第9話 コイルガン

「ミドル、うしろ!」

ススムが相棒に警告する。


「言われなくたってぇ!」

ミドルは左足を蹴って真横へ跳び、軍人の射撃範囲から大きくハズレた。


 ススムはススムで徒手空拳で敵兵と格闘する。

だが、飛び道具を構えたプロの軍人相手にさすがに分が悪い。


 ミドルの怒りのボルテージが上がってくると、砂浜から黒い塊がいくつも浮かび上がってきた。砂鉄である。


「Wao !」 

 この光景を眺めていたウィルは、目をパチクリさせている。


(あいつ、こんどはいったい何をやる気だ?)

ススムは、ミドルのポテンシャルに末恐ろしさを感じた。


 コイルガンという武器がある。よくレールガンと一緒に語られる代物だが、火力はレールガンのそれには遠く及ばない。だが、ミドルがいま起こしている現象は、テスラ(磁束密度単位ガウスの10の4乗)の上昇が事実上、unlimitedである。


 ミドルは、アサルトライフルを構えている三人に向かってコイルガンを発射させた。砂鉄の弾は右回転しながら勢いよく命中し、得物を叩き落とすことに成功した。イメージトレーニングの成果である。


 敵兵たちは青ざめた。砂鉄弾のスピードは弾丸よりもぐんと遅く、草野球投手の球速くらいなのだが、あんなのが当たったらと恐怖を覚え、立ちすくんだ。


 「ユーたち、情けないね!」

バルマンがミドルに向かって臨戦態勢に入った。


 ミドルは砂鉄弾をお見舞いしたが、なんなくかわされた。2発3発と繰り返したが射止めることはできなかった。

「ふはははは! 当たらなければ、どうということは無い!」


(どうすっかな~)

ミドルは脳内で作戦会議を始めた。


「ミドル、一旦離れて!」

「へ?」

ウィルの声に我に返ると、バルマンの右手が顔面を通り過ぎた。


「速い!」

バルマンのスピードにミドルは興奮して楽しくなり、鼻歌交じりに旋律を覚えた。


「お~い、ススムくん!」

「え、俺?」

ウィルの突然の呼びかけだったが、ススムはハイハイハイハイと応じた。




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