第5章 僕は、チカラになりたい。14

 ――ファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!



 突如、空き地にけたたましいクラクションが鳴り響いた!

 

 驚いて振り返ると、はじめにが目に飛び込んできた。そのイラストは、猛スピードの大型バスに印字されたものとすぐわかった。直後、バスはドリフトし思い切り横滑りしながら空き地に急停止した!


 その場にいた全員が、僕も含め、その様を見て唖然とした……。


『これぞ地獄に仏――! 万策尽きたかと思った瞬間、天界からとんでもないぶっとい蜘蛛の糸がたれてまいりました! やはり、乙幡剛はもってる男であります‼ 赤と白のキーカラーに虎のイラストが眩しいこのバスは、ズバリ! 斬日本プロレスの巡業バスであります! なぜか突如、まさかの降臨であります‼』


 バスのドアがゆっくり開く。

 そして、中から虎のTシャツを着た屈強な集団が次々に降り立った。


「……おいおい、斬日の選手じゃんか!」


 新垣さんを囲む男のひとりが、興奮気味に叫んだ。

 小谷選手をはじめ、あの虎の穴で出会った若手選手たちが続々と姿を現した。

 

 ――なぜ、選手のみなさんが……どうして? 

 

 僕はひどく驚きつつも、なぜか胸が熱くなった。


 赤坂と残りの男たちは、訳がわからないといった感じで惚けた表情をしていた。その隙をつき、新垣さんは男たちの手を振りほどき、こちらに駆け寄ってきた。そして、僕の前に膝をつくと言った。


「……乙幡くん! 大丈夫! 大丈夫?」


 新垣さんの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。

 でも、彼女が無事でよかった。本当によかった。心から思った。

 

「――どうやら……がかなり世話になったみたいだな」


 そう口火を切り、最後にバスから降りてきたのは、あの大鉄さんだった。


『出たました! 斬日の赤鬼、本山大鉄まで登場であります! これは大変なことになってまいりました! そして、その赤鬼を取り囲む、あるいは守護するかのように筋骨隆々、ガチムチマッチョ、屈強なヤングタイガーたちが腕組みし、こちらを見据えております! いや、正確にはガッツリにらんでおります! どうやら、この男たち、相当、ドタマに来ているようでありますっ‼』


 伊達さんの実況通り、大鉄さんも選手たちも一様に険しい表情をしていた。

 そして、その視線の矛先には……赤坂たちがいた。


 最初こそ斬日本の選手たちに興奮ぎみだった男も、次第にその殺人的な視線に気づくと、自然と黙り、一歩後ずさった。


「そこのおまえら! よーく聞け! そこにいる乙幡剛は、我々、斬日が育成している前途有望な選手候補のひとりだぁ――――!」


 前途有望な選手候補のひとり⁉ 

 

 大鉄さんの言葉に、僕はひどく驚いた。

 赤坂たちはそれ以上に驚いたのか、目が泳いだ。


「だから、その乙幡剛は斬日本にとって、言わば金の卵であり、大切な仲間のひとりだ! そうだよな? おまえらー!」

 

 周りで睨みをきかしていた選手たちも口々に叫んだ。


「「「「「そうだー!」」」」」


「剛は、俺たちの仲間だー!」


「大切な後輩だー!」


「同じ釜の飯を食ったダチだー!」


 いつの間にか、僕の頬を涙が伝った。みなさん、そんな風に僕を……。


 大鉄さんは、さらに続ける。


「――そんな仲間が傷つけられたとなったら、俺たちは絶対……


 最後には、あの独特のドスの利いた低い声が響いた。


 そして、大鉄さんがゆっくりと一歩を踏み出す。

 呼応するように、選手たちも一歩前に歩みを進める。


 この状況に、ついに赤坂たちも怯えた表情になり、そわそわしはじめた。

 赤坂は、取り繕うように言った。


「……あっ、あそんでた……だけですよ。な、なっ、乙幡くん……俺たち小学校からの友達……だよな?」


 そして、貼り付けたような軽薄な笑顔で僕を見る。

 その言葉を受け、大鉄さんが僕に問いかけた。


「ほー……どうなんだ? 剛」


 僕は何とか体を起こすと、まっすぐ赤坂を見て腹から叫んだ。


「おまえを……おまえのことを、一度だって友達と思ったことはない!」

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