第5章 僕は、チカラになりたい。3

 放課後までに僕は、何人かのクラスの女子に話しかけられた。


『おっと? また女子であります! もう何人目でありましょうか? 乙幡剛に、人生最初のモテ期到来かぁ――‼』


 伊達さんはおもしろがったが、僕にはこんなこと初めてだったので、常にしどろもどろになってしまい、それどころではなかった。


 でも、なぜか話しかけてきた女子たちはずっと好意的だった。むしろ、僕のペースに合わせてくれた。それまで、女子に話しかけられるといったら、必要最低限の業務連絡ばかりで、それすらも舌打ち混じりだったり、露骨に嫌な顔をされたものだった。


 が、今日、話しかけてきた女子たちは終始笑顔だった。まあ、話の主な内容は「どうやって痩せたの?」っていうダイエット法に集約されていたんだけど……。


 女子に囲まれていると、同時に男子の目が気にもなったが、どういうわけか「調子にのってんな、アイツ」的な冷たい視線は感じられなかった。むしろ、僕のことを一学期とはまるで別人と捉えているかのようだった。


 僕の奇行による風評も、どうやら夏休みという緩衝期間を経て、だいぶ薄らいだのかもしれない。しまいには、男子の最もイケてるグループのひとりが僕の机の前にわざわざ来て「おっ、痩せて、なんかいい感じになったじゃん!」なんて軽い言葉をかけてきた。


 なんだろう、この感じたことのない生暖かい空気……。


 どこか信じられないと思う一方で、もしもこの空気が保たれるのなら、ひょっとして虐められることもないのかもなと漠然と感じていた。


 ――だけど、今の一番の気がかりは別にあった。


 当然それは、新垣さんが赤坂とつきあうことになったという朝の話だ。


 迎えた、帰りのホームルーム。

 僕は、自然と新垣さんの方に視線を投げていた。

 なぜか彼女は、そわそわして窓の外を見ている。

 

 ん? なにか窓の外にあるんだろうか?

 

 そんなことを考えていると、まもなくホームルームが終わった。

 と、新垣さんは担任より先に勢いよく教室を飛び出していった。


 あんなに急いで……どこへ?


 僕は窓際まで歩き、さっきまで彼女が眺めていた窓の外に目をやってみた。


 ――!


 校門前に、赤坂が立っていた……。


 そうか……だから新垣さんは……。


 まもなく、赤坂の前に新垣さんが到着する姿が見えた。

 ふたりはあの夏休みの初日のようにこちらに背を向けると、並んで校門の外に歩き始めた。

 

 気づくと、僕は爪がめり込むくらい両拳を握りしめていた。


 そして次の瞬間、無意識に駆け出していた。

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