弁護士編

第26話 弁護士 その一

 どこかの田舎で殺人事件が起きたらしい。

 それも、犯行直後に犯人の身柄が確保されたということだ。

 連日その事件の事でマスコミは大賑わいなのだった。

 私は担当していた裁判も無事に結審したことで比較的時間に余裕はあったのだが、自分が担当していない事件の事にはほとんど興味が無かったので、事件の詳細はテレビで見ていることしか知らなかったのだ。


「花車先生もこの事件に興味があるんですか?」

「そうですね。私個人としては興味あると思うんですが、弁護士としてはこの事件に全く興味は無いですね」

「それはそうですよね。どう考えてみてもこの犯人は死刑になってしまうと思いますもんね。花車先生でも無罪になるのは難しいと思いますよね」

「きちんと調べていないので何とも言えないけれど、相当の努力は必要になるんじゃないかな。それでも、無罪は無理だと思いますよ」

「この事件を担当する弁護士の気苦労が思いやられますね」

「全くですよ。私のところにも依頼自体は来てたりして」

「あら、それを今からお話ししようと思っていたんですけど、先生はご存じだったのですか?」

「冗談ですよね?」

「冗談じゃないですよ。花咲百合の親族の方から依頼が来てまして、弁護士報酬は受けてくれるだけでも相当な額ですし、死刑を回避できれば倍額、有期刑になれば三倍、無罪判決になれば五倍支払ってくれるそうですよ」

「それって、ちょっと怪しくないですか?」

「私もそう思いましたので、ちょっと調べてみたのですが、依頼人の方は北海道で現地と海外で会社をいくつか経営している方のようですね。花咲百合と本当に親族なのかはわかりませんが、苗字は同じようですよ。もう少し調べてみますか?」

「そうですね。今は複雑な案件も抱えていないですし、話だけでも聞いてみましょうか。依頼を受けるかどうかはそれからだと伝えてもらってもいいですか?」

「わかりました。では、そのようにお伝えしておきますね」

「あ、ちょっと北海道旅行に行きたい気分なのでこちらから出向くと伝えておいてくださいね」


 私の予想では犯人が死刑を回避することは不可能だと思う。

 不可能だからこその高額な報酬だと思うのだが、万が一無罪にでもなってしまえばしばらくの間は報酬のほとんどないボランティアのような仕事を引き受けることも出来そうだ。

 それに、今時期の北海道は美味しいものもたくさんありそうなのでそちらを楽しむだけでもお釣りがくるというものだ。


「林さんは北海道土産で欲しいものありますか?」

「そうですね、私は定番のあのお菓子か今話題の甘いお菓子がいいですね」

「じゃあ、忘れないようにしますね」


 今回は話を聞きに行くだけなのでそれほど時間は取られないと思うのだが、せっかくなので一週間ほど時間を確保しておいた。

 担当している事件がほとんど解決していて良かったと、自分の有能さをこの時ばかりは褒めたくなってしまった。

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