上撰松竹梅 ④

 無理でした☆

「天音さん~ だ、ず、げ、で~」

 自分のミスで起こった問題に、天音の手を煩わせたくなかったから、自分で二本縛りをやることにした。

 最初のうちは、昨日の練習の成果もあって問題なくこなせていた。

 だから、「何だ簡単じゃん~」って天狗になって、電話できるタイミングがあったのに電話しなかった。

 でも、今はもっと早く電話すればよかったと後悔している。

「何があったんだ?」

「二本縛りが無くなって、自分で何とかしていたんですけど……」

「今、どうなっているか早く教えろ!」

「一人で10個作って欲しいって人が来て、やり始めたら後ろに長蛇の列が出来て……

焦ったら、上手くできなくなって……」

「分かった。すぐ戻るよ」

「お願いじ、ま、ず~」


 5分も経つと天音が戻ってきた。

 そして、積もり積もった二本縛りをさささっと終わらせてくれた。

天音の手際の良さに半ギレだったお客さんの怒りも、いつも間にか無くなっていて、笑顔で「ありがとう」と言って帰っていった。

 でも、残った一人は……

「おい、大輔何か言うことは無いか?」

「すみません」

 目にもとまらぬ速さで、頭を下げる。

「私は聞いたよな? 足りなそうなら言えって」

 天音の声音には重みがある。

「はい…… 足りそうだなって思って……」

「はぁ、確認しなかった私も悪いか……これからは、大丈夫って思っても一応は報告しろよ」

「はい…… すみません」

「分かったならいい。顔を上げろ」

 その言葉に顔を上げると、いつの間にか天音の顔からは怒りが消えていた。

「それで、どうだったよ?」

「何がです?」

「初めて、客に自分で作ったものを売ったのはさ」

 そういえばそうなのだ。

 普通に物を売ることに慣れては来たが、それに何かをするのは初めてなのだ。

 自分が手を加えた商品を持って帰ったのは、あのオヤジが初めてなのだ。

それが分かると、だんだん心配になってきた。

「胃が痛いです。もし、後から下手糞って文句が来るんじゃないかって……」

「心配すんなって、大抵は文句があるならすぐに言うからさ」

「だといいんですけど…… 天音さんは最初の時どうだったんですか?」

 すると、何故か笑い出した。

「私の時は、下手糞ってぼろ文句言われたよ」

「えっ!?」

「まぁ、何回も下手糞なのをやっていたら諦めて帰っていたけどな」

 そんな真似自分にはできそうになさそうだ。

「まぁ、暇なとき練習しろよ。いくらでも紐使っていいからさ。こういうのは慣れれば楽にできるようになるから。」

「そうします」

 

 教訓

「報連相大事!」

「練習大事!」


 きっと僕は一生、この日のことを『上撰松竹梅』を見るたびに思い出すだろう。

 

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