16歳の種付おじさんってそりゃあないでしょう?

@Kitune13

プロローグ

種付おじさんというのはご存知だろうか。

こと東西南北ありとあらゆる都道府県においてその名を知らぬ人物など存在しないとすら言われる同人誌にかけてはならない存在である。


曰く、種付おじさんは無敵であり敗北を知らないと。

曰く、種付おじさんはご都合主義の権化であると。

曰く、曰く、曰くーー


曰く、種付おじさんは等しく汚い油っぽい醜悪な中年男性であると。


僕、胤上孕タネウエハラセも毎晩同人誌を夜な夜な読み漁るたびにお世話になる存在でもあった。

シモな話なのだが、種付おじさんというのは完全無欠な存在である。


言い方を変えれば種付おじさんという存在はどこからどう見ても主人公なのだ。

いついかなる時も冷静であり、まず敗北を知らない。ご都合主義的能力で完全に相手を無効化し何より不殺を貫く姿勢は紳士のそれだ。

それに機械面にも精通しており彼ら種付おじさんはスマートフォンを改良しアプリ開発および独自の研究により催眠を可能とする。

まさしくオールラウンダー、小汚い中年と侮ることなかれ、彼らはハイパースペックな中年なのである。


何より彼らは同人誌内の置いてフィクションといえど幾度となく性行為をしておきながら疲れる素振りを見せない。つまり無尽蔵に等しい体力をその体に引き締めているということなのだ。

相撲を行う力士たちの体脂肪率は極めて低いとされている、なぜか?

彼らは力士同士の取っ組み合いをするために筋力を必要とする。なのでその大柄の体に詰まっているのは筋肉が大半であり相撲で相手を押し倒すために引き締めているのだ。


では種付おじさんはどうか。種付おじさんは主人公的オールラウンダー能力を持っておきながら体力も等しく多い。体型を保ちながらも筋肉重量を増し性行為に必要な体を作り上げているのだ。

そのことから種付おじさんは文武両道の主人公といえよう。


昨日、僕は同人誌を読みながらNTRされる主人公よりも種付おじさんの方が格好いいと思ってしまったのだ。

ストイックな努力家、性行為一つに全力注ぐプロに戦闘やら闇の炎やら世界の命運やらをかけた主人公が勝てるわけがないだろう、馬鹿いえ、と思ってしまった。


つまり僕はかなり種付おじさんに好意的で、ぶっちゃけたところ種付おじさんを主人公として見ていた。


胤上孕タネウエハラセ、漢字の複雑さと読み方の理解不能さはさながらライトノベルの主人公の必殺技。その上不名誉すぎる書き方に読み方でクラスメイトからついたあだ名が変態。結局そのあだ名をつけたやつも変態呼ばわりされてボッチになっているのだが問題は僕。


何を隠そう、僕は今教室にいる。

待ってほしい、なに当たり前のことを言っているんだ、お前学生だろうと思われるかもしれないが問題は僕の思考である。

教室の片隅、一人ぼっち飯を口に入れながら種付おじさんの格好良さを論理的に考えている、虚しいことこの上ないじゃないか。


高校二年生、平和を謳歌し何もない日常を愛し、テンプレートのようなボッチ街道を突っ走りながら趣味もなくダラダラと人生を浪費する量産型クソニート次世代タイプ。


中学生までは運動部の成績上位として活躍していたがバカみたいなミスで良いところを他の奴らに取られまくった結果自分にできないものと諦め、高校は帰宅部に。

友達もいなければ話しかけてくる人間もいない、まさしくクラスに一人はいる卒業アルバムを読み返したときにこんなやついたっけとなる人間筆頭。

一年生の時に無駄に高いテンションで話しかけまくったが玉砕、結局ぼっちに落ち着き名誉ある孤立を貫き中であった。


そんな僕にも、種付おじさんを考える以外に思うことがあった。

眼前、クラスの窓側の後ろの方に座る僕から丁度斜め前クラスの前方に座る女生徒。


真紅の髪はまるで燃ゆる炎のように美しく深みのあるその色はワインのようでもあった。腰まで伸びるその美しい髪から覗く白い素肌。処女雪のように濁りないソレは視線を吸い寄せる蠱惑的な魅力を放つ。華奢な体はその肢体の美しさを満遍なく醸し出し、豊かな体を隠す制服がまるでファッション誌に載るブランド服にすら見えた。


僕の貧相な語彙力で表現できる限り美少女っぽくいったが彼女、青山鏡花アオヤマキョウカは学園一の美少女であり、覚醒遺伝だったか親の血だったかでよく目立つ赤髪で他校にも広く知られている。

ネット社会というのは恐ろしく目に見えないネットワークで情報というのは風のように広まるものだ。


そんな学園の華は今日も今日とて友人らと語り合い屈託のない天使のような笑みを振りまいている。


何を隠そう、僕は彼女にベタ惚れしていた。


よし、何を夢見ているんだと脳内の僕自身が鼻で笑い足で蹴り付け嘲笑い始めたが弁明がある。

説明した通り僕は今年から積極的に話しかけるのも何もかもやめてボッチを貫いている。

人と話すのは面倒くさいし、何より憂鬱だ。話を合わせて他者の悪口に便乗し、いざ擁護したら次のターゲットはお前だ。

ひどくくだらない醜い人間関係を自分を殺し尽くして作り上げるぐらいならばと今はぼっちになっている。


その理由が、去年の終わり頃、ユウジンというなの俗物が他クラスの物静かな、気弱な男子生徒をバカにして、堪えられなくなり酷い誹謗中傷をおかしいんじゃないかと言ってなんなら煽り散らしまくった挙句殴られ、先生に見つかってしまい恨まれたあの日。


グループから弾かれ、掃除を押し付けられて一人教室の掃除をする中、ふと彼女が現れてにこやかにこう言った。

ちなみにその時僕はアニソンのサビの部分の意味を理解し、あの名シーンかあぁ!!と感動して涙していた、恥ずかしい。

そんな中彼女はものすごく優しい顔で。


「『正しいことをした人間は報われる、きっと貴方の頑張りを見ている人はいるから頑張って。君の正しい行動を好意的に思う人間はいるよ』」


的なことを言われた気がする、なんせその時僕はブルートゥースイヤホンをつけてアニソンを爆音で垂れ流しながら掃除の呼吸箒の型とか言いながら掃除をしていたのだ、聞き取れるわけがない。


と、まぁそんなことがあって彼女の一言に救われた、結果僕はぼっちの自分を許容できるようになれた。

まああの時に言われた時に生返事で「はい!ありがとうございます!僕に好意的な人とかいたらもう土下座してでも付き合って欲しいレベルですはい!」とハイテンションで返すと、ボソッと彼女は何か呟いて、なんか疑問系ぽかったから適当に「はい!喜んで」とか返答してからというものの彼女は僕を避けている。


まあ自意識過剰なのは認めよう。なんせ僕は彼女と比べたらミジンコ以下、ミドリムシの糞のような存在なのだ。だというのに避けられている、つまり認識されていると考えるのは傲慢と言えるだろう。


だからこそ僕は彼女にまず道端の石ころ程度に認識されるよう努力をしようと誓った、二ヶ月前に。


二ヶ月前に。


「本当になんでこうなるんだろうなぁ......」


悪態をつけばチラリと誰かの視線を感じて咄嗟に顔を伏せる。ミドリムシの糞の分際でごめんなさいと土下座し靴でも舐めて差し上げたい気分だ。


そもそも僕はミドリムシの糞なのだから誰かに、そう存在もしない僕に話しかける謎の存在Xに恋愛経験はあるのかと聞かれれば堂々と三桁というだろう、二次元を含めるのならば。

えっ二次元を含めなければいくつだって?いやソレはちょっとプライバシーというか、ね?

恋愛経験無しのゴミカス以下のミドリムシの糞が二ヶ月前に決心してやったことといえば朝起きてランニングして(三日坊主になった)朝食に毎日納豆と牛乳飲んで(腹を壊した)学校に行って学友との交流を楽しんで(二次元で)家に帰ったら洗い物をしてピクセブでエロ画像眺めてはぁはぁしてスッキリして寝る。


そういえば三日前のホラー番組か何かで日英米連合艦隊の消失、ペンタゴンの秘密〜とかいうオカルト話があったな、録画しといてよかった後でみよう、今見たら確実に苦笑いできる。


閑話休題。


これを毎日続けた、結果僕に残されたのはピクセブの莫大な数のピクセブのブックマークとコミュ障以下の交友関係ゼロ野郎だった。

筋肉はついたが運動部には及ばないし平均値に戻った感じ。


そんな僕に彼女に話しかける勇気もなければ何かアクションを起こそうとする気力もなく結果的に一人寂しく休み時間を過ごしていた。



そう、三日前までは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る