第27話 学院の日常
今日も今日とてエリーと一緒に登校する。
「ケント君、おはようございます!」
「おはよ。今日ユリアはエファ姉様に呼ばれちゃって。」
「そうなんですね、授業が終わった後なら会えるでしょうか...?」
「たぶんね。じゃあいこっか」
校門前で止まった馬車から降り、歩き出す。
「ケント君、私たちっていつもすごく見られていますよね?」
「そうだね。やっぱりエリーが可愛すぎるからだよね。あの皇子め、可愛い婚約者といちゃつきやがってとか思ってるんじゃない?」
「違いますよ!きっとケント君がかっこいいからです!」
((((((一生いちゃついてろ!!!!))))))
そう皆が思っていることを2人は知らない。
「それじゃあ昼休みに。迎えに行くから待ってて。」
「わかりました!」
今日の午前の授業は歴史学、そのあと一般魔法学か。
学院では基本的に午前が座学で午後が実技だ。
教室に入るとクラスメイトから挨拶されるのでそれに返す。
少し雑談した後、席に着いた。
「マーブル、レイシア、おはよう。」
「おう、おはよ!」
「おはよう。」
いつものようにボクと隣の席のマーブル、そしてレイシアが集まる。
しばらくすると歴史学の教師が来て、授業が始まった。
昼前、教室には教師の声とペンを走らせる音だけしか存在しない。
そして教室に鐘の音が響き渡る。
同時に生徒たちのため息、ペンを置く音、椅子の動く音、様々な音があふれだした。
「午前の授業は終了とする。各自次の授業には遅れないように。では解散」
ゼルファ先生はそそくさと教室を出ていった。
ふう、終わった。
午後は...魔対科で剣術か。開始は4の鐘から。
今日はゆっくりできそうだ。
「ケント~、飯いこーぜー」
「うん、第二クラス寄るけどいい?」
「おうとも。愛しの婚約者を迎えに行くんだもんな。」
「ほんとケントったらエリーちゃんが大好きよね。」
学院生活が始まってもう二十日目くらいだ。
ボクとマーブルとレイシアの3人はすっかり仲良くなった。
もちろん他のクラスメイトとも仲良くしているが、一番はこの二人だ。
昼休みには、5人でほぼ毎日一緒に昼食を食べている。
ボクたち3人とエリーとあと一人...。
第二クラスの扉をそっと開け、中をのぞく。
「エリー!迎えに来たよ~。」
「あっ!ケント君!アリエル、行きましょう!では皆さま、またあとで。」
「はーい。皆、あとでね~」
ボクに気づいたエリーは一人の女子と共に来た。
エリーと一緒に来たのはアリエル=レ=マルタ。
マルタ伯爵...ボクの魔法の家庭教師をしていたティリアの娘だ。
その縁もあり、こうして仲良くなっていた。
食堂には予約席制度があるので、いつも同じ席で食べている。
ボクとエリーが隣り合って座り、向かいに3人が並ぶ順番だ。
「女子教養科は午前は何の授業だったんだ?」
「今日は女子教養と歴史学よ。魔研科は?」
「オレたちは歴史学と一般魔法学だ。」
「ゼルファ先生の授業、とても分かりやすいのよ。」
「ケント君、これおいしいですよ。はい、あーん。」
「ほんとだ、おいしいね。こっちも食べてみなよ。あーん。」
「「「ちょっと待て」」」
なんだよ、今はエリーにあーんしようとしてたとこなのに。
「なんだよじゃないわよ。よくそんなに自然に乳繰り合えるわね。」
「はっはは、今日も見せつけてるな~」
「この2人は未来の社交パーティーでもこうなのかしら。」
まあ、いいや。とりあえず続きだな。
「はい、あーん」
「あむ。んふふ、おいひいでふ。」
はいかわいい。優勝。
「まだ会ってちょっとしかたってないのに、なんでケントの思考が手に取るようにわかるのかしらね。」
「レイシア、あれは誰でもわかるわよ。」
「”はいかわいい、優勝”か?」
なんでわかるんだよ。
「ふぇ?ケント君ったらこんなところではだめですよ。そういうのはお城に行ってから!いいですか?」
「はい、もちろんです。我が天使。」
エリーに言われたらそれは絶対のルールである。
「はあ、皆は午後は何の授業?」
「午後か、オレは騎士科で夜飯まで訓練だな。4の鐘までに集合だ。」
「私は魔対科で剣術。4の鐘から第一訓練場かな。」
「あ、ボクとレイシア同じだ。」
「私は一般魔法学の実習です。確かアリエルも一緒でしたよね?」
「うん、そろそろ行かなきゃね。」
「じゃあ、私たちは行きますね。」
「エリー、またあとでね」
エリーとアリエルは次の授業に行ってしまった。
「なあ、まだ時間あるけどどうする?」
「うーん、時計の針があの辺りになるまでよね。」
「”コール”する?ボク、常に札持ってるんだよね。」
「「それだ!!」」
「チップはどうする?」
「食堂のお菓子にしよう。」
「いいわね。勝ったらそれを食べるってことで。無くなるまでやろうか」
「おし、やるか。」
「ふふふ、城のメイド達によって鍛えられたボクの実力を見よ。」
「望むところよ。」
「なんでだよ...?」
結果、ボクが勝てたのは2回だけ。
「ははは、ケントは言ってた割に強くねえな。」
「可哀想だから二つ上げるわ。はい。」
「うう、ありがとう。」
この甘さ...
時間は予定通り、良い時間だ。
「いきましょ、ケント。」
「うん。」
ボクとレイシアは第一訓練場へと向かった。
「じゃ、装備つけようか。背中向けて。」
「はい」
「よし、できた。」
「じゃ次ケントの番ね。」
「はーい」
装備し終わると、ボクたちは訓練場へと出た。
そこでは魔対科の人たちがすでに自由訓練を行っていた。
ボクたちも軽く木剣で打ち合って、体を温める。
そして剣術の教師が訓練場に入ってきた。
「よーし、全員いるな!体は温まったか?まずはこっちで決めた組み合わせで模擬戦だ。呼ばれたら真ん中で戦え。身体強化や魔法を使うのは禁止だ。じゃあまずは...」
2人ずつ呼ばれていき、模擬戦が始まった。
そして6戦目。
「ほんじゃ、次!えー、ケルヴィン=ユスファ!ケント皇子!」
おっと呼ばれた。
相手はケルヴィンか。
彼は魔対科の入試首席だ。竜人族で、腕っぷしが強い。
加えて、彼とは魔対科の中でもよく話す間柄だ。
「よろしく、ケルヴィン。」
「ああ、よろしくなぁ。」
ボクらは少し離れて剣を構える。
「では始め!!」
掛け声とともにケルヴィンが突っ込んでくる。
ボクはこの組み合わせの意図に気づいた。
彼は攻撃を主とする戦い方、ボクは守りを主とする戦い方。
言うなれば”攻め”と”受け”だ。
教師の意図はおそらく、違う型の剣術と戦うことに慣れるということだろう。
ボクは突っ込んできたケルヴィンの鋭い剣技をいなしつつ、隙を探る。
「なあ、おい、なんか一方的じゃね?」
「ケント皇子もケルヴィンには敵わねえんだよ、首席だぜ?」
「そうかもなぁ」
一方的ね、そう見えるならまだまだだな。
ケルヴィンの剣はまだボクに有効打を与えていない。
彼もそれをわかっているからどんどん攻めてくる。
そろそろかな。
ボクはケルヴィンの猛攻をしのぎつつ、機を待った。
(ここだ!!!)
焦ったのか少し大振りになった。
ボクはそれを逃さず、間合いに入り込んで剣を突き付けた。
「うっ!参った。」
「そこまで!勝者ケント皇子!」
”おおおおお!!!”
他の生徒は驚きの声を上げている。
「では今の戦いの講評をしよう。まずケルヴィン。見事な攻めだった。さすがは首席と言ったところか。ただ最後の一振りは集中力が切れて大振りになったな。攻めきれず焦る気持ちもわかるが、常に冷静に相手を攻め続けろ。特にケント皇子のような受けの型に対しては手数で攻めたほうが良い。次にケント皇子。あのケルヴィンの攻めをしのぎ切り、甘くなったところを見逃さず仕留めたのは素晴らしい。ただ少し受けに寄りすぎだ。受けと攻めのバランスをもう少し見直してみなされ。」
「「はい!!」」
「では次!次は...」
「おつかれ、ケント。いやあ負けてもーたわ。入試じゃあそこまで受けれるやつおらんかったで。」
「そう?まあ首席に勝ててうれしいよ。ボクもまあまあぎりぎりだったからね。」
「そうかぁ。でもいい受けの型しとるよな。師匠誰なん?」
「ああ、ガレイン=ラ=カルロ子爵だよ。近衛騎士団の」
「カルロ...カルロ...あ!思い出した!カルロ子爵家の息子、騎士科におったはずや。確か...なんやったけ、名前。」
「そ、そうなの!?」
ガレインの息子...どんな人だろう。
とにかく騎士科にいることが分かった。
そのころ、マーブル―――
「ふう、ふう、はあ」
走り込み、まあまあしんどいな。
かなり足に来た。
「マーブル君!あともう少しだ!頑張れ!」
そう声をかけてきたのは、騎士科の人間だった。
この人は...貴族の人か。
「ありがとう、えっと...。」
「私はレイフォート=ラ=カルロだ。気軽にレイと呼んでくれ。」
「おう、分かったぜレイ。」
”学院はせまい”いつだれと会うかわからないものだ...。
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