才色兼備な生徒会長が食材を抱えて部室に押しかけてきます!

おうすけ

第1話 突然異能に目覚めた俺の【運命の女性】

 俺の名前は米倉昌彦よねくらまさひこ、西南高校の一年生。

 一般的な普通の高校生として平凡な日々を過ごしている。

 趣味は恥ずかしいのだが、料理だと言っておこう。

 一応、学校でも料理部に入っているのだが、三年生の先輩が卒業した後に残った部員は俺一人だけである。

 部員が一人で、いつ廃部になってもおかしくないヤバい状況だった。

 もし四月に行われる部活総会までに部員数が三名に達していなければ、料理部の廃部が決定する。

 しかし俺は必死に部員を集めるつもりも無く、残された三ヶ月間をのんびり過ごすつもりだった。


 家は自営業で米倉米穀店よねくらべいこくてんを営んでいる。

 特に裕福でもない普通の家庭だ。

 しかし家系図を遡れば、戦国時代から続く米倉家の末裔らしく由緒正しい家柄と聞いている。


 この話は小さい頃から父さんから聞かされ続けてきたので、トラウマを通り越して、たまに夢にもご先祖様が出てくる程に洗脳されていた。


 俺の父さんは特に何かに秀でている所も無い普通のおっさんで、その血を濃く引き継いでいるのが俺だという訳だ。


 しかし母さんはご近所の人達から美魔女と呼ばる位に綺麗で若々しい。

 息子の目から見ても母さんの美しさは芸能人にもひけは取らないと言い切れる位である。

 どうして俺は母さんの血を引き継がなかったのだろうと何度も嘆いた。

 もし母さんの血を受け継いでいたのなら、モテまくりのリア充人生を送れていたのは間違いないのに……

 俺は人生で一番最初に選択する運命の二択で既に敗北していたのだ。

 

 しかし何故母さんは全然かっこ良くも無い冴えない父さんと結婚したのか? それは全く理解できないミステリーだった。


 しかも両親、40歳を超えているにも関わらず相思相愛で家の中で毎日イチャイチャしている。

 そんな様子を目の前で見せつけられる俺の想いは腹立たしい以外、なにものでも無い。


 そんな普通の家庭で育った俺が…… 

 まさか学園一の美少女に付きまとわれる事になるとは、その時は想像もしていなかった。



★   ★   ★



 16歳の誕生日に俺が眠っていると夢の中で、着物姿の男性が現れた。

 この男は何度も夢に出てきている。

 気になって調べてみると米倉家の初代当主だとわかった。

 いつも夢に出て来るだけで特に何もしてこないのだが、今回の夢では何故か俺の側に近づき、扇子を俺の額に置いた。

 その後何かを話しかけてきたのだが、俺はその言葉を聞き取る事は出来なかった。


 俺が目が覚めると、母さんが俺を揺さぶって起こしている最中だった。


「昌彦ちゃん。もう起きる時間ですよ」


「もうそんな時間?」


「それじゃ、お母さんはご飯の準備をしておくから、早く着替えをして降りて来てね」


「はいはい」


 これがいつもの日常である。

 俺が着替えを済ませて、一階に降りると父さんが既に朝食を食べていた。


「お父さん、おはよう」


「おはようさん。そう言えば今日で16歳になるんだったな。おめでとう」


「ありがとう。でも誕生日プレゼントなんていらないよ。もう子供じゃないんだから」


「お前に何か買う金があるんなら、母さんにプレゼントした方が有効な金の使い方だよ」


「へいへい。いつもお熱い事で」


「父さんと母さんは相思相愛だからな。お前も早く彼女を…… そうだ!? 実はお前に伝える事がある」


 突然、父さんが真剣な表情へと変わった。


「なんだよ、急に?」


「よく聞け! 米倉家の長男は代々、16歳を迎えた日から一つの異能が目覚めるんだ」


「いのう? いのうってなんだよ?」


「特別な力に目覚めるって事だよ」


「特別な力!? 漫画でもあるまいし、俺をからかってるのか? もしそれが本当なら父さんも長男だっただろ? 父さんにも異能があるって事だよな? だけど父さんって何処から見たって普通のおっさんじゃないか?」


「そうだな…… お前が言う通り俺は確かに普通のおっさんだ。しかし不思議だと思った事はないか?」


「不思議に思った事ってなんだよ?」


「どうして俺みたいな普通の男に、母さんみたいな超絶美人が結婚してくれたのか?」


 確かに不思議に思っていた。

 当然二人は相思相愛なのだが、どちらかで言えば母さんの方が父さんにべたぼれという感じだ。

 

 俺がその事に気付くと、黙って俺を見つめていた父さんが笑みを浮かべた。


「俺達、米倉家の長男は16歳を迎えると一つの異能が目覚める。その異能とは【運命の女性】と出会った時、その女性が最も欲しがっているものが文字となって見える力だ。相手の顔に文字が浮かび上がる感じだな」


「なんだよそれ!! そんな馬鹿げた異能がある訳ないだろ? 誰得だよ!?」


「戦国時代から続く米倉家がどうして、今日まで生き残ってきたのか? それは米倉家を繁栄させてくれる【運命の女性】が分かったからだ。その相手さえ分かれば後は好きになって貰う努力をする。そうしてその女性と結ばれれば米倉家は安泰って訳だ」


「顔に欲しい物が書いてある女性って…… 頭がおかしい人じゃないのか? もしそんな人が居たとしても、俺は顔に文字を書く変人に尽くすつもりはないよ」


「まぁ、そう思うのも無理はないな。今は冗談だと思って聞き流しておけ。【運命の人】に会える確率なんて、宝くじに当たる確率と同じ位に少ないんだからな。米倉の家系で残っているのも運よく【運命の人】と出会い続けてきた父さんの家系だけだ。俺の代で途切れてもご先祖様は許してくれるだろう」


「はいはい、そう言うなら冗談は終わりにしようぜ。全く……夢物語は夢の中だけにしてくれよ」


「昌彦、【運命の人】と出会ったなら、お前は全力でその人の為に尽くせよ!! 相手の欲しい物が分かっているなら簡単だろ」


「もうどうでもいいや。俺は先に学校に行くから」


 俺はバッグを背中にかけ、自転車にまたがり家を出発した。




★   ★   ★




 俺は学校に向かう途中、小枝に上って降りられなくなった子猫を見つけたので降ろしてあげた。

 次にお金が入っていないが一応財布を拾ったので、近くの交番に寄って警察官に預ける。

 更に歩道橋の階段を大きな荷物を抱えながら登っていた老人がいたので、荷物を自分の自転車に載せて一緒に渡ってあげた。


 俺は困っている人を見ると助けたくなる性格だった。

 

 そして最後にお目当てのパン屋へと立ち寄る。

 その店は朝にも関わらず、出勤途中のサラリーマンやOLさんで繁盛している人気店だった。


「流石はテレビでも紹介される人気店だな。寄り道した分予想より遅れたからな、何とかお目当てが残っていればいいけど……」


 俺は自転車置き場に自転車を置くと店内に駆け込んだ。

 通い詰めているので、商品の配列は頭の中に入っている。

 この店は曜日によって目玉のパンが違う。

 今日の目玉は高級餡子こうきゅうあんこをたっぷりと使用した【限定あんパン】である。


 俺は迷うことなく狙いの商品の前に移動すると、残り一つとなっていた限定のパンを手に入れた。


「ふぅ~、ギリギリだった。この店の目玉のパンはすぐに売り切れてしまうんだよな」


 俺は焼きたてで、まだ温かい【限定あんパン】とパックの牛乳を買うと再び学校に向けて移動を始めた。

 学校についた後、部室でゆっくりと美味しいパンを食べる予定だ。




◇   ◇   ◇




 その後、俺が学校の正門前にたどり着いた時、周囲の学生が何やら騒いでいる事に気づく。

 自転車を止めて、俺が騒いでいる方を見てみると学校一の美少女と名高い秋田先輩の姿が見えた。

 

 彼女の名前は秋田小町あきたこまち

 一学年上の先輩で生徒会長をしている人だ。

 美人で成績も優秀、全国模試ではいつも一桁を維持しており、誰にでも優しく面倒見の良い性格で学校のアイドルでもあった。

 才色兼備とはまさに秋田先輩の為にある言葉かもしれない。

 普通、こんな名前だとイジメられる筈なのだが、秋田先輩がハイスペック過ぎて誰も弄る事が出来ないのが現実だ。

 陰キャな俺でも秋田先輩の伝説は数えきれない程聴こえてくる。


「ふーん、秋田先輩がいるのか…… そりゃ周りがざわつく訳だ。今日はこんな時間に登校していたんだな…… って!? おい…… マジかよ」


 なんと俺の目の前を歩いている秋田先輩の顔の頬には、極太の黒色のマジックで書かれたような文字が浮かんでいた。

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