Bonus track 2 まいのためにお勉強

 その日、私は一駅離れた喫茶店で顔も知らぬ二人を待っていた。


 まいをえっちでひいひい言わせたい。


 そんな目標を携え、宵川さんの伝手をたどって今日、とある同性カップルの二人と待ち合わせをしている。


 私のこんな、ともすれば下世話な欲求にも快く応えてくれた人。


 どんな人だろう、話題が話題だからなあ、怖い人じゃないといいな……。


 先に頼んだアイスティーをすすりながら、なんかちょっと不安になってくる。


 うーん大丈夫かな、セクハラされないかな、むしろセクハラになったりしないかな……。


 なんて、私が悩みながらもんもんとしていると、喫茶店のドアがガランとなった。人が多いから、あんまりわかりにくいけど、女の人二人だ。


 しかも、手を組んでいる。カップルっぽい。あれ、かな。


 携帯をちらっと見ると、例の人から『つきましたよ』と連絡が来てた。多分、あれだね。


 私は手を振って、二人に合図を送る。向こうも気づいたみたいで、店員に一言つげてから、こちらに足を向けてきた。


 茶髪で明るい感じの女の人が、もう一人の黒髪でちょっときつめの美人に手を絡めている。二人とも私と年は同じくらい。


 「えーと、川瀬みはるさんと坂上あきのさん……?」


 「はい、そうですよ! ちなみに私がみはるです。そちらは朝田ゆかさんでお間違いなく?」


 「は、はい」


 「どうも、あきのです。とりあえず、みはる、先に注文しよ」


 「ういういー」


 明るい茶髪の方がみはるさん、きつめの美人さんがあきのさん。


 私が頭にインプットしている間に、二人は席に座ってメニューを見るとさっさと店員さんを呼んで注文していた。あきのさんはブラックで、みはるさんはカフェオレ。


 「つーか、みはる。あんたいつまで手組んでんの」


 「え? こうした方が、向こうが見つけやすいって言ったのあきのじゃん」


 「もう、いらんでしょうが……」


 「いやー、あきの最近、忙しかったからさ、構っといて上げようと思って」


 「いらんお世話……」


 そんなやり取りの後、あきのさんはふんと言って、みはるさんに絡められていた腕を引っこ抜いた。みはるさんはそんな様子をニヤニヤしながら見ている。なんだろ、不思議な関係だな。付き合ってるわけでも、ない、のかな?


 「あ、先に誤解、解いとくと、私とこいつは付き合ってないんで」


 「あ、やっぱり」


 「それぞれ、別の人と付き合ってまーす。ちなみにあきのが付き合ってるのは私のお姉ちゃんだったり」


 「いらん情報流さない、私達の話をしに来たわけじゃないでしょ」


 あきのさんが軽くみはるさんに肘を入れた。みはるさんは楽しげにその肘を受けている。


 「それで、えっと、その早速本題なんですけど……」


 ちょっと遠慮がちに、言葉を挟み込んでみる。


 「あー、はいはい。聞いてます、あっちの話だよね?」


 「朝田さんーーー、ゆかさんはどんな人と付き合ってるんですか?!」


 話が変わると同時に、みはるさんが楽しげに身を乗り出してきた。あきのさんもどことなくニヤニヤして私を見ている。あ、ちょっと性格悪そう。


 「ごめんね、私達、割と下世話な興味で来ちゃったから」


 「協力はちゃんとするから安心してね!!」


 元気だな、それに楽しそうだ。私は思わずくすっと笑って、まいのことを話し始めた。


 えーと、まいってどんな人かな。


 とりあえず、そんな感じで二人の講師をお呼びして、ゆかさんのえっちなお勉強会が始まったのでした。


 はてさてどうなることやらー。



 ※



 「あー、未経験VS経験者かーそれはきついなー」


 「みはるとなつめさんはどっちも未経験だったっけ」


 「うん、そう私たちはどっちも初めてだった。あきのはあれでしょ。お姉ちゃんの前に実験って言って二・三人食べたんでしょ」


 「うん、やっぱ初めては経験人数でマウント取りたかったし」


 「で、それでお姉ちゃんに泣かれてたろ。知ってるぞう」


 「……その話はしないで、割と黒歴史だから」


 「やっぱ、してるしてないで差ってありますかね?」


 「んー、やっぱり。やり方わかんないからなあ」


 「どうしても流されるんだろうね。私も初めての相手経験者だったし」


 「お、つまみ食いもまんざら無駄でもなかったね。そっから、あきのは? されるがまんま?」


 「いや? 相手の反応見て、弱いとこ探してった。意外と自分が攻めてるって思ってる奴ほど崩されたら脆いもんだよ」


 「あー、やっぱ油断があるんだね。自分はされるわけないっていう。狩る者は常に狩られるリスクがあるのにね」


 「えっちの話ですよね……これ?」


 「え? 何言ってんの朝田さん。エロは戦いだよ?」


 「あー、これはあきのがマウントとるのが好きすぎるだけだから、お気になさらず」


 「はい……」


 「まあ、真面目な話したら。相手の感度のいいところ探るみたいに一つずつだね。こっちが攻めてたら開発もできるけど」


 「開発かあ……あこがれるなあ。私されることの方が多いよ……」


 「え……と、感度のいいところを探す、ですか」


 「そ、なんか心当たりない? そのーーーまいって子が妙に反応良かったなとか、変な感じだったなみたいなとこ」


 「普段はくすぐったがる程度だけど、えっちの時には感じるところとかもあるよね」


 「えっと、例えばどんなのあります?」


 「んー、首、脇、背中、お尻、穴」「あれ? 私今、お姉ちゃんの性感帯暴露されてる?」「目隠し、手縛り、言葉攻め、イッてるのにひたすらやめない」「あんたら普段どんなハードなことしてんの」「世間的にはまだソフトの範疇よ」「ソフトとは……?」


 「む、むう。まい、どこかあったかな、そういうの……」


 「そういう、みはるはなんかないの?」


 「え? うーん、耳……とか、でも私、どこがっていうより、全身舐めるから」


 「おう」「わ、わあ」


 「あと裸同士で抱き着くのとか、指舐めるのも好きなの、えろくない、指舐めてる姿ってなんかえろくない? 背徳的っていうの?」


 「わ、わかります! 私もまいが指舐めたとき、え、これやばいってなってーーー」「ごめん、私わかんない」


 「「なんで?!」」


 「あー、でもしてる時に無理矢理口に指突っ込むのは好き」


 「あきのはなんか基本的にハードすぎるわ」「そ、それは……うーん、でも……」


 「ま、確かに私のはちょっと参考にならんか」


 「初心者に教えるもんじゃないよねー」


 「む、む、……ん?」


 「どうかした?」「ん?」


 「いや、そういえば、まい……耳、舐めたとき……弱かったような……」


 「お」「ほうほう」


 「耳のすぐそばで話しかけたらすぐ真っ赤になるし、音楽もやってるから、耳敏感なのかな……?」


 「おっけー。みはる、耳舐めのコツは?」


 「音。とりあえず、音。ちょっとわざとらしいくらい、音立てる。よだれの音とか、息遣いを耳もとで聞かせるみたいなイメージで、時々耳元で愛を囁いてあげると尚良し。最初は全体を指で触って、徐々に舌を触れさせて、音で焦らして、最後に耳の奥まで舌を挿入れる」


 「あんたも充分えろいわね」


 「伊達に出会って十年経ってないよ!!」


 「じゅ、十年……すごいですね。私とまいはまだ一年くらいで……」


 「ま、年数じゃないし。ちゃんと分かり合ってればそれでいいんですよ。で、他に聞きたいところは?」


 「えっと、実はまだ本番はしたことなくてーーーー」


 「ふんふんーーーー」


 「あー、それならーーーー」



 40分程、歓談をして私たちは別れた。初対面でデリケートな話題だったけど、二人とも快く応えてくれて、私はたっぷりのメモと期待感と共にその日、喫茶店をあとにしたのだった。


 「ファイト―」


 「ま、がんばって」


 「はい! ありがとうございました!!」


 

 軽くスキップしながら、その日、私は家に帰りついた。




 ※




 というわけで、その日、私はまいと一緒にお風呂に入っていた。


 あらかじめ示し合わせたわけじゃなく、まいが入っているところに一方的に入った。


 『まず優しく、でも確実に自分のペースをとること』


 『そのためには予想外のタイミングで接近すること』


 私が突然、入るよと告げるとまいはちょっと動揺しながらだけど受け入れてくれた。


 お風呂場でちょっと顔を赤くしながら、「え、ゆかさん、どしたの」と聞いてくるまいを軽く流しながら、私はそれとなくまいの後ろに陣取る。


 普段は背の高いまいが後ろに来るわけだけど、今日は私が後ろに回る。


 ますます困惑した感じのまいだけど。別に嫌がってるわけじゃない。


 そのまま、まいの警戒が解けるまで、じっと待つ。


 最初は緊張していたまいだけど、私が後ろからぎゅっと抱き着いてると、徐々に身体の力が抜けてくる。


 程よく抜けてきたところで、肩を抱いていた腕を引き寄せてまいの身体を胸に受け入れる。


 ちょっと驚くあなたの耳に、口を寄せて。


 「今日はね、えっちなことしにきたの」


 目的を告げる。


 動揺、赤面、淡い震え。腕の中のあなたのそんな反応を感じながら、耳に頬ずりをした。


 頬ずりの途中で、わざと唇を時々触れさせる。時折、そこに私の吐息を混ぜる。徐々に、徐々に。


 まいの反応はまだ驚きが少し強い。


 腕を添わせて指を絡ませた。私達が動くたび、お風呂場に水音が鳴る。振り向いたあなたに有無を言わさず口づけをする。


 浅く、一度。短く、二度。長く、三度目を。


 四度目で、舌を滑り込ませる。


 私から、舌絡めるのって初めてだな。まいの舌を探して、絡める。濡れてざらざらとしたそれが、最初は驚いたように、でも徐々に私の舌に絡め返してくる。


 優しく引き抜くとあなたは呆けたような顔をしていた。顔が赤いのはお風呂のせいだけじゃない、よね?


 にっこり笑うと、まいは「ゆかさん?」とちょっと呆けたような感じだけれど、ごめんねちょっとスルー。


 『あくまで自分のペースですること。感じさせたいなら優しく、でも相手のペースにはあえて合わせないこと』


 軽く、もう一度口を塞いでから、私は耳に口を持っていく。


 まず、息を吐きかける。


 あなたの身体が分かりやすく跳ねる。口から艶やかな声が漏れ出てる。お風呂場の反響が、私の興奮を後押しする。


 予想通りの反応に笑みを深くすると、そっと耳たぶあたりに指を這わせた。お風呂場で濡れた指がちょうど水音をそこで奏でてくれる。


 きっと今、あなたの頭は、私が作り出す音で一杯。


 そう、想像するだけで、ドキドキする。このまま、まいの全部を私で埋め尽くしたくなる。


 耳の奥に向けて、何度か息を吹きかける。


 あなたから漏れ出る声がより一層、高くなる。空いた手で逆側の耳も優しく弄ぶ。


 柔く、でも確実にあなたの反応が良くなっていく。


 唇を触れさせる。触れるか、触れないかその程度の接触であなたの身体は震えを増す。


 舌はまだ出さない、そのまま、唇だけで耳のふちをなぞっていく。


 耳たぶから上にかけて、複雑な耳の起伏を唇で優しくなぞっていく。


 起伏の一つ一つが楽器の鍵盤みたいに、綺麗なあなたの声を導いてくる。


 空いている手をあなたの指に絡めた。ぎゅっと強く握り返される。それがちょっとかわいくて、つい焦ってしまった。


 舌をあなたの耳になぞらせる。そのまま、耳孔まで、這いる音を響かせながら、あなたの脳に近い場所まで。


 「ああぁ……ゆかさん……それ……だめ」


 ほんとはもっと焦らすつもりだったけど、ごめんね、今は聞いてあげない。


 耳孔から優しく抜き取った舌を耳のふちに這わせて、そのままもう一度、耳を犯す。


 時折、息を混ぜて、口づけを混ぜて、指を強く握りながら、何度も何度も、あなたの奥まで舌を這わせる。


 やがて、抜き出したときの対応を徐々に変えながら。


 耳を口に含んだり、あえて一点だけ舐め続けたり、軽く甘噛みしてみたり。


 「好き」と告げたり、「かわいいよ」と告げるたび、あなたの身体が、声が、高く跳ねる。


 それが楽しくて何度も何度も繰り返す。


 ちょっと逃げようとしたら、顎をもって、私側に無理矢理引っ張る「逃がしてあげない」と告げると一際、身体を震わせて抵抗は止んだ。


 だーめ、逃がさない。


 そのまま、反応がいいうちに、そっとあなたの胸に手を伸ばした。


 「ふえ? え?」


 私より幾ばくか小ぶりなそれに、少し指をなぞらせる。


 中央まではあえて指は伸ばさない、この前のまいの真似をする。優しく円を描いたり、全体を手で包み込んだり。


 時折、指を止めて、何度か耳を虐める。


 私の一挙一動にあなたの心が、脳が、身体が揺らされていく。私も身体や頭の奥にどうしようもないような熱を感じる。


 ちょっと油断したかなって時に、中心にそっと触れる。


 漏れ出た声を後押しするみたいに、また耳を舐める。


 そうしていると、ちょっと泣きかけたみたいなまいが、こちらに顔を向けてきた。


 どことなく、物欲しそうな顔。


 なんとなく察して、唇を交わした。


 少しだけ舌も絡めて。


 そうしながら、あなたの胸の中心に少しずつ触れていく。


 押して。撫でて。擦って。摘まむ。


 どれが反応がいいのかな。擦ると摘まむのがよさそう。


 耳を口で食んだまま、逆側の手でもう片方の胸に触る。


 中心を同時に、触って、詰って、慈しむ。


 身体の震えが小刻みになる。


 「かわいい」


 と告げると、震えが痙攣に近いものに変わっていく。


 その様に、少し笑みをこぼしてから。


 そっと、指を下に滑らせる。


 胸を、おへそを、下腹部を通り越して。


 あなたの大事なところを手の平全体で優しく包む。


 あなたの声はもう、声にもなっていなくて、ああ、これが嬌声ってやつなのかな。


 まだ触れていないのに、あなたの身体はびくびくと跳ね続ける。


 期待してるのかな、ドキドキしてるのかな、触れるの初めてだものね。


 私もきっと、ドキドキしてるよ。とっても、とってもね。


 「さわるね?」


 あなたの身体がびくんと揺れた。


 周りを指でなぞる。


 お湯とは違う何か暖かなものを感じる。


 ちょっと微笑んだ。


 それから。


 大事なところの。


 本当に。


 大事なところを。


 そっと。


 指で。


 触れて。


 きゅっと。


 優しく。


 でも。


 確かに。


 撫でた。














 あなたの身体が。


 大きく。


 こらえきれないほどに。


 揺れた。


 私がそこから手を離しても、肩を揺らして、震えて、止まらない。


 声が漏れ出る。まいの声じゃないみたい、今まで聞いたこともない、高くて可愛らしい声。


 そのまま彼女は私が手を離しても痙攣を続ける。


 かわいかったので、抱きしめて、耳を食みながら、その痙攣を私も楽しむ。


 不規則に、でも確かに身体が、彼女の奥の方が跳ねている。


 その一つ、一つが愛おしくて、そのまま抱きしめ続けた。


 あなたの震えが止まるまで。


 あなたの声が止まるまで。


 じっとあなたに言葉をささやきながら。


 私はあなたの身体を感じてた。









 ※









 「いやあ、満足、満足!」


 「ゆ、ゆかさん!? あんなのどこで覚えたんですか?! その、あの、ほんと、色々やばかったんですけど!?」


 「いやあ、宵川さんに知り合いの同性カップル紹介してもらってさ、お話聞いてきたんだよね!」


 「え、え?」


 「初めてだけどうまくいったねー、まいが耳に弱いって言うのも予想通り! 大事なとことか胸の触り方いやじゃなかった? 色々聞いてきたとおりにやったし、メモも取ってたから間違いないはずなんだけど」


 「行動力!? え、あ、はい、すごかったです。…………あんなに反応したの、初めてかも」


 「そっかあ、ふふよかった。私もまいのかわいい側面が見れて、大満足! これならたくさんしても大丈夫かなー」


 「え、あ……ゆ、ゆかさん。攻守交代制にしません……? 私、ずっとされる側だとたぶんおかしくなっちゃう……」


 「えー」


 「うう……」


 「なんーて、冗談。いいよ、その時々でどっちからするかは交代ね」


 「は、はい!」


 「ふー、のぼせちゃった。いや、えっち楽しいね?」


 「はい、いやそうなんですけど。対応の早さに私は戦々恐々なんですが……なんかとんでもない力を目覚めさせてしまったのでは?」


 「ふふ、もっと研究するぞー」


 「もつかな……私」


 




 大・満・足!!


 その日は、私はほくほくとした幸せのもと眠りについたのでした。


 うふふ。




 ※




 今日の幸せポイント:21


 累計の幸せポイント:135




 今日のゆかさんの母性? ポイント:48(ゆかさんはタダでは転ばない)


 累計のゆかさんの母性? ポイント:125(100超えたからまいもネコ!!)

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