トイプードルのぬいぐるみ
麦野 夕陽
第一話 日常
「どっちがいい?」
「どっちも一緒」
今日は彼氏と買い物デート。洋服屋さんに来ている。合わせやすそうな黒のスカートと、アクセントになりそうな赤のスカート、どちらを買おうかと悩んで相談してもこの冷たさである。
「直人ってツンデレだよね」
「俺、デレたことある?」
「あるよ」
「いつ?」
「内緒」
直人は怪訝そうな顔を浮かべる。いいの、直人のデレは自分だけが分かっていれば。そう思いながら、赤いスカートが内心欲しかったので、黒いスカートを棚に戻す。赤いスカートをレジに持っていく。
「真由美、まだ買うの?」
直人から苦情が出る。それでも荷物を持って買い物に付き合ってくれるのも一種のデレだ。
散々直人を荷物持ちにして買い物を終える。最初から沢山買う予定だったから今日は直人の車で来た。ま、だいたいデートは直人の車だけど。
シルバーの車に乗り込む。他の車と見分けがつかないので、後ろの窓から見えるところには私がプレゼントした小さなトイプードルのぬいぐるみが置いてある。お腹を押すと「プピ」と鳴るタイプだ。
「買いすぎちゃった」
満足しながらそう言うと
「お金が飛んでいったな」
直人が茶化してくる。
「直人が買ってくれてもいいんだよ?」
「破産する」
言いながら赤信号で停車する。ブレーキをかけているのがわからないくらいゆっくりと、優しく停まる。直人の運転はいつも優しい。スピードを出しすぎることは絶対にない。稀に、急ブレーキをかけたときも、「ごめん、大丈夫?」と声をかけてくれる。これは私のことを思いやって運転している、一番のデレだ、と勝手に思っている。
「あー、仕事嫌だなぁ」
私が言うと
「今日買いすぎたぶん稼がないとな」
ニヤリと笑う直人。
「来週の日曜日も会える?」
「うん。会えるよ。どこに行く?」
「そうだなぁ。仕事で疲れてると思うから…癒されたい!パワースポットとか行きたい!」
「そんな洒落たもんここらへんにあるか?」
う~ん、自分で言ったものの確かに…と頭を悩ませる。
しばらく考えたすえ、
「………………山」
直人が堪えきれず吹き出す。
「山って……」
「森林!緑!自然!パワーの源!酸素!」
必死に理由を並べる私に笑いながら
「わかったわかった。山な。登山となると疲れるから車で行くか。ピクニックってことで。」
「うん!」
パワースポットに行けることも嬉しいが、来週も直人に会えることがこんなに嬉しい。なんて直人一筋な私は思ってしまう。
他愛ない話をしながら好きな人と一緒にいられることに幸せを噛み締める。
そうしてるうちに私の家に着いた。
「今日はありがとう。じゃあ来週ね!」
「ああ。また来週」
私を降ろして直人は車を出す。直人の車が見えなくなるまで私は手を振る。見送るときはいつもトイプードルのぬいぐるみが見える。だから私はそのぬいぐるみを見ると少し寂しくなる。
直人の車が見えなくなってから私は家へ入った。
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