第26話 即興小説 3つのお題 星薫る君11

「うわあ…」

 僕は視界いっぱいに広がる満天の星に言葉を失っていた。星がキラキラと輝き、まるで宝石箱をひっくり返したようだ。ナレーションで今の夏の時期に見える星座やそれにまつわる神話の話をしている。


 ある写真家が、銀河鉄道の夜のプラネタリウム作品を作り、それが評判なので元天文部の彼女が見たいと言っていたのに、見に行く前に別れてしまった。それで、1人でも行ってみるかと足を向けたのだった。


 彼の作品はツイッターでたまに見かけていたので、美しい星の写真を撮るのは知っていたが、プラネタリウムについては彼女から聞いて初めて知ったし、ふーんという感想だった。

「そのうちね」

と言ってそのまま忘れてしまったのだけれど…


 彼女とは高校の時からの付き合いだった。その頃は気の合う仲間の1人という認識だった。けれど、大学も偶然同じで入学した後ばったり再会し、それからまたよくつるむようになり、流れで付き合う事になった。だけど


「私の事、ただの友達としか思ってないんじゃないの?」

 そう言って、彼女は僕の目の前から去っていった。僕としては自分なりにアキの事を大事に思っていたが、伝わっていなかったらしい。心おきなく何でも話せて、気心が知れていると思っていたのに…


 また落ち込みそうになったので、上映プログラムに意識を戻す。その作品は、例の写真家が銀河鉄道の話を元にCGで映像を作り、ダイジェストで話を進めていた。冒頭の授業の話で銀河の説明を先生がしていて、その後ジョバンニたちは家に帰る。ケンタウルス祭で村は賑わっているけれど、ジョバンニは家の仕事をする。天気輪の柱のそばで横になると、空から汽車が降りてきて、彼はいつの間にかカムパネルラと2人で乗っている。そこからまた詳しく話が描かれていた。

 りんどうは青く煌めき、彼らが旅をしたはくちょう座、さそり座、南十字星についても説明され、大きく白く光る美しい十字架に見とれながら話に聞き入った。

 上映が終わっても、ぼうっとしばらく余韻に浸っていた。

「アキと一緒に行けばよかったな…」

 そう思いながら会場を出て、階段を降りていた時、うっかり足を踏み外してしまう。


「あっ…!」

 僕は真逆さまに転げ落ち、視界がぷつりと消えた。


***

 部屋のドアがコンコンとノックされる。

「はーい」

と返事をする。そろそろと入ってきたのは、ショートヘアの元彼女だった。

「大丈夫? 具合は」

「…ああ」

 恥ずかしくて、照れ笑いで返す。僕は半階分ほど転げ落ち、打ち所が悪くて右足を骨折してしまっていた。


「怪我をした時、周りに人がいて救急車を呼んでくれたからすぐに処置してもらえたけれど…」

「知らない人に迷惑かけちゃったの⁈ ユウは相変わらずだね」

 だめだよ、しっかりなくちゃと怒られる。

「ご、ごめん…」

 付き合っていた頃の記憶が蘇る。いつもこんな風に喝(かつ)を入れられていたな。それがずっと続くと思っていたけれど…


「見舞いに来てくれるなんて思わなかった」

「…ショウとケンから聞いちゃったのよ」

 気まずそうに彼女は言う。

「君が入院したなんて知ったら、行かない訳にはいかないでしょう」

 口をとがらせて文句を言われた。

「感謝します」

と頭を下げる。

「意識ははっきりしてるって聞いたから安心したけど、しばらく大変そうだね」

とギプスで固定した足を見て言う。

「うん。ポッキリいっちゃったからね。

当分は松葉杖生活かなぁ」

 入院してる間はいいけど、退院した後がしんどそうだなあ。僕はため息をついた。


「とりあえずこれ、どうぞ」

 アキは持参した紙袋を渡してくれる。

「あ、ありがとう」

 中をのぞくと、果物の詰め合わせだった。籠にオレンジやりんご、バナナなどが載ってセロファンに包まれ、上にピンク色のリボンがかけられている。

「そんなに気を使わなくてよかったのに」

と言うと

「…半分は私のせいかなあって」と言い出した。


「何が?」

「その怪我が」

「え、そんな事は…」

 全然ないとも言い切れない。それを見て彼女はため息をつく。

「あのさ。あれからいろいろ考えたんだけど、別れようって言ったの、考え直した方がいいのかなって」

「…え」

「私もついいろいろ言っちゃったけど、私だけ言いっ放しであなたの話はろくに聞いていなかったなと思って」

 確かに一方的に別れを告げられて、最近まで唖然(あぜん)としていた感はあった。


「だからあなたともう少し話し合って、それからどうするか決めようと思うの。…どうかな?」

「…」

 僕としては嬉しくない訳がない。

「わかった。そうしよう」

「とりあえず、怪我を治さないとね。じゃ、また来るから」

 彼女はそう言うと、病室を去って行った。


 僕は手を振って見送った後、彼女の持ってきた果物達をちらりと眺める。

 次は、こんなリボンが似合う長い髪の女の子と付き合えたら、などとも考えていたんだけど。

 でも、アキの笑顔を久しぶりに見たら、また彼女に心惹かれていくのも感じていた。


「足が治って、あのプラネタリウムをまだ上映していたら、一緒に行ってみようかなあ」

 僕はそう呟くと、体を休めるためにまぶたを閉じた。


 以下の三つで即興小説を書く

「プラネタリウム」

「リボン」

「松葉杖」


  了

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ワンドロ小説 kara @sorakara1

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