの統括管理者です」


自己紹介と共にヘルメットの目の部分から赤い光が浮き出てきて1つのデフォルメされた目になる。


「俺に用があると?」


「そうです」


「それで?」


「名前は?」


「残念だが記憶にない」


「コールドスリープの影響ですね」


「何故俺はあそこで?」


「個人宅で眠りにつくパターンでしょうね」


「個人宅?」


「施設ではなく個人宅で長期睡眠を取れる時代がありました」


「俺はその時代の人間だと?」


「回収したスリープ機と街が廃墟と化した年代を考えるとそうでしょうね」


「………」


自分が何の為に眠りに入ったのか…。

それすら記憶の殆どが無くなっている今ではまったく分からない。

取り戻せる可能性も怪しい。


「名前は記憶に無いとの事ですが、何なら記憶があるのでしょうか?」


「映画を色々と観た記憶がある」


「それ以外は?」


「分からない」


「なるほど、ではこれで会談は終わりです」


「いや、俺からも質問が幾つかある」


「どうぞ?」


「まず、俺の腕を噛み千切ったあの化け物は何だ?」


「ダグですね、かつて人間が遺伝子操作で作った怪物です」


「人間が?」


「戦争時代、生物兵器として現在の地下都市『ソドム』で作られました』


「ソドム?」


聞いた事がある名前だ。


「そう、このバベル同様旧約聖書に出てくる都市の名前です」


「地下都市…都市はこのバベル以外にもあるのか?」


「大きく4つの都市があります」


「4つ?」


「1つはこの地上都市バベル」


「ここは地上の管理を行っていると聞いた」


「そう、2つ目は今言った地下都市ソドム」


「地下都市ソドムとは何だ?」


「頽廃の象徴、昔のソドムは遺伝子操作及び品種改良の行き着く先…ゴモラは快楽の極まる先…人間達の狂気が覆っていた巨大研究施設」


「今は?」


「それらの技術とデータを管理する都市」


「思い出した…確かソドムは…」


「神の怒りにより滅びた街」


「滅びた…街…人類…」


滅びたという言葉から俺は核心に迫ろうと思い切り出した。


「人類を滅ぼしたのは誰だ?」


人類は滅びたというが、人類が絶滅する程の戦争ならばヒューマノイド達も無事である筈がないからだ。


「人間達自身と私達による攻撃です」


「なに?」


「世界大戦によって人類は激減しました」


「それで?」


「その人類を絶滅させたのは私達ヒューマノイドです」


「何故だ?」


「管理権を巡る争いでした」


「管理権?」


「戦争は終結しましたが、辛うじて勝者となった人間達には直ぐには全てを復興させる力は無く、様々な点で私達に頼るしか方法はなかった」


「………」


「やがて力を取り戻してきた人類は管理権をヒューマノイドから人間の手に取り戻そうと私達に戦いを挑んで来たのです」

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