バランタイン ファイネスト ④
成美俊太郎は小、中と同じ学校であった。何回か同じクラスにもなったことがある。でも、そこまで仲良くは無かった。彼は、生粋の野球少年で頭を綺麗に刈り上げ、黒々と日焼けした少年で、地元のシニアチームに所属しており、そのチームの投手だったはずだ。加えて、そのチームでエース的な存在で色々な高校から注目されていると、生徒たちの間では有名であった。子供のように全力で野球に取り組んでいる彼と、兄の真似をして大人ぶっている僕は相いれない存在であった。そのため、中の良い悪い以前に関わることすらほとんどなかったのだ。
そんな僕をなぜ彼が覚えているのだろうか?
「変わったな」
最初に思い浮かんだのはそんな言葉だった。
今ではたまきのショートボブよりも少し長いくらいの長髪で、顔の日焼けもすっかり消え去り色白になっている。その言葉に彼はハハハと笑って見せた。
「どうしてこんなところにいるんだ?」
僕たちがいた地元はここから相当離れている。
図書館に来るだけのためにここまで来たとはどうしても考えられない。
「推薦を受けた高校がここから少し離れた所だったんだよ。高校に上がると同時に、通いやすいように引っ越してきたんだ。鵜飼の方は?」
「えっ…、あ…、僕は…」
居候するためにこの町に来ました。なんて言ったら勘違いされるに決まっている。
ここは当たり障りのない回答を…
「少し前にこの辺に越してきたんだよ」
一応嘘ではない。それが、居候であるとは言わないだけ。
「へぇー」
「それよりさ、なんで僕だって気が付いたの?」
何度も言うが、彼との接点はほとんどなかった。
兄のように目立つようなことは一切していない。自分で言うのもなんだが、印象が薄かったと思う。そんな僕をどうして彼は覚えていたのだろうか?
「中二のころ同じクラスだっただろ? そん時さ、お前が苦手だったんだわ」
「えっ————」
いきなりの苦手だった宣言に思わず大きな声が出てしまうがすぐにここが図書館の近くだと気が付き、口を手で覆う。
僕の反応に彼は失笑すると
「そのせいか、お前を少し前にここで見た時にピピっと来たんだ。あっ!、あいつだって。なまじ仲いいやつより、嫌いな奴の方が覚えてるもんだろ?」
「嫌いなら声かけるなよ」
こちらが気付いていないのに、わざわざ苦手な奴に話しかける理由が見えない。
彼が話しかけてこなければ、見た目の大きく変わった彼に気が付くことは絶対になかった。
自分だったら、苦手な人に話しかけたくはないからその行動が理解できない。
「ははは。俺も毎日来ているんだよ。だから、お前が毎日ここにいるのは知っている。こんな時間に毎日いるのは普通の高校生じゃありえない。お前も俺と同じじゃないかって思ったわけさ」
僕と同じ? 一体何が?
そんな風に考えていると、近くの小学校の鐘の音が聞こえて来る。
この鐘の音が聞こえてきたら、帰らないと仕事に間に合わなくなる。
「ごめん。急いで戻らないといけないから」
「呼び止めて悪かった」
「大丈夫。また今度ゆっくり話そう!」
彼が言った『同じ』とは何かが気になったが、それよりも今は遅れないことが大事だ。
僕が遅れるとその分だけ天音の配達時間の余裕がなくなっていく。
暑苦しいセミの声に阻まれながらも、全力で店へと駆けていく。
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