沢の鶴 X02 ②
ワンカップお兄さんこと堀田正志さん。
半年とまで行かないが、実に3、4ヶ月ぶりだ。
角ばっていた頭は角が無くなって丸刈りに、全身焦げ焦げ。
夏だから当たり前だが、サイズの微妙に合っていないコートは身に着けておらず、水色の半袖シャツに、黒のパンツと夏らしい格好だ。
「イメチェンですか?」
「いや、髪は楽だからで、日焼けはいつの間にかね」
「へぇー、と言うかそんな事よりも! 今まで何していたんです?」
久しぶりに店に来てくれたのはすごく嬉しい、でもこんなに変わった理由が何なのか知りたい。
「ああ、それはリゾートバイトで沖縄にいたんだよ」
「なんですそれ?」
「泊まり込みで長期間のバイトと言えばわかりやすいかな? 職もなくただ試験に落ち続けているだけだと、親に見放されそうでね。生活費くらいは自分で出さないといけないから、短い期間で大金を稼ぐために三か月ちょっと沖縄でバイトしていたんだ」
「だから、そんなに真っ黒に」
「そうそう。で、そろそろ警察の試験があるからバイトを辞めて戻ってきたんだ。だから、挨拶と自慢話、それとちょっとした相談がしたくてここに寄ったんだ」
挨拶はこれで終えたわけだが、自慢話とちょっとした相談。
この人のことだから、相談の内容は面倒だろう。ならば、
「先に自慢話聞かせてもらえますか?」
楽そうな方を選んだ。
「それじゃあ、早速!」
嬉しそうな表情で、ポケットから携帯電話を取り出して写真をこちらに向けてくる。
「まずは! 沖縄と言えば『泡盛』だよね。いろんな種類があって飲み比べ楽しかったんだ。これとか一番美味しかったな~」
これと言われて表示されている写真は、汗をいっぱいにかいたグラス。だけ…
透明な液体だけじゃ分からないよ。
「次に、ゴーヤのビールも美味しかったんだ。あー、写真はこれだよ、これ!」
またもや写真はジョッキに注がれたビール。色も普通のビールとそんなに変わらない。
だから、パッケージとかさ~
「あ、あとはね~、沖縄は意外とワインも有名なんだよ! ほら透明感のある色がきれいだろ。
海を見ながら飲むのが最高なんだよ! それに、普通のワインとは違って、マンゴーとかパッションフルーツで作られていてすごく美味しかったんだ~」
うん、だからさ…
「海の写真は?」
「あ、そういえば撮ってないな」
あ、左様ですか。
「そうそうハブが丸ごと入った—————————————」
この後も永遠とお兄さんが飲んだお酒の話を聞き続けた。
どれも、美味しかったとか良かったとしか言ってくれないし、全部グラスの写真だったから何一つ内容が入ってこなかった。
僕が知らない間も、お兄さんは相変わらずのようでそこは安心した。
酒好きに拍車がかかったような気がするが、気にしないで置こう。
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