第18話 ライター その三
「谷村さんの記事ってオカルトチックなのばっかりなんですか?」
「そんなことは無いんだけどさ、俺が寄稿している雑誌の方針がそういう感じだから今回はそういう傾向が強いって感じかも」
「そうなんですね。私はオカルトとか好きなんですよ。でも、霊感は無いけど直観力って言うんですか、女の勘には自信がありまして、百合ちゃんって家族の事をあんまりよく思ってなかったみたいなんですよね。仕事の事とかあんまり不満なかったみたいなんですけど、時々家族の悪口みたいな独り言を言っているの聞いたことがあるんですよ。その時はストレス溜まってるのかなってくらいにしか思ってなかったんですけど、あんな事件を起こすまでストレスを溜め込んでるなんて思いもしなかったんですよね。私も舞島さんも心配してたんですけど、今になって思えばもう少し真剣に向き合ってればよかったなって思ってます」
「そんなことがあったのか。ところで、舞島さんってのは同僚の人かな?」
「ごめんなさい。舞島さんは私達の先輩なんですけど、私達の一回り以上先輩なんですけど、とっても良い人で何でも相談できる人なんです。気配りとかも出来るし、一つ一つの動作もとっても気品があって仕事だけじゃなくて人間としても尊敬できる本当に大和撫子って言葉がふさわしい人なんですよ」
「あら、舞島さんってお姑さんにいびられたストレスが爆発して離婚した人よね?」
「そうだけど、そんな姑って最悪だよね。旦那さんも舞島さんの味方しなかったみたいだし、あんまり男運良くなかったのかもしれないね。そう言えば、結構前に百合ちゃんが社長と舞島さんを相手に揉めてたところを見ちゃったんですよね」
「それって何が原因かわかるかな?」
「うーん、最初から見てたわけじゃないので自信ないですけど、百合ちゃんは産休が欲しいって言ってたと思います」
「花咲さんが妊娠してたってこと?」
「でも、変なんですよね。百合ちゃんって太ってるわけじゃないから妊娠したらわかると思うんですけど、産休を取る時ってもっとお腹が大きくなってからだと思うんですよね。そんな感じは全然しなかったし、お互いに彼氏の話してる時だってそんな事一度も言ってこなかったんですよ」
「桐木さんたちの会社って産休を取りにくい会社なのかな?」
「そんなことは無いと思いますよ。うちの会社って外向けの仕事が多いもんですからコンプライアンスとかしっかりしてるんですよ。他の部署の人なんですけど、その人は普通に産休と育休とってますし、そういう先輩って結構多かったりするんです。そんなんなんで、なんで百合ちゃんだけ産休を貰えないんだろうって思ったんですけど、よくよく考えたら、百合ちゃんって妊娠してないんじゃないかなって思ったんです」
「それってどうしてそう思ったの?」
「お腹が全然出てないってのもあるんですけど、妊婦さんって無意識なのかわからないけどお腹を庇うことがあるじゃないですか。他にも食べ物とか飲み物に気を使ったりとかあると思うんですよね。私が見た限りでも、百合ちゃんってそういう素振りを見せた事って一度も無かったんです。お腹に子供がいるんなら冬の日に外を走ったりしないですよね?」
「ママはカンナちゃんがお腹にいる時も走ったりしてたわよ。少しくらい運動しとかないとダメっていうしね」
「ホントママは黙ってて。今はそういう時代じゃないのよ。それに、百合ちゃんはたばこ吸わないんですけど、喫煙可能な居酒屋とかも普通に行ってましたよ。忘年会も普通に参加してましたしね」
「ところで、花咲さんのパートナーの事って何か聞いてたりするかな?」
「私は会ったことないんで名前しか聞いたことないんですけど、確か、優一さんって言ってたと思いますよ」
「カンナちゃん、それは違う人だと思うよ」
「なんでそう思うの?」
「だって、優一さんって百合ちゃんの妹の撫子さんの旦那さんの名前じゃない。姉妹で同じ名前の相手と一緒になるってちょっとおかしいと思わない?」
「それは知らないけど、百合ちゃんがそう言ってたから」
「ママは花咲さんの奥さんともお友達なんだけど、撫子ちゃんが結婚した話は聞いたことあるんだけど、百合ちゃんが結婚した話は聞いたことなかったわよ」
「じゃあ、百合ちゃんは妹の旦那さんと子供を作ったって事?」
「ママは何でも知ってるわけじゃないんだけど、百合ちゃんって誰かと付き合ったことないと思うわよ」
「それは変だよ。百合ちゃんと二人で飲んだ時に、妹に彼氏を取られそうだって言ってたことあるもん」
「妹に彼氏を取られそうだっていつ頃行ったか覚えているかな?」
「えっと、去年の夏くらいだったと思いますよ」
「去年の夏くらいか。もしかしたら、一年くらいかけて今回の事件を準備していたのかもしれないね」
「妹に彼氏を取られるって経験したことないからわからないけど、私も妹と彼氏を恨んじゃうかもしれないですね」
「そうだとしても、両親の事は恨んだりしないよね?」
「その時になってみないとわからないけど、ママとパパの事は恨んだりしないと思いますよ」
「じゃあ、なんで花咲さんは家族を全員殺しちゃったんだろうね?」
「わかんないですけど、明日にでも舞島さんになんで揉めてたのか聞いてみますね。その時に谷村さんの記事を見せてもいいですか?」
「それは構わないけど、取材を受けていることを会社の人に言っても大丈夫なのかな?」
「大丈夫だと思いますけど、ダメだったら今日で終わりってことでお願いします」
気になる点はいくつかあったのだけれど、桐木さんが再び俺の取材を受けてくれることを祈るのが先決だろう。
願わくば、花咲容疑者と揉めていたという社長と舞島さんと言う人の話も聞けたらいいなと思うのだが、それは高望みしすぎかもしれない。
俺はそう思いながらも、温くなったコーヒーを飲み干し、コーヒーのお代わりを頂くことにした。
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