ホッピー
「酒の大沢」
チョキチョキ、チョキチョキ
ブーン、ブーン、ブーン
ブオー、ブオー
ジョリジョリ、ジョリジョリ
ブワー、ブワー
チョキチョキ、チョキチョキ
ビチョビチョ、ビチョビチョ
ブーン、ブーン
やけに騒がしくないかって?
それもそのはず。
今僕がいるのは「酒の大沢」でなくて「バーバーサイトウ」
どんな町にでもある普通の床屋さんに来ているのだ。
床屋にいるなら、正しい効果音でしょ?
少し前に遡る。
いつも通り朝の開店準備をしていると、天音にいきなり引っ叩かれた。
涙目になりながら、抗議する。
「痛いですよ! いつも通りやっていますよ!」
次はデコピンだ。さっきの叩きは加減があったが、今のは本気だ。痛すぎる!
「痛いですよ~ 何ですかパワハラですか! 訴えますよ!」
抗議の姿勢を崩さずにいると、
「まずは、鏡を見ろ!」
と怒られ、鏡を無理やり渡してくる。
鏡を見ても普通に僕が映っているだけ。
?って顔をしていると、ため息をつきながら
「お前、その頭で客の前に出るつもりか?」
「あっ」
言われてから、やっと気が付いた。髪の毛が爆発しているのだ。
上の方はくるくる、サイドはあっちへ行ったりこっちへ来たり、鳥の巣状態だ。
「まだ、パワハラとか言うのか?」
満面の笑みで聞いてくる。でも、目が笑ってない。
怖いです。天音さん。
「だって、前は何もしなくてもよかったし……」
今まで僕は髪を一か月に一回は切りに行っていた。
髪を整えるのが面倒だから、その手間を省くために。
それに、頭髪検査もあったから。
でも、この店に来てからは床屋に足が遠くなっていた。
そのため、髪が伸びきってしまっていた。
「はぁ、午前中は配達ないから店番やってやる。今からそこの床屋行ってこい」
そう言って、三千円渡してきた。
「分かりました~。行ってきます」
そうして、今に至るわけだ。
「どれくらい切る?」
50代くらいの店員さんが聞いてきた。
ニコニコしていて感じがいい。それでいて風格もある。
他にも店員さんがいるが、たぶんこの人が店主だろう。
「お任せで。短めがいいです」
「分かったよ」
店主はハサミを取ると、チョキチョキと切り始めた。
「ねぇ、君って酒の大沢の子だよね?」
髪を切り始めて少し経つと、店主は話しかけてきた。
「は、はい」
床屋や美容院で話しかけられるのが苦手ではないが、こんな風に話しかけられるとは思っていなかった。
「だよね~ おじさん、天音ちゃんにお酒を宅配してもらっているんだよ」
「へぇー」
「月に一回くらいだけどね。買いに行く手間が省けて感謝しているよ」
「ところで、なんで僕があそこで働いているって分かったんです?」
「三田さんっているでしょ。三田さんがいい子が入ったって言っていたからだよ」
また百合さんか。それにしてもこの町繋がり深くない?
みんな知り合いじゃん。田舎怖い。これじゃあ、悪いことなんてできないな。
「ど、どうも」
「それで、酒屋で働いている君に相談なんだがいいかな?」
「構いませんよ」
「おじさん、痛風が酷くなってきてね。でも、ビール飲みたいんだよ~ 色々カットされているビールも試したけど、味気なくて飲みすぎちゃうんだよね~ 良い感じのお酒ないかな?」
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