元は世界だった場所で
岸井かなえ
第1話 人類が下ってきた坂
ヨーロッパのとある国にあった、人類が下ってきたという坂は、もう跡形もない。
その資料のあった博物館も、すでに崩れて崖の下になっている。
崩れたのは、つい10年前の話。
その機を境に、世界のあちらこちらでは、大規模な崩壊が始まっていた。
日本でも、東北から崩れ始め、
崩れは、次第に関東へと広がり始めていた。
最初に崩れを経験した、ヨーロッパのかの国は、いつまた崩壊するかもわからない状態にも関わらず、何も変わらず生活を営んでいた。
王国は健在で、崩れなどあったことすら微塵も感じさせない、
ただかの国にあった、人類が下りてきたとされる坂は、もう跡形もない。
本当にその話があったということさえ、もはや語り継ぐ術がない。
世界的に有名な【人類が下ってきた道】の話は、その資料館が崩壊していたと知らされた昨日まで疑われることなどなかった。
世界では、崩壊が進み、人々は暖を求めた。
国も人種も関係なく、暖を取っている時は、みんな一緒だった。
そのことから多くの国で国旗の真ん中に、
同じ焚火のマークが描かれるようになった。
かつて、国同士の争いが絶えなかった地域でも例外ではなく、今では30ヶ国以上の国旗の真ん中に、焚火のマークが描かれるようになった。
崩壊について、ネットでは中継が行われることもあったが、崩壊中は、そこが崩壊するのかどうかも分からず、ほとんどが予測で現地へ中継に向かっていた。
実際、崩壊真っ只中の場所では建物内が斜めになる。中にいる人々はあっちへ滑り、こっちへ滑りと、本来ならありえない動きをする地面を体感していた。
しかし、それでもそれがすぐに崩壊するわけでもなく、3ヶ月ほどその傾斜が頻繁に変化する状態を経て、ある日突然地面がなくなるのだ。
それも、建物がある場所であれば、体感があるのだが、建物がない場所では突然、地面が崩れ、その場にあった物や土地や、人が一瞬で姿を消す。
その近辺にいた人や物への被害はなく、崩壊跡が分かるのは、辺りの面積が小さくなること。
その場にあった物や場所がなくなること。
崩壊があった痕跡には、必ず茶色の崖クズがわずかだが地面に残されること、だった。
最初、イギリスではその事実を信じられなかった。
崩壊しているということさえ、認識できない状態だったからだ。
何しろ跡形がほぼない。
穴でもぽっかり残っていようものなら気付きようがあったものの、そんな形跡すらない。
坂が崩壊した時には、坂と坂の境に高低差が出来たり、あきらかな歪さが出来た。
崩壊は、衛星から確認すると、
崩壊後と、前では次第に土地の面積が小さくなっているのが確認できた。
しかし、それも大規模な場合であれば気付けたが、いつどこでどのくらいの規模の崩壊が起きているかも分からないそんな状況下では、崩壊の発見が遅れることも多々あった。
特に、情報が進んでいない地域では気付かれることなく、その姿を消してしまったと言われている。
その事実を知っているのは、焚火のマークが描かれている国旗の国の一部の地域の国だけで、他の国では崩壊がどんな風に起こるのかもまだ分かっていない。
情報伝達手段がない彼らにとって自分達だけが知っている事実が他国でも知られているかどうかまでは、意識していなかった。
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