age27 / 似た者だよ

「あれ、先生、これからですか?」

出勤前にカフェで寛いでいると、会いたくない人物に声をかけられてしまった。

「そちらこそ、こんな中途な時間にサボりとはいい御身分で」

「今日はみんな出払ってて食いっぱぐれまして、これからランチです」

あ、そう、お疲れさま。

周りを見回し席を探すきみの先輩・マサト。

「お隣り、いいですか?」

………どうぞ。


現在の我が家の仲介担当だったこの男。

きみを同僚として引き入れたのもこの男。

あの時、厳選された物件資料からして曲者感が満載だった。

恐らくごく少数しか気付かない印。

この片田舎でお目にかかるとは思わなかったので、真っ先にこの男のいる不動産営業所へ連絡をしてしまった。


会話を始めて判ってくる、物腰の柔らかさ、の中の強かさ。

しかも、そのは無さげなのに何故か煽るようにきみに馴れ馴れしく接してくる。

そうとは知らず騙されるばかりのきみが心配で、こちらはいつまでも警戒が解けない。

とは言え当然ながら職務には誠実で、これ以上ない程の気遣い満載であれやこれやと世話を焼くものだから更に苛立ちが募っていく。

結果、年下のこの男に踊らされて終わるという事実を残し今に至る。

悔しくて仕方がない。


「先生、遅ればせながら、隣りあったこの機会に謝罪させてください」

ああ。

僕たちを利用して物件開拓を画策したこと?


「認定が始まることで片田舎ここでも需要が増える、ならば受けの良い者が手元に居ればと。焦って先走りました。

 浅はかな事をして申し訳ありません」

その後もきみの関与は敢行されずにいるので今回に限り許そう。


「あの子、良くやってくれてます。男ばかりでむさ苦しいのに周りが明るくなります。

 俺にもよく懐いてくれるんで、つい可愛いがっちゃうんですよねー」

 

そうなのだ。

職場でやたら仲良さげなのだ。

しかも我らの日常会話に四六時中この男の名が出れば、だと判っていても無意識に嫉妬もしてしまうというものだ。


「何気ない一言が僕の不信を買うと判っていて投げる辺りが気に入らないよね」

「思ったことを率直に述べてるだけですよ。

 そうそう、『先生に似てる』って言われたのも嬉しかったですね、光栄です」


1言えば2で返る。

腹の探りあいは楽しいがこの男とは別だ。


いろいろ引き摺るのはみっともない限りだが、腹の底で常に何かを潜ませるこの男は信用ならないから今後も冷たく接すると更に更に心に決めるのである。

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