第9話 刑事 その四

「お前って、ケーキの時は絶対悩まないよな。そんなにチョコレートケーキが好きなのか?」

「ええ、チョコレートケーキは作れないんですよ。一応作ることは出来るんですけど、自分で作ったのは美味しくないんですよね。その点、お店のは絶対美味しいから悔しいけど、チョコレートケーキだけは迷わないです」

「お前はお菓子作り得意だもんな」

「あれ、そんなこと言いましたっけ?」

「前に焼き菓子を何度か持ってきたことあっただろ。それが美味かったからな」

「へえ、そんなに美味しかったならまた作ってきますね。それにしても、天野さんがお菓子好きだなんて知らなかったですよ」

「別に俺はお菓子は好んで食べたりしないよ」

「じゃあ、私が作ったのだから食べてくれたんですかね?」

「そんなことはどうでもいいんだよ。それに、この店はどうだ?」

「ええ、雰囲気もいいし、どの料理も美味しそうだし、店員さんもいい感じの接客ですよね。きっと食べても満足ですよ」

「それはどうでもいいんだ。何か気付いたことは無いか?」

「その聞き方ってことは、事件と関係あるってことですよね?」

「そうだ、直接は関係ないと思うが、一応確認のために来てみたのさ」

「そういうのは事前に言ってくださいよ。私だけ普通にランチを楽しみにしてバカみたいじゃないですか」

「お前が頼んだのはランチじゃなくてカレーだろ」

「そういうのはいいですって。で、どんな関係があるんですか?」

「さっき注文を取りに来た店員がいただろ?」

「はい、私と同い年くらいの方ですよね?」

「ああ、その店員なんだけどな、花咲百合の友人だそうだ」

「被疑者の友人ってことですか?」

「そうだ、たぶん事件に関係ないと思うけどな。一応確認しに来た」


 私はあの被疑者に友人がいるということは知っていたけど、被疑者の交友関係リストを一生懸命に思い出していた。

 被疑者の交友関係は決して広いとは言えないものだったので人数は少なかったのだが、リストに載っている友人とは髪の色が全然異なっていたのを思い出した。


「その顔だと、今思い出したみたいだな。そんなんじゃ刑事として失格だぞ」


 警部補は私の事をそうやってバカにしているのだけれど、私は警部補の秘密を知っている。

 実は、警部補は洋食店に行くと必ず頼むものがある。

 単品で頼むことも無いし、セットでそれをメインに組み立てることも無いのだけれど、必ず選ぶメニューにはそれが入っていた。


「でも、私は警部補がエビフライが好きなのを隠しているのを知ってますからね」


 私なりの精一杯の皮肉を返したのだけれど、警部補は全く動じていなかった。

 やはり、その辺が経験の差ってやつなのだろう。


 料理を運んできてくれた店員さんは別の方だったので料理に集中することが出来たのだ。

 カレーを選んで正解だったなと思っていたのだけれど、冷蔵庫の残りの野菜でカレーを作れるなと思ってしまった。


 ケーキを食べ終えたころにはランチタイムもオーダーストップとなっていた。

 ケーキもカレーもどれも美味しくて、私はコンビニのから揚げを食べなくてもよかったなと少しだけ後悔していた。

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