最終話 雪だるまはいつかとける

 しばらく経ったころ、ふとあの雪だるまのことを思い出した。

 雪だるまは"雪"なのだから当然とける。

 もう全てとけてしまっただろうか。

 消えてしまっただろうか。



 バスから降りて、あの日通った道を思い出しながらたどる。

 少し道に迷ったが、目的の丘にたどり着いた。



 雪だるまはかなりとけていたが、まだ少し残っていた。


 あの大きな雪玉を転がすのは力仕事で、無くなるのは惜しかった。

 しかし雪だるまはいつか消えるものだ。仕方ない。それがまた風情があって良──



 少し残った雪玉の中から何かを見つけた。

 取り出してみると、小瓶だった。中に紙が入っているのが見える。


 冷えて開けにくくなっていた蓋をなんとかこじ開けて紙を取り出す。

 

 小さな紙ではなかった。ノートくらいの大きさの紙が小さく折りたたまれていた。


 かじかんだ手で紙のシワをのばしてみると、紙のすみにうっすらとニコちゃんマークの模様があった。

 とても懐かしい。この柄。そしてとても下手っぴな文字。






──まひろのこと好き。

  でも、もう会えない。

  ごめんね。






 この文は。この文字は。かつての自分の。


 そしてその下には。






────ぼくもすき。






 その自分よりもキレイな、見覚えのある筆跡が目に入った瞬間、私は走り出していた。


 これを持っているのはあの子しかいない。


 そして、この紙を雪だるまの中に入れられたのは、


 雪だるまを一緒につくったのは、ただひとり──






 無我夢中で走って、着いたのはバス停だった。

 ちょうどバスから人が降りてくるところ。

 

 


──彼だった。




 雪だるまがとける時期とはいえ、まだ寒いこの季節に、息切れしてうっすら汗をかいている私を見て彼は驚いていた。今回は遅刻しそうなわけでもないのに。



 息もきれぎれに、彼に交換日記の紙を見せた。



 聞きたいことが多すぎて、逆に言葉が出てこない。



 彼の目をまっすぐ見る。



 彼は、私とノートの紙を順番に見たあと、自らのカバンから何かを取り出した。






 それは、ずいぶん使い古されたノート。






 ニコちゃんマークの落書きがしてある、幼さの残るノート。






 なぜ、今まで聞かなかったのだろう。気付かなかったのだろう。





「────まひろ?」





 彼はうなずいた。あの頃と同じ、嬉しそうに笑って。





 

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雪だるまは話さない 麦野 夕陽 @mugino

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