テトラ探偵事務所

@Oceansugi

第0話ー1

「しゅ、襲撃だぁ」

「貴様らここがどこだか分かっているのか!」

威勢よく叫ぶギャングの脳天を、5.7mm弾が撃ち抜いた。

「うるさいのです。少し静かにするのです」

ドサリと倒れる死体を尻目に、ヨークはリーシャに問いかけた。

「それにしても敵の数が多くないです?」

「そうだな、よっぽど大切なものを隠し持っているのだろう」

リーシャは木製のハンドガードを握り、周囲を警戒しながらそう答えた。

「そろそろ動こう、あのドアを抜けるぞ」

「了解なのです」

二人はゆっくりとドアに向かって進み出す。

「6時の方向、2人、3秒後!」

ヨークがそう叫ぶや否や、リーシャは銃をそちらに向けて、発砲する。

廊下の影から現れた二人のギャングは7.62mm弾に貫かれ、地面に倒れ伏した。

それらが動かなくなったのを確認すると、二人は扉に近づいて、そーっと開ける。

そこには地下へと続く階段が広がっていた。

「行くぞ」

「あいあいさー!」


数時間前


「一家に一台!分隊支援火器大特価セール!」

「ブルーカンパニー謹製の掃除ロボットはいかが?」

「今日は野菜が安いよ!」


正月である。活気付く市場を横目にリーシャは雪の街路を行く。

薄寒く、静かで平和な街並み。

野菜の隣に重火器が並び、ぬいぐるみの隣に爆弾が陳列される。

ごくごく一般的な朝の風景。

そこを一人、事務所へと急いでいた。

「この街は、変わらないな」

そんなことを呟きながら。

灰色の摩天楼と、不恰好なトタンの集合住宅を眺めながら歩く女が一人。

ある雑居ビルの前で足を止め、透明なドアを開けて中に入る。


「いらっしゃいませぇ・・・ってなんだリーシャか」

「なんだとはなんだ、ボスのご帰還だぞ」

「はいはい、おかえりなさいませ〜」

「リーシャさん、お茶が沸いているのですよ」

そう言ってメイド服に身を包んだヨークが座るように促す。

「助かる。外は寒かったからな」


外套を脱ぎ、事務所のふかふかなソファに腰をおろした。

目の前にはソファに寝そべって、ソシャゲの周回をしているサクラの姿がある。

リーシャはため息をついた。

「正月から怠惰なものだ」

するとサクラにキッとした視線を向けられる。

「石集めは人生の糧なんだから!」

それだけ言うとまた目の前の画面に集中しているようであった。

隣でお茶を啜るヨークにリーシャは耳打ちする。

「なんかあいつ今日不機嫌じゃないか?」

「推しキャラが出ないと言って朝から喚いているのです」

「そ、そうか」


「あ、そうだ」

思い出したかのようにリーシャはカバンをガサゴソと探り、二つの袋を取り出した。

「少し遅いがサンタさんからのプレゼントがあるぞ」

「プレゼント?珍しいじゃない」

周回の手を止めてサクラがこちらに向き直る。

「これはサクラに、そしてこれはヨークに」

それぞれにプレゼントの袋を渡すと、二人はおもむろに袋をガサゴソとし始める。


「あ、これ欲しかったサーマルスコープじゃん!」

「ヨークのはサーモバリック手榴弾なのです」

二人が目をキラキラさせて自分のプレゼントを抱えているのを見てリーシャはほくそ笑み、咳払いをする。


「えー、こほん。突然だが、大きな仕事が入った」

「仕事?」

「そうだ」

「報酬は?」

「2000万」

「受注先は?」

「市役所」

あー。とサクラは顔をおさえる。

「厄介な仕事そうね」

「ああ、装備は万端にな」

「詳細を教えて」

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