第22話 いざ、お父様の部屋へ!
窓からお父様が中庭で訓練しているのを確認し、私とレネはメイドや侍女たちの動向も確認しながらお父様の部屋へと向かった。
なお、今回は初めから同伴している侍女はいない。「うちにレネが来るのは初めてじゃないし、静かに遊びたいの!」と私からお願いしたらすんなりと通ったのだ。
……なんとなくお母様が裏で糸を引いている気がしたけれど、今回はありがたく利用させてもらおう。
部屋に入ると机の上には様々な書類が積み重なっていた。
殺害計画に関するもの――ではなく、ヘーゼロッテ家が領地で行なっている商いや新しい井戸を作る計画書などだ。
普段は仕事用の書斎に置いてあるものだけれど、自室で仕事をすることもあるようなので今日は持ち込んだらしい。
「……ここでなにか待ってたのかもしれないね」
「待つ、ってもしかして手紙の返事を?」
部屋で便箋を見かけた後にお父様から返事を出したとして、その返事を待つには早すぎないかしら。
前世なら一週間あれば十分だけれど、今までの手紙の頻度から考えると気になってしまった。
でも影の鳥やコウモリならモデルになってる動物より早く飛ぶことができる。
そしてもうすでに短いやり取りで計画を詰める段階に入っているとしたら考えられなくもない。
「……最新の手紙を早く見なきゃ。レネ、私は目星をつけたところから確認するから、外で見張っててもらっていい?」
「わかった。もし人が来たら足止めするけど、その前にヘルガのお父さんなら一回、他の人なら二回ノックしていくね」
わかった、と頷いて私は本棚から確認することにした。
本に収納スペースがあるかもしれないので、一冊一冊ぱらぱらと捲っていく。
並んでいる本は殆どが図鑑と学術書で、ほんの少しだけ冒険小説があった。
――どうやらお父様は本を大切に扱っているのか、古いものでも保存状態が良い。
「これは本に隠してる線は薄いかしら……、ん?」
他の本と少し様子の異なるものがあった。
皮の表紙の……恐らく日記だ。
本ならともかく人の日記を無断で開くのは気が引けた。私も今使ってる手帳を見られたら嫌だし。
けれど、これは命のかかっていること。
後で記憶を消せるものなら消します、と心の中で呟いてから表紙を捲る。
「……え、……え〜……お父様らしいというか、なんというか……」
初めのページはわりとしっかり書いてあったけれど、日記を始めたという報告とその日に食べたものについて、そして天気についてだけ。
次のページは日付を間違えたのか書き直した跡があり、内容はメリッサ……お母様が編み物をしていたということだけ。
更に次のページは昼に食べたスープが美味しかったことしか書いておらず、残りは真っ白なページだった。
典型的な三日坊主だわ!
罪悪感と共に少しばかり期待していたので肩透かしどころではないものを食らった気分だった。
そう思いながら白いページを捲っていると、挟まっていた紙がひらりと落ちる。
「これは……」
子供の描いた絵だ。
赤い髪の女の子が花を持って金髪の男性に抱きついていた。
ひっくり返すと裏にお父様の字で覚え書きがしてある。
どうやらメラリァお姉様が三歳の時に描いたものを記念に挟んでおいたらしい。
――お父様は、やっぱり私のこともお姉様のことも我が子として大切にしてくれていた。
なのに本当に私を殺して、他の家族の心に大きな傷を残すつもりなんだろうか。
「……」
私はそれを元に戻すと机方面へと移動した。
さすがに今日は机の上に鍵を置き忘れているということはなく、書類とインク壺と羽ペンが鎮座している。
花瓶には小さな花が挿してあり、仕事中の癒しになっていることが窺えた。
(そういえばこの花瓶……)
随分前にお父様が自分で水を換えているのを見た気がする。
主人自ら換えるってことは趣味の一環なのかしら――と。
そう思って視線を逸らしかけたところで、私はハッとして花瓶に手を伸ばした。
「隠し場所としてはポピュラーだけど……」
鍵をよく机の上に置き忘れていたのは、使ってそのまま置いたからという理由以外に、これから仕舞うところだったのに忘れていたというのもあるんじゃないかしら。
その予感は当たった。
花瓶の底に鍵が貼り付けられていたのである。
見つけた、と慌ててレネを呼びそうになったのをぐっと堪える。
ここでふたりで確認している間に誰かが接近してきたら元も子もない。どのタイミングだって部屋の中にいる限り見張りは必要だわ。
まずは私が先に目を通さないと。
僅かに震える手で鍵を取り、ひきだしを開ける。
中には手紙の束。その中から一番上の手紙を抜き取って開いた。
(……! これが一番新しいわ。内容は――)
簡潔だった。
日付と、計画実行の旨のみ。
それが最新の手紙に書かれた内容だ。
日付は、今から三日後だった。
計画を早めるといってもあまりにも早すぎじゃないかしら。
……なんて思ってしまうのは私が当事者、しかも狙われている側だからこそかも。
覚悟はしていたけれど、やっぱり心のどこかで信じたくないと思っていたのかもしれない。
けれどショックばかり受けてはいられないわ。
手紙と鍵をしっかりと元の状態に戻し、この三日の間にできることをレネと話し合わないと。
そう心に活を入れた時。
――コンッ。
部屋のドアが一回だけノックされた。
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