第5章 僕は、チカラになりたい。4

 『乙幡剛、これはいったいどういう考えに基づく行動でありましょうか⁉ もはや、ストーカー状態であります! 現在、我らが乙幡剛は、あろうことか想い人の新垣さんとその彼氏が下校する後を、密かにつけているわけであります! まさに、ひとりミッション・インポッシブル! いったい、なにがしたいんだ⁉ 乙幡剛!』


 僕自身だって、この行動を理性では説明できなかった。


 でも、珍しく感情的になっていることだけは間違いない。

 とにかく、気に食わないのだ! 嫌なのだ!

 

 新垣さんがつきあうこと自体は、いい。

 彼女は魅力的だし、これまで彼氏がいなかった方が不思議なくらいだし。

 

 でも、その相手が赤坂というのが、たまらなく嫌なのだ。


 僕は、赤坂の本性を知っている。

 その一見、甘いマスクの下の、残虐で、執拗で、冷徹な本性を知っている。


 だから、僕はおそらく僕だけにしか説明がつかない、ある種の義憤ぎふんにかられ、今こうしてふたりの後を追っているのだ、と思う。赤坂が新垣さんのことを傷つけないか、見届けるあるいは見張るために……。


 商店街を歩くふたりは、何か指差したり笑い合いながら、とにかく楽しそうに見えた。それを見ていると、なぜだか胸の奥がチクチクとうずいた。


『おっと? 商店街を抜け駅までたどり着いたところで、ふたりが止まりました! そして、なにやら……互いを見つめ合っているぞ? なぜ黙っているんだ? 無言なんだ⁉ ん? まさか……こんな昼間からキスか? キスしてしまうんでありましょうか⁉ けしからんぞ! 昭和生まれのおじさんとしては、高校生によるこんな真っ昼の駅前でのキスを許すわけにいかないのであります‼』


 伊達さんの実況を聞きつつ、見つめ合うふたりに思わず息を飲んだ。

 が、数秒後、新垣さんが顔をそらし、ふたりは離れた。


『なんじゃそりゃ――! 昭和のおじさんの心をもて遊ぶのも大概にしてほしいわけであります! しかし、我らが乙幡剛にとっては、ほっと一息でありましょう。さ、今からでも遅くないぞ! このまま映画「卒業」のダスティン・ホフマンよろしく、彼女をさらって、いっそ告白してしまえばいいわけであります!』


「そんなことできるわけないじゃないですか……そもそも、ダスティン・ホフマンって誰です?」


 安堵したせいか、思わず声に出し伊達さんにツッこんでいると、


「――なにができないの? 乙幡くん」


 そう尋ねる声に心臓が跳ねた。


 まちがいなく、の声だった。


 僕は恐る恐る、後を振り返った。

 5メートルほど前にいたはずの新垣さんが、いた……。


「奇遇だね〜、乙幡くん」


「……そう……だね」


 まさか、尾行してたことバレた?


「じつはね、今さっきまで赤坂先輩と一緒に帰ってたんだ」


「そう、だったんだ……」


 よかった。尾行がバレたわけじゃなかった……。


「あっ! あのさ、乙幡くん……ちょっとだけ時間ある?」


「……えっ?」

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