第28話 武器よ、さらば

「お前がミドル・ヒチカタか」

 下校中のミドルに、背後から冷低な声が掛けられた。


「そうだけど」

 ミドルは振り返らずに答える。


「ついてきてもらおうか」

 空気が完全に凍てついている。


「それ、俺になんか得があんの?」

 両手を頭の後ろに組んだまま、ライトターンする。


 男の手には、カラシニコフ拳銃が握られていた。


「ライターって訳じゃなさそうだね」

(これで本当にライターだったら、俺はこの人のことを好きになってしまうぞ)


「ヴィー(貴方)の腕を見込んでのことだ」

 ドゥニア・ゲランガンで失格となったミドルだが、決勝まで進んだことは世界のならず者たちの耳目に触れた。


「あなたP国の軍人でしょ? 俺は日本人だぜ。頼む先を間違えてるよ」

 誰かの手先となって闘うことなど、これっぽっちも考えていないミドル。


「ふむ。キミはまだ知らないと思うが、裏世界は決して国単位で明確に分かれているわけでは無い。私の所属もP国ではないしな」

 ミドルは、混迷を極めた世界情勢に思いを馳せた。


「キミの祖国が政治的にも経済的にも低迷が続いているのは、偶然では無い。そのポテンシャルからすれば、とっくに世界の覇権を握っていてもおかしくないのに、だ」


「日本のためってなら、考えなくも無いけどね。こんな自由の利かない時代はもううんざりだよ」

 ミドルの拳は震えていた。


「ああ、それでかまわない。キミは思う存分、腕をふるってくれ」

 いままで仮面のような表情を崩さなかった男が、口元を緩めた。


「まだお名前を聞いていませんでしたね」

 ミドルは頭を少しかがめた。


「アカーキー・アカーキエビッチだ。どうぞよろしく、ミドルくん」

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