第60話 牽制球×落としかた
〇
八色くんが家に帰ってから、私もお風呂に入ってゆっくりくつろいでいました。
肩まで浸かりながら、持ち込んだスマホで漫画をぼんやりと眺めます。すると、読んでいる漫画でそれなりの濡れ場のシーンがやって来ました。
「ひっ、ひぅ……」
刺激的なコマを見て、反射的に身をよじらせては、ちょっとうずき始めたお腹の下あたりを押さえます。
漫画では謎の光が差し込んではっきりと見えないようにはなっています。いますが、
「……つ、ついさっき、見ちゃったんだよね……わ、私……八色くんの……」
小さいときにお父さんとお風呂に入ったときもちょくちょく目にはしてましたが、お父さんのとはちょっと違うというか、
「……あ、あれ……少しだけだけど、大きくなってたよね……?」
いえ、で、でも、八色くんの普段の大きさを知らないから、よくわからないけど、でも、なんか上向いていたし……。
「……うう、思い出すだけで恥ずかしくなっちゃうよお……」
ぶくぶくと泡を立てながらそのまま湯船に沈んでいった私は、押さえた下腹部のさらにその先の部分に目をやります。
「……八色くんともし付き合ったら、もしかしたらいつか、あれが私のそこに……うう──って、私何考えているの……? これじゃただの変態さんだよ……」
と、とりあえず一旦今日の出来事は頭のなかからリセットしないと……八色くんだって、その……わ、私なんかでも、興奮してくれることは、わかったし……。
シャンプーをしようと、一度湯船から出ようとすると、そのタイミングで、ピロリンとスマホが音を鳴らしました。
「……あれ、池田さんから……なんだろう……って、ひぅぅ!」
池田さんが送ってきたのは、一枚の写真と短文のライン。
「なんかきちんと話してみると八色君っていい子だねー、私も彼氏いないし狙っちゃおうかなー(笑)」
そして、八色くんと至近距離に顔と顔を近づけ合ってピースしている写真。
「えっ、あっ、あれ? あれあれあれ……?」
「うかうかしてると八色君優良物件だから誰かに取られちゃうかもよー。なんてね」
「ひぃぃんん」
えっ、い、池田さんも八色くんのこと? でっ、でもっそんな素振り一切なかったし、そんなわけ……。でもでも、もし池田さんが本気で八色くんのこと好きだったら……、
「……わっ、私っ……」
「なーんて、冗談に決まっているよ冗談。でも、うかうかしていると他の女の手に落ちちゃうかもよー」
浴室の椅子の上でへなへなと座っていると、続けてそんなラインが届きます。
「……じょ、冗談……なんだ……よかった……よ、よかった……? んだ……」
わ、私……今、安心した……んだ。
ほんの少しでも、八色くんが他の女の子と付き合うことを想像して、嫌って思った……んだ……。
「う、ううう……」
恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい気分だよお……。
お風呂から上がって、パジャマに着替えた私はそのままベッドに飛び込みます。
「……今日は疲れたし……そのまま寝られそう……かも……」
色々あったわけだけど、なんだかんだで昨日は寝不足だったわけだし……。
あ……なんかすぐ意識が溶けていきそう……これならもう……。
と、体をベッドに預けていると、にたびスマホが通知します。
「……こ、今度は誰……? い、池田さん……。次は何なんだろう……」
「っていうわけで、八色君を他の泥棒猫に取られちゃう前に、どんどん仕掛けていきましょー! その一環として、夏休み最初の週末に、山行こうと思うんだけど、どう? どう?」
「……へ? や、山……?」
「っていうのもさー、よっくん先生から聞いてるよー? 部活で原稿用意しないといけないんでしょ? それ書くために、落ち着けそうな場所で缶詰しよーよ、八色君と一緒に」
で、でも八色くんはそんなに原稿の量頼んでいないし、缶詰するほどじゃ……。私はこのペースだと間に合わないかもしれないけど……。
「あ、美穂ちゃんの心配はしなくていいよー? そっちはまた私たちのほうでどうにかしておくからさー。だから、この夏で早いところ八色君落としとかないと、ね?」
……お、落とす……って、言っても……うう、具体的にどうすればいいかなんてわからないよ……。そもそも、誰かを好きになったことなんて、今まで一度だってなかったのに……。
また新たに増えた緊張の種を前にして、寝られそうだった私の意識は不幸にも冴え始めてしまい、寝つくのに時間がかかってしまいました。
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