夜へカウントダウン/1
そして、ハイテンション、純真無垢なR17夫から、エロ招待状がやってきた。
「はい! 颯茄、お前、俺のことなめちゃって、前戯にしちゃってください! これで、3P」
大人のお楽しみの前座にしたかったのだ。そのために、みんなわざと生クリームをかぶりたかったのだ。未だわかっていない妻は、思いっきり聞き返した。
「はぁ? 何で、その話になったんですか?」
先約されていた独健は、自分が巻き込まれていることを今ごろ知ったのである。
「やっぱり。おかしいと思ったんだ。俺と颯と焉貴……の3P」
握ったままの手で、人差し指だけで、唇についてしまった生クリームを、孔明はぬぐう。
「あれ〜? 颯ちゃん、気づいてなかったの〜?」
「何をですか?」
――焉貴と独健と自分。
これはもうわかった。だが、続きがあるような話運び。そうして、ターン中のある話が、光命の中性的な唇から出てきた。
「私たちが罠を仕掛けていたと……」
策だったのだ。全ては、焉貴と孔明と光命、そしてもう一人……。邪悪なヴァイオレットの瞳を見ようとしたが、ニコニコのまぶたに隠れていてできなかった。
「おや? 困りましたね〜。僕たちの妻はまだ、僕たちのことをよくわかっていないみたいです〜。それでは、僕も混じって、颯にお仕置きです〜」
テーブルに散った生クリームを取り上げ、SMを容易に連想させる月命の、まぶたから解放されたヴァイオレットの瞳に、妻はつかまってしまった。
彼女は隣に座っている、一番最後に結婚した張飛にすがるような視線を送る。
「知ってたんですか?」
「孔明がいる時点で、策がないのはおかしいっすから。何かあるとは思ってたっすよ」
「本当ですか〜」
妻はへなへなとテーブルの上に突っ伏した。そんなことはお構いなしで、焉貴がハイテンションで仕切る。
「はい! じゃあ、月も入って、4P」
――焉貴と独健と月命と自分。
増えてゆく、今宵の相手が。何がどうなって、こうなっているのかわからない。誰がどうやって仕掛けているのだ。颯茄は半ば放心状態だった。
「え、え?」
後ろに椅子を傾けていた明引呼が、口の端でふっと笑った。
「普通気づくだろ」
「どこでですか?」
いつ気づくべきだったのかと、妻はどこかずれている記憶力を巻き戻してみた。
だがしかし、策士の焉貴先生から、冷ややかだが、確実に狙った女を落とすように、螺旋階段を突き落としたグルグル感のある声で言ってきた。
「お前、俺たちの愛、忘れちゃってるんだけど……」
「愛?」
惑星を消滅する爆弾ケーキと夫たちの愛。妻の中では足し算がうまくできないでいた。そして、夫たちが全員声をそろえた。
「愛している妻が間違ったことをしようとしたら、絶対に止める!」
それが真実の愛である。
絶対不動の夫――夕霧命から、一言加えられた。
「惑星爆発はさせん。俺も入る」
「はい! じゃあ、夕霧が入って、5P」
――焉貴と独健と月命と夕霧命と自分。
蓮は颯茄を上から目線で見つめて、バカにしたように鼻で笑った。そして、ひねくれ俺さまを浴びせる。
「罠を張るやつが四人もいるのに、気づかないとはな。お前の頭はしょせんガラクタだ。俺もだ」
「はい! じゃあ、蓮が入って、6P」
――焉貴と独健と月命と夕霧命と蓮と自分。
この夫だけは、颯茄は物申すなのだ。にらみ返してやった。
「カチンとくるな。蓮は!」
まだ、6Pだ。とにかく、止めないと。11Pになる前に。気をつけつつ、妻はいつからみんなが気づいていたのかを知りたかった。
「でも、どうして、惑星爆発しないって、わかったんですか?」
孔明が可愛く小首を傾げ、間延びした言葉を投げかけてきた。
「あれ〜? 颯ちゃん、忘れちゃったの〜?」
「何をですか?」
「教えてほしいの〜?」
「はい、お願いします」
「じゃあ、教えるから、ボクも混ぜて〜」
罠だった。妻はびっくりして大声を上げたが、
「えぇっ!?」
素早く、焉貴が拾って、
「はい! じゃあ、孔明が入って、7P」
――焉貴と独健と月命と夕霧命と蓮と孔明と自分。
とにかく教えて欲しいのだ。どこだ。どこで間違ったのだ。
「どういうことですか?」
優雅な王子さま夫は、感覚妻に理論で説明した。
「惑星爆発と言ったのは月だけです。嘘だという可能性があるではありませんか」
人の話はよく聞いておかないといけないと、妻は今ごろ気づいたのだった。頭を抱える。
「あぁ、そうだったぁ」
「うふふふっ」
約束をすでに取りつけている、月命が含み笑いをもらした。妻が時限爆弾でひらめいている間、何が夫たちの間で行われていたかが告げられた。
「そちらのあと、私、焉貴、孔明は全員確認しました。殺傷能力はなし。規模は最大半径五十センチ以内。爆発までは十五分間だと書いてありましたよ」
光命たちは説明書を読んでいた。それを他の夫たちは見ていたのだ。明引呼の手は念を押すように、顔の前で大きく縦に振られた。
「四人が確認して止めねぇんだから、嘘だってわかんだろ」
「いや〜!」
再び頭を抱えた妻だったが、すぐに沈んだリングから起き上がり、おかしいことに気づいた。
「時間計ってた?」
「当然っすよ」
張飛は親指を突き立てて、にっこり微笑んだ。光命は神経質で細い手の甲を中性的な唇につけて、くすくす笑い出した。
「おや? 今ごろ気づいたのですか?」
妻は食堂を見渡す。夫婦の時間を思う存分過ごせるようにと配慮された、食堂。十二個の数字が円を作るものなどない。
「え……? 時計ないですよね? この部屋。どこで計って?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます