第46話 編集者 その三

「私が彼と仲良くなって遊ぶようになったのは妹がきっかけでしたし、彼と遊ぶときは妹が常に一緒でした。一緒にいる時の妹は積極的に二人の間に入ってくるときもあれば、同じ空間にいるのにまるでそこにいないんじゃないかと思うような時もありました。一緒にいる時間が長くなるほどに二人は惹かれあっていたと思うのですが、それは私の大いなる勘違いだったと思います。妹は私よりも先に彼の心を射止めていたのでした。私は妹だけではなく大好きだった彼にも気持ちを弄ばれていたということです。妹はその頃も学校に行っているとき以外は四六時中私について回りました。三人で遊んでいる時も、妹と彼にしてみればオモチャが近くにいるなという感覚だったんだと思います。いつからか妹は彼との仲を私に隠さなくなったのですが、その時には私もどういうことなのか理解が及ばなくなっており、妹の言いなりになっていたのだと思います。そうなった原因はおそらく、私の目の前で二人が性行為をするようになったからだと思います。二人にそういった趣味があったのかはわかりませんが、私はそれ以降も何度も何度も性行為を見せられました。逃げることも出来たとは思うのですが、一度逃げ出そうとした時に見てしまった妹の目が恐ろしくて離れることが出来なくなっていました。見ているだけでも嫌だったのですが、妹が出来ないときは何故か私が妹の代わりに彼の相手をすることになってしまいました。その時にはもう彼に対して特別な感情も無くただただ不快感しかなかったのですが、それが私の初めての経験となってしまいました。彼は妹とするときは避妊をしていたのですが、私の時は何故か避妊をしてくれず、本当に嫌だった私は彼を拒んでいたのですが、彼と妹から押さえつけられて無理やりされたことも一度や二度ではありません。避妊をしない彼は当然のように私の中で果てていたのですが、それを良く思わない妹がそのたびに私のお腹を何度も何度も殴ったり蹴ってきたりしていました。そんなことが何度も何度も続いていると、私は望んでいないのに妊娠してしまったのです。その事は誰にも言わずに中絶しようと思っていたのですが、どこからか知った妹の暴行は三日三晩続いて私は流産してしまいました。赤ちゃんには申し訳ない事をしたと思っていますが、この時はすでに妹を恐れる気持ちの方が強くなっていたと思います。その後に何度か病院に検査にも行きましたが、私は望んでも子供が出来にくい体になっているということを告げられてしまいました。妹のせいで私は赤ちゃんを産めない体になってしまったんだと思うと、今まで感じていた恐怖心よりも復讐心の方が大きくなっていったと思います。ですが、私が妹に対抗することは出来ないと感じていたので、妹が私に執着心を抱かなくなる時までその感情を抑えようと心に誓うのでした。何故か、私が子供が出来にくい体になったことは妹も両親も知っていたのですが、その後は今までよりも酷い日常が待っているのでした。妹の彼氏は両親が離婚して二人の間を行ったり来たりしているような状態だったのですが、いつの間にか私達の家に住むようになり、妹とは事実上の夫婦のような関係になっていました。それなのに、彼は毎晩のように私の体を求めてきました。赤ちゃんが出来にくいからと、避妊をしてくれることは一度もありませんでした。それは妹の妊娠が判明するまでの間、終わることはありませんでした。私の赤ちゃんが本来なら生まれるはずの日を目途に産休の申請をしてみたこともあったのですが、実際に妊娠しているわけでもなくすでに流産していたので申請は通るわけも無かったのです。私は事情を説明してから無理を通してもらい予定日だった日の前後数日間休んで家を離れることにしたのでした。妹には知られていないはずの友人を誘って温泉に行ってきました。旅行から帰ってくると、妹は何故かベビーベッドを私の部屋に置いていました。そのベッドにはよく見かける赤ちゃんの人形があったのですが、妹はそれを私に見せつけながらこう言いました。


『お姉ちゃんの赤ちゃんって予定通りなら昨日位に生まれていたんだよね。この人形は私と彼からのプレゼントだよ』


私はその言葉を聞いてから何も考えられなくなっていました。つい最近まですっかり忘れていたのですが、裁判資料として提出されていたあの人形を見て当時の事を思い出しました。私はそんな事も忘れていたのです。普通だったらそんな事は忘れるはずがないと思うのですが、妹と彼の笑顔と両親の笑顔を見ていると何も感じなくなっていたのだと思います」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る