Mahlzeit マールツァイト
鬼童丸
第1話 Ghoul
ここは会員制レストラン「Mahlzeit マールツァイト」
完全予約制の注文したものをなんでも食わせてくれる店だ
その分法外な料金を請求されるがあることを満たせばタダ同然で好きな物にありつける
通された個室で喉の乾きを潤す
思った以上に緊張しているらしい
それもそのはずこの晩餐は念願の成就を意味するんだから……
静かに開いた扉から料理が運ばれてくる
一皿目
「先付けのコブクロ(子宮)のポン酢和えです」
子宮の味わいに二人のが欲しかったと思いを馳せる
二品目
「お凌ぎのタンを細く切り蕎麦に見立てたザル蕎麦です」
絡み合う舌の感触にあの夜のことを思い出し噛み切ってしまうのがもったいない
三品目
「椀物は唇を貝に見立てた吸い物でございます」
熱く求め合い激しく吸い付いてきた唇
噛む度にブリブリとした食感が心地よい
四品目
「向付の胸肉のササミとレビーペーストの塩辛仕立てでございます」
口の中で
豊満だった胸のあの柔らかさをそのまま持ってきたような食感と血の匂いを少し残すレバーペースト塩辛があの女(ひと)を食べてる実感を思い出す
五品目
「八寸は刺身の盛り合わせでございますが少し鮮度が宜しくなかったものですから少し火を通して炙りの盛り合わせになります」
それはしょうがない
何せ自分で持ち込んだモノなのだ
鮮度が落ちているのはわかっている
六品目
「太もも肉の塩釜焼きでございます」
指で押せば弾き返されそうなハリの良かった太ももにじっくりと火を通され柔らかく仕上げられたレアな肉に優しい味わいの塩加減
七品目
「炊き合わせの旬の姫竹の子と指の煮物になります」
白魚のようだと例えたが柔らかく骨ごと噛み砕けてしまう指と姫竹の子の食感と香り高さが癖になる
八品目
「ご飯は腹肉の角煮との混ぜご飯でございます
目の前で仕上げますのでその工程もお楽しみください」
引き締まってるように見えて適度に脂の乗った腹肉の赤みがしゃもじでほどけ炊きたての白米に溶けていく脂と濃いめの味付けにどこかホッと一息入れてしまいたくなる
九品目
「水菓子は季節の果物の遠藤夫人盛りでございます
今生の別れを惜しみながらお召し上がりくださいませ」
全ての部位に思い出が詰まっている
やっとひとつになれた……
知らず知らずのうちに涙が溢れる
全ての料理を平らげたあとシェフが顔を出してきた
「田中様、どうでした?念願のお味は」
それに頭を下げ感謝の意を表す
「それではこちらへどうぞ」
もう満足だ
何も思い残すことは無い
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