第3話
今日は遥が珍しく一限から出ている。まあ、学科必須単位だから当たり前なんだが......。
「今日は見学多いなぁ。お前の噂増えてんじゃね?」
「やめてよ。こっちでも追っかけは困るよ」
「こっちでも?」
「いや! こっちの話。ていうか顔どうした? クマできてるぞ」
「ああ。のえるちゃんがこの間話した押崎さんの推しのジンくんとコラボするみたいで押崎さんに寝オチするまで修行させられた」
「ああ、V好きの子ね。大変だね、悪い子ではないんだけど」
「名前の通り、押しが強い子で」
単位を取るためだけに必死になる二人は強烈な視線を感じつつもノートのまとめ作業や気晴らしのゲームをしたり大忙しの90分間だった。
「一途くん、雲母くん待って!!」
そういうと清廉黒髪の押崎さんが走ってこちらに追いついてきた。
「お、噂をすればなんとやら......。何の用?」
「昨日はすいませんでした。推しの布教なんてしたことなくて、楽しくてつい徹夜さてしまいました」
「ああ、うん。それは別にいいけど」
「いちずに話あるだけ? なら俺は行くけど」
「いや!! そうじゃないです! 怒ったご尊顔もかわいいですが、二人の仲睦まじい姿を撮りたくて......。私、カップr......。じゃなかった、写真が趣味なんです。被写体になってくれませんか?」
「それならいいけど」
少しぶっきらぼうな返事をした遥は俺と普通にピースで写真を撮った。
「これでいい?」
「ごちそうs......。眼福です」
あまり言い直せてない気がする。ま、いっか。二人で写真なんて撮らないだろうし、後で彼女に......。
「あ」
「なんだよ、へんな声出して」
「写真欲しいから連絡先教えてもらえる?」
「お? 大学デビューのオタクラくん、積極的でいいよぉ」
「やめろよ。昔のあだ名教えなけりゃよかった」
オタクの小田倉。だからオタクラ。簡潔でつまらなくて残酷なあだ名。どれだけ気持ち悪がられたか......。女性からはゴミを見るような目で、男からはマウントを取るための台座にされたことなんてざらにあった。そんな俺が、オタク趣味でつながった二人と出会えてとてもうれしい。俺の居場所を見つけられた気がして心が温かくなった。
これがいつまでも続いてくれたらいいのに......。
「やべ、俺用事があるんだった! 先に帰るわ!」
「え、早くね? ていうか遥に用事とかあるのかよ」
「あるの、大人の事情ってやつ」
「まあ、いいや。俺も配信待機しなきゃだから」
「私は3限終わってから配信待ちします。今日のコラボのために節約してますから」
「押崎さんはバイトしないの?」
「してますよ。そのうえでです。推しにいっぱいつぎ込みたいので」
なるほどなと感心した後三人それぞれバラバラに、推しの配信に胸を高鳴らせて待ち望むのであった。
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