のん兵衛読者諸兄の中には、「ボック」と呼ばれる高アルコールビールをご存知の方も居られるかもしれない。今回紹介する作品は正にその「ボック」の様な味わいの作品である。
過去に軋轢がありながらも、妖怪と人間が共存している大正時代の神戸が舞台。
この作品で先ず目を引くのは軽妙な語り口だ。主人公二人の掛け合いを通して猥雑でありながらもエネルギッシュな街が描き出されており、ノスタルジックなだけではない魅惑的な香りの「神戸」に出会える。
肝心のバトルはこれまた痛快。得物の異なる主人公二人の闘法が精密に描写されていて、漲るスピード感と共に手に汗握る展開に唸ること請け合いだ。普通、多用すれば安っぽくなる擬態語・擬音語も巧みに使い分けられており、ライトノベルに負けない豪快なのど越しが楽しめる。
敵となるクトゥルフ神話由来の化け物共もイイ感じで気持ち悪く、詳細な描写と相まってクリーチャーフェチには堪らない。ただ「(クトゥルフ神話の)一見さん」には苦々しい洗礼となるかもしれないが……。
バトルのノリだけではなく、作品の背景となる民俗学的考察にも抜かりがない。「普通のビール」と侮っていると、これが所々で効いてくるのだ。
そして時折顔を出す恋愛展開は、甘酸っぱい果実香の様に初々しい。
今作はのんべえ(クトゥルフ神話ファン)は勿論、クトゥルフ神話初心者・未体験の読者諸兄にも存分に楽しめる作品に仕上がっている。ここはひとつ私の提案に乗ってもらい、心地よい酩酊感を味わって頂くのも一興と思うのだがどうだろうか?
ただくれぐれも、酩酊から泥酔に至らぬようご注意を……。