サイバーパンク・マンドラゴラ

綾繁 忍

ニューロマンドラゴラ

 ——やっちまった。だから言ったんだ、あのクソしつこいジャパニーズ・ヤクザに手を出すのはご法度だって。そりゃ俺の借金は久しぶりに会う甥っ子みたいに見るたびデカくなっているし、唯一と言っていい特技である脳堀りブレインマイニングを使って稼げという紹介屋ジョッキーのいうこともあながち間違いじゃあない。けどな、おっとアブねえ、刃物つけたドローンシュレッドマニアなんて飛ばすんじゃねえ大事な商売道具アタマがスイカみたいになるところだったじゃねえか、まあスイカってどんなもんか見たことはないんだが、まあともかく、今はとにかく逃げるしかねえ。

 愛用のエア・バイクは金属を引き裂くような音を立てながらトーキョー街区のネオンの隙間を滑り走る。いくつもの弾丸を受けてエンジンがヒイヒイ言っている。俺が仕事に勤しんでいるときもこんな風に見えると従兄弟のジェイコブが言っていた。他人の脳に自分の脳をつないで、めぼしい記憶を掘り返して奪ったり、逆に適当な記憶を埋めて隠したり。言っていることは大袈裟だが、目的は大抵浮気の痕跡集めやら、喧嘩でどっちが最初に殴ったのか証明するやら、基本的にはくだらないもんだ。まして裁判の証拠になんか使えない(なにせ違法だ)もんだから、俺の特技も活かす場所はどちらかというとアングラ寄りな場所になる——と、今度はレーザー・ドローンレッドライナーかよ! 俺を捕まえたいのか殺したいのかどっちかにしろってんだ! いい加減心臓が破裂しそうだ、一刻も早くこのレースを終わらせないと、商売道具が真っ二つにならなくとも中身ニューロンが焼き切れちまう。

 なんで逃げてるかって? トーキョーのロシアン・マフィアが情報盗み出せってんで依頼してきたと思ったらそのターゲットがジャパニーズ・ヤクザだったっていう、それだけの話さ。俺は最後まで反対したんだが、紹介屋ジョッキーのやつがやれといって聞かねえ。よくわからないが、何やらデカいヤマにつながるとかなんとか。受けないならもう仕事は回さねえと言われたらどうしようもない。

 そのヤマはまだ詳しく聞いてないんだが、一言だけキーワードを聞いている。

 “マンドラゴラ”。

 意味わかんねえだろ? 俺だってわかんねえ——あっ、しまった、こりゃ落ちる——

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