婚約破棄の現場から ~実況解説付き~

中田カナ

第1話

「皆様こんばんは。本日は上流階級の子女が通う学院の卒業パーティ会場からお送りいたします。実況と解説はモブ学生の2人です。解説さん、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

「解説さん、本日の舞台は王宮の大広間ということなんですが、やはり規模と華やかさの桁が違いますね」

「そうですね、実況さん。今年は王太子殿下のご卒業ということもあり、来賓の顔ぶれも錚々たるものとなっております」

「先ほど来賓からの祝辞や各種表彰などが終わりまして、これからダンスへと移行するわけですが」

「はい、そろそろですかね…おっ、来ましたか」


『公爵令嬢!お前との婚約は破棄する!』

『王太子殿下、いったいなぜでございましょうか?』

『お前が男爵令嬢をいじめていたこと、俺は知っているんだぞ!そして俺は真実の愛を見つけた。この男爵令嬢と一緒になることを今ここに宣言する!』


「ステージ上に男爵令嬢を伴って王太子殿下が登場です。婚約破棄を宣言された公爵令嬢はステージ下の最前列ですね。解説さん、公爵令嬢は意外と冷静そうに見えるんですが?」

「はい、これはすでに予測済だったと考えるべきでしょうね」


『殿下、私はいじめなどしておりませんわ。証拠はございますの?』

『いじめを受けた男爵令嬢本人がお前にやられたと言っている。彼女が嘘をつくわけがないだろう!』

『あら、証言だけでは証拠にはなりませんわね』


「王太子殿下は具体的ないじめの証拠を出せないようですね」

「昔から考えが浅くて詰めも甘い方ですからねぇ」


『男爵令嬢が嘘などつくはずがない!』

『公爵令嬢がうまいこと証拠も残さずにやったに決まっている!』


「殿下の側近達が口々に叫んでいますが、こちらも具体的ないじめの証拠は出せないようですね」

「王太子殿下の言動を間近で見て、まともな側近達は理由をつけて上手いこと辞退しましたから、残っているのはろくなもんじゃないことは有名ですからね」


『はぁ…婚約者がいるにもかかわらず、簡単に他の女性に手を出すなど王太子殿下もずいぶんな方ですわね』

『なんだと?!』

『ひどいですぅ~!貴女と違って私と殿下は愛し合っているんですぅ~!』

『お2人がどうしようが知ったことではないのですが、取り急ぎこちらに非がないことだけは証明しておきたいと思いますので皆様こちらをご覧くださいませ』


「おっと、パーティ会場の天井付近に突然大きなスクリーンが登場しました!」

「これは数年前に開発されたイベント用の魔道具ですね。4面あるのでどの位置からでもよく見えます」

「まずは男爵令嬢が自分で教科書を破いて王太子殿下に泣きついています。次のシーンでは夜会の会場で自分で赤ワインをドレスにこぼしていますね」

「実に安易な自作自演ですね」

「場面が変わりまして…これは学院内の庭園ですね。王太子殿下と男爵令嬢の逢引シーンが続きます」

「それにしても、隠し撮りにしてはやけにクオリティが高いですね」

「さすがは解説さん、目の付け所が違いますね。実はうちの映像スタッフが公爵令嬢から依頼を受けて撮影したものです。最新の撮影用魔道具も寄贈していただきましたし、撮影対象があまりに無防備なのでアングルなどもできるだけ凝ってみたと自慢しておりました」

「なるほど、すばらしいですね」


『さて、これで私の無実はご確認いただけたかと思いますが、いかがでしょうか?』

『…』


「映像が終わって呆然としている現在の王太子殿下と男爵令嬢がスクリーンに映し出されています。ちなみにスタッフ情報によると、もっとえげつない映像もあるのですが、公爵令嬢がご自身の品位を落としたくないとのことでこの場では出さなかったようですね」

「さすがは公爵令嬢ですね」

「解説さんは公爵令嬢推しのようですが、相変わらずちょっときつめの知的美人がお好みでしょうか?」

「好みというのとは違うと思います。公爵令嬢は男女問わず全学生の憧れの存在ですからね。そういう実況さんこそ本当は男爵令嬢みたいな守ってあげたくなるようなタイプが好みなんですよね?知ってるんですからね」

「うっ…おお~っと!ここで国王陛下の登場です!!」

「ごまかしましたね、実況さん。まぁいいでしょう。このタイミングのよさを考えると、あらかじめスタンバイしていましたね」

「後ろから王妃様と第二王子殿下もついてきています」


『今回に限らずお前の所業は目に余るものがある。そこの男爵令嬢との婚姻は認めてやるが、王位継承権剥奪の上、王都で暮らすことはまかりならん。辺境の城を与えてやるからそこで暮らすように』

『えっ、殿下は王様になれない上に王都にも住めないんですかぁ~?!そんなのイヤですぅ~』

『父上、それはあんまりです!』

『うるさい!我々や婚約者だった公爵令嬢の助言も聞かず、好き勝手していて何を言う。王族として名を残してやるだけありがたいと思え』


「あ~、王位継承権の剥奪までいきましたか」

「今回の婚約破棄だけではありませんからね。学業の成績もかなりひどいものでしたし、お忍びで訪れた王都の街でもたびたびトラブルを起こし、あちこちから苦情が殺到していましたからね」

「…おや?どさくさに紛れて第二王子殿下が公爵令嬢をステージに上げていますね。公爵令嬢の手を取ってひざまずきました」


『たった今、王位継承権は私のものとなりました。今まで兄上の婚約者ということで遠慮しておりましたが今なら言えます。公爵令嬢、初めて会った時から貴女のことが好きでした。どうか私と結婚してください。ともにこの国をもっと豊かで幸せな国にしていきましょう』

『…私などでよろしいのでしょうか?』

『いや、貴女でなければダメなんだ』

『嬉しゅうございますわ』


「国王陛下と王妃様も笑顔で何度もうなずいていますね。めでたくカップル成立です」

「第二王子殿下は学業も武術も素晴らしい成績を修めていて、平民との意見交換なども積極的に行うなど国民からの人気も高いので、間違いなく国中が祝福することでしょう」


『第二王子殿下ぁ~!以前からお慕いしておりましたぁ~。公爵令嬢より私の方がいいですよぉ~』

『だ、男爵令嬢、どういうことだ?私というものがありながら…』

『王様になれない人なんていりませんわぁ~。だから第二王子殿下ぁ~、私と』

『衛兵!場を乱したこの2人をすぐに下がらせろ!…おっほん。皆のもの、此度は騒がせてすまなかった。邪魔者達は下がらせたので、今からでもパーティを楽しんでいってほしい』


「王太子殿下…いや第一王子殿下と男爵令嬢は衛兵に引きずられて退場し、国王陛下と王妃様も下がられました。パーティ会場の中央では第二王子殿下と公爵令嬢のダンスが始まりました」

「いやぁ、実に優雅なダンスですね。今回の騒動はこれにて一件落着、でしょうか」

「そうですね。解説さん、本日はありがとうございました。ではまたどこかの婚約破棄現場でお会いしましょう。それでは皆様ごきげんよう、さようなら」




「…さて、解説さん」

「なんでしょうか?実況さん」

「本日の現場はこういう結果となりましたが、我々の方はいかがでしょうか?」

「ウェディングドレスは仕上がってきましたよ。実況さんの方はどうでしょうか?」

「はい、我が家の受け入れ態勢も万全です。うちは男ばかりで母は娘が出来るのが楽しみでしかたないようなので、少々うっとうしいかもしれませんが付き合ってやってください」

「いえいえ、お義母様はとても明るくて楽しい方ですから私も今から楽しみですわ」

「我々は幸せになりましょうね。愛してますよ」

「もう…私もですわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄の現場から ~実況解説付き~ 中田カナ @camo36152

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説