アン・ダンテ〜歩き直しの異世界転生〜

@Stuka87

第1話 歩き直しのプロローグ

「危ない!」


 考えるより早く身体が動いていた。


 ある休日の昼下がり。俺、一条龍也は死んだ。死因は頭蓋骨陥没。

 子どもを庇っての交通事故による事故死。

 現実に遭遇することなんてそうそう有り得ないとたかを括っていただけに、驚きはしたものの、体の自由が効かなかったため、ジタバタする事もなく静かに息を引き取った、はずだった。


「起床!」


「・・・・・・」


 なんか体育会系ぽい語気の強さで目醒めさせられた。


 黒くて艶やかな長い髪、あからさまな青いドレスと羽衣。頭の頭頂部に光輪、背中には大きな翼。服は白いギリシャ風。胸元が露出していてなんかエロい。見てくれも絶世の美女って感じだから尚のことエロい。


「天使か」


「残念! 天使のコスプレをした神様だ!」


「それはそれでなんだかなって感じがする」


「君、仏教?」


「無宗派、かな」


 相手は一応神様を自称してるわけだし、敬うべきなんだろうけど、どうにもそういう気が起こらなかった。

 簡単に言うと威厳が感じられない。すごく残念な感じだ。


「あ、ゴメン。疲れたから体育会系やめていい?」


 キャラも作ってたのか。

 何となく神様だと認識できた。



「それでは改めてご挨拶を。私は神です。名前はルシファルです。あ、一応言っておきますが、キリスト教のルシファーとは一切関係ないので悪しからず」


「あ、はい」


 真っ白な空間から一転して四畳半の茶室に転移させられて面接的な何かが始まった。


「あー、君。名前なんだっけ?」


「一条龍也です」


「一条○?」


「やめて下さい。一条の苗字しか合ってないし、実家は普通です!」


「お爺さんがヤ○ザの組長だったりしない?」


「しません。てか普通の農民でしたよ、祖父母は」


「今の時代で農民って言い方草」


 なんだこの神様。

 真面目なのか不真面目なのかよく分からん。頭を抱える俺をよそに神様は話を進めていく。


「えー、事故死当時の年齢は28歳。まあまあ若い、か? で、高卒の大学中退。その後はフリーターしながらネット小説投稿と某動画サイトで配信者活動。どちらも泣かず飛ばず、と。うーん、ダメ人間だねこれ」


「す、すみません」


 今更だけど反省と後悔はしてる。

 もっと勉強をすればよかったとかあの時こうしていれば。

 そんなこと何回も思った。

 けど・・・・・・。


「一条○くん」


「一条龍也です!」


「失礼。上杉龍也くん」


「一条龍也ですってば」


「ゴメンゴメン! こほん。一条龍也くん。思うだけじゃダメなんだよ。もっと具体的に行動しなきゃ。子どもを庇って死んじゃったのは評価するけど、半分は諦観入ってたでしょ?」


 諦観ーーーーーー即ち諦め。

 否定しようがなかった。あの時あの瞬間、たしかに体が先に動いた。

 本気で子どもを助けたいとも思っていたが、心のどこかで楽になれる、という気持ちもあった。

 要は逃げたのだ。辛い現実から、今までのサボりのツケ払いから。

 流石は神様、全てお見通しって訳だ。


「ほぁた!」


「痛っ!」


 鋭い手刀が脳天に炸裂した。

 滅茶苦茶痛い。星が散る様に視界がチカチカする。


「君、諦観入るの早すぎ。クソ雑魚ナメクジも良いところだぞ」


「すみません」


「心根は優しいし、外見だって素材は悪くないんだからもう少し自信を持ちなよ。で、君を此処に呼んだのは他でもない。転生の権利を上げるためさ!」


「・・・・・・マジですか?」


「マジもマジ、大マジさ! 君も好きだろ? 異世界転生! 勿論、転生特典付きさ。君は多くの後悔を抱いている。此処最近に至っては、前向きになり始めてさえいた。その矢先に子どもを庇って事故死した。私としても残念でならない。そこで」


「転生ですか?」


「正解! 君にも分かりやすくこういうのを用意してみた。ジャジャーン! ステータスボード!」


 なんか透き通ったロゼッタストーンみたいなのが出てきた。


 転生者 一条龍也


 転生後名前 未定 苗字 未定


 潜在能力値(※カッコ内は最大上限値)


 耐久D(S)

 俊敏C(S)

 魔力C(S)

 器用D(S)

 筋力C(S)

 聡明D(S)

 魅力D(S)

 幸運E(S)


「いずれは無双できる感じですか」


「努力を怠らなければ、という条件付きだがね。取り敢えず賢さは一段上に上げとくよ。それ位のサービスはするとも。加えて保有スキルもね」


 保有スキル


 諦観より立ち上がる者


 如何なる絶望や障害を前にしようとも立ち直る素質を持つ。 耐久、聡明+1


 ギャルゲー主人公(転生先でのスキル呼称は女神の加護)


 人々に慕われ、想いを束ねる者。

 同性、異性に好かれ易くなる一方で、妬み嫉みも受け易くなってしまう。 魅力、器用+1、幸運−5


 出逢いを惹き寄せる運命力(転生先では幼馴染、義妹の表記はされない)


 掛け替えの無い友人や恋人に出逢い易くなる。幼馴染、義妹を得る。 幸運+4


 原石適正


 あらゆる才能を内包した英雄の卵。

 英雄になれるかは本人次第であり、必要な努力を怠った場合、保有する全てのスキルと共に消滅する。また、ステータスにも大幅な弱体化がかかる。 筋力、魔力、俊敏+2


「待って。一番下のスキルヤバすぎません?」


「努力を怠らなければ良いだけさ。働かざる者何とやらってね。転生先は君好みの異世界だし、私なりに出来る範囲で補正も掛けてある。要は才能に胡座をかく事なく邁進すれば良いのさ。やる気を引き出す為に幼馴染と義妹という絶滅危惧種を付けてあげてるんだから頑張ろうぜ!」


 良い笑顔でサムズアップする神様。

 思わずため息をこぼしながらも俺は頭を下げた。

 命一杯の感謝の気持ちを込めて。


「機会を頂きありがとうございました!」


「なんのなんの。神様として当然の事をしたまでさ。別れる前にもう一度言おう。君は諦観入るの早すぎ。もう少し粘ってみなさい。努力は無駄にならない。いつの日か報われる日が来る。それまで努力を積み重ねるんだ。でも報われる日がゴールじゃない。そこは一先ずの目標、いわば通過点の一つ。その先どうするかは君次第。どうなるかなんて私にも分からない」


 神様は肩をポンと叩き最高の笑顔を浮かべながらサムズアップした。


「頑張れ! またいつか会おう!」


 神様のその言葉を最後に俺の意識はテレビの電源を切る様にプツンと途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る