遠い国の物語

達吉

第1話 兎公爵の憂鬱

 耳の先の毛に奇妙な癖がついてスッキリしない。

 兎公爵は朝から機嫌が悪かった。

 一族みんな純白の毛を持つ兎一族の中で、唯一漆黒の毛を持つ兎公爵。一族の証の赤い瞳はそのままなのに、毛の色だけは烏の濡羽の漆黒。それでも現獅子王が幼い頃からこれまた幼い兎公爵を可愛がっていたこともあり、先の公爵の長男は異端の黒い毛でありながらもあっさりと白兎一族の長になった。

 一族の長になってからは誰も何も言わないが、それまではチクチクと陰口を言われていたのは気がつかないふりをしていた。かなり性格は捻くれて複雑だった。


 現王・獅子王はそれは見事な黄金の立髪を持ち、いや、見た目だけではない、その能力、統率者としての力量に誰も彼が王であることに異論はない。

「だけど…」

兎公爵はいつも思う。この国を本当に動かしているのは、この国を本当に守っているのは、いつも獅子王陛下の文字通り陰に佇む白い黒豹猊下ではないか?と。

 黒豹猊下も一族の中において異質の真綿色の毛を持って生まれた。ただ、兎公爵と違うのは、その異質さゆえに生まれながらに「神」のごとく扱われたこと。また、その力は底が知れない。通常の「ヒト」が持ち合わせていない力を持っていた。黒豹の一族は王家に繋がる一族だけど、その異能ゆえ決して表舞台に立つことなく、常に裏側、王の影としてこの国を支えてきた。

 獅子王の従兄弟にしてお気に入りの現魔導院法皇は、普段は人前に出ることなく、その素顔は獅子王と親しいごく僅かな者しか知らない。幸い、そうこれは幸運としか言えないが、兎公爵は獅子王の従弟(獅子王陛下と猊下は父方同士の従兄弟。兎公爵は陛下とは母方の従兄弟に当たる)且つ幼馴染で所謂「悪童仲間」であったがため、黒豹猊下のことも幼い頃から知っている。それでも、やはり猊下は自分たちと一緒にいたずらをしては大人たちに怒られるようなことはなかった。兎公爵にとっては獅子王陛下以上の雲の上の存在であった。おそらくそれは国民全て同じ思いでいることだろう。

 その黒豹猊下が年に一度、国民の前に姿を現す。正しくは、年に数回ある御託言の儀の際にも姿を見せるが、その際はいつも黒い法衣と黒豹の仮面をつけ、素顔は全く見えない。今日は猊下の生誕の日。この日だけ仮面をつけることなく国民の前に姿を現すのである。

「みんなが祝ってくれているんだから、きちんと礼をするべきだ」

獅子王の一言で5年ほど前から、生誕祭の始めに猊下が国民の前に姿を見せるようになった。

 それまでは獅子王陛下が生誕祭が始まりを告げていた。

5年前、初めて黒豹猊下が皆の前に姿を現した時、猊下の言葉は、まるで誰もそこにいないのではないかという静寂の中に響いた。人々は初めて見る猊下の本当の姿にただただ魅了されるばかりだった。黒色の法衣では小難しい儀式の時と一緒で、めでたさも半減すると、次の年の生誕祭に獅子王が贈った瑠璃色の衣は猊下の青い瞳と同じ色をしている。猊下は毎年、誕生祭にはその青い衣を着る。短い言葉を終え、銀糸で縁取られたフードに小さい頭を収めると、猊下は逃げるように獅子王の影に隠れた。替わって獅子王陛下が「今日は猊下の生誕を大いに祝ってくれ」と言い終わった途端、物凄い歓声が辺りに響いた。普段は冷静で常に俯瞰して物事を見ている猊下が獅子王の後ろで小さくなっているのを兎公爵は微笑ましく眺めていた。忌まわしいまでに強大な異能を持つ魔導院の長は本当はシャイで可愛らしい人だった。


「よりにもよって、猊下の誕生祭になんてこった」

耳の先の癖毛をいじりながら兎公爵はため息をついた。

兎公爵の服色は瞳の色に合わせた赤色の上着。お気に入りの赤もなんだかくすんで見えてしまう。

「公爵様、青鷺侯爵様がお見えになりました」

「出掛ける支度は出来ているかい?」

執事の言葉の終わらないうちに、青鷺侯爵が入ってきた。

立場としては兎公爵のが上でも、長いこと世話役だった青鷺侯爵は対等、むしろ上からの物言いが多い。普段は気にならないが、今日の兎公爵にはカチンと気に障った。

「何でも自分の思う通りになると思うなよ」

兎公爵が見下ろす。兎公爵の方が背が高い。青鷺侯爵だけでなく、獅子王よりも背は高い。

「おや、ご機嫌斜めだね」

ちろりと丸い瞳が兎公爵を見上げた。

「あぁ」

そして納得したかのように、顎に手を当て、ニヤリと笑った。いや、本人は「ニヤリ」というつもりはない。あくまでも兎公爵目線での話だった。

「寝癖かい?かわいいよ」

目敏く兎公爵の耳の先の癖毛を見つけると青鷺侯爵はまた笑った。

「其方みたいに巻毛がデフォルトじゃないんでね」

と嫌味を言ってみたものの「ふふん」と鼻で笑われるだけだった。

「車で木兎侯爵が待っているから、急いで」

木兎侯爵は兎公爵から見てもイトコチガイという関係で、青鷺侯爵よりもひとつ年下で、兎公爵よりも三つ上。従兄弟である青鷺侯爵の補佐役というようにいつもふたりは一緒だった。

「何でこっちに来ないんだ?」

「猊下への贈り物をね、抑えてもらってる」

「抑えてるって、本当にあれにしたの?」

兎公爵は目を丸くして言った。

「あれがどれかわからないけど、職人に完璧に作らせた。これ以上はないふわふわ具合だ。誰かが抑えていないと車の中があれでいっぱいになってしまう」

どれだけふわふわなのかと兎公爵は気になった。早く実物を見たい。

「君に任せていたものは?」

「もちろん、最高級のものを用意したよ」

「猊下の喜ぶ顔が浮かぶね」

青鷺侯爵はそう言って目を細めた。

「さぁ、急ごう。セレモニーの前に贈り物をお渡ししないと」

「待ってよ。支度がまだだ」

「どうせ帽子を被るんだろう?」

「耳は帽子に入れないよ」

「おや?そうなのか?でも、君の寝癖なんて誰も気にしないよ」

青鷺侯爵はそう言うと、さっさと部屋を出て行った。

「何だよ?あいつ」

執事の差し出すハットを受け取りながら兎公爵はぼやいた。

「閣下。お言葉が」

「わかってる」


 いつもならそれぞれの車で城に向かうが、今日は恐ろしいほどの人数が集まる。車好きの青鷺侯爵が所持している車の中で一番大きい車に3人と猊下への贈り物であるそれを積んで、城に向かう。

「兎くんも抑えてくれる?」

後部座席に座っている木兎侯爵が兎公爵を見るなり言った。

木兎侯爵はめーいっぱい腕を広げてそれを抑えていた。

「いくらなんでもデカすぎない?いや、デカいよ。猊下が潰される」

「大丈夫だよ、兎くん。ふわふわで軽いよ」

「むしろこれの上で眠れるよ」

兎公爵はそう言いながら、その様子を想像した。

他のふたりも同じように想像していたのか、車内はしんと静まり返った。

車はいつの間にか走り出していたようだ。

「地下道から参ります」

運転手が言う。

「任せる」

ハッとして青鷺侯爵が応えた。他のふたりはまだ、自分たちからの贈り物に埋もれる猊下の姿を夢想していた。


「早いな」

謁見の間ではない、「身内」しか入ることのない王のプライベートな客間の、それでも主が座る金色の椅子に獅子王はゆったりと座っていた。

「他の人が来る前に贈り物を渡したくって」

答えたのは青鷺侯爵だった。

「クロウサの贈物なら朝早くに使いの者が届けに来たぞ」

獅子王は幼馴染の従弟をクロウサと呼ぶ。

「それはよかった」

声がする方を見ると、兎公爵と木兎公爵とが何やら白いものを抱えていた。

「一番いい香りのしているものを、朝食で食べた。いい味だった」

「え?キミが?」

王に対し「キミ」呼ばわり出来るのは、ここにいる3人とあとふたり。

「瑠璃も一緒に食べたよ。喜んでいた」

瑠璃は黒豹猊下の幼名だった。今の名はとても複雑な発音を要する名前だったし、誰もが畏れ多くてその名を呼ぶことはない。本人が名乗る時だけの名前である。獅子王と、黒豹猊下の母親、そしてもうひとりいる猊下の従兄だけが「瑠璃」と幼名で呼び続けていた。

兎公爵はそれが少し悔しかった。もしも、自分の方が猊下より歳上だったら、自分も猊下を昔からの名前で呼べたかもしれない。

いつかそれを零したとき「あの美しい顔を見ることができるだけでも僕たちはラッキーなんだよ」と青鷺侯爵に諭された。

「クロウサ、何だ?その寝癖は」

ほらきた、と兎公爵は舌打ちをした。獅子王も青鷺侯爵同様何かと兎公爵の神経を逆なでる。言われたくないところをわざわざ突いてくるところがあった。

「猊下は?どちらに」

兎公爵は獅子王の言葉を無視して言った。

「祈りの時間だ。あともう少しで戻ってくる」

先のやり取りなどなかったように獅子王は答えた。獅子王とて兎公爵の寝癖には本当は興味がない。ただ、こういう晴れの日に奇妙な寝癖をつけているということを誰よりも兎公爵が気にしていることを知ってのことだった。

青鷺侯爵は壁の大時計を見た。

「お誕生日ぐらい休ませてあげたいがそうはいかないか」

「この国が今日も平安なのは瑠璃のおかげだよ」

獅子王は兎公爵たちの方をチラリと見た。

「で?なんだ?それは」

「猊下が来てからだよ」

兎公爵の不貞腐れたような返事を獅子王は鼻で笑った。

「こうやっていても仕方がない。適当に座って待つがいい」

この部屋には様々な椅子がある。

王も時には友人らと同じ椅子に腰を掛けて談笑を楽しむ。

だが、ただ一つだけ、ひとり掛けには大きめの柔らかそうな白いソファがある。その椅子は座る者が決まっていた。王の椅子の隣のその椅子に兎公爵と木兎侯爵は持っていた白い大きな白鯨の形をしたクッションを置いた。

「鯨か?」

「気に入ってたようだからね」

兎公爵が答えた。

「麒麟公も罪だよね。御自身は本物を見ることはできるけれども、猊下は見ることは叶わない」

果たしてそうだろうか?青鷺侯爵の言葉に兎公爵は思った。猊下に不可能はない。

「ヴィジョンばっかり送ってきやがる。瑠璃が分別のある奴でよかったよ」

獅子王もそう言って目を細めては大きな白いクッションを見る。

「その麒麟公は今日は戻ってくるのかい?」

「その予定だ」

王と青鷺侯爵のやりとりを聞きながら、兎公爵はまた小さく舌打ちをした。

「どうしたの?兎くん」

自分たちが持っていた箇所を軽く叩いて中の羽毛を直していた木兎侯爵が見上げた。

「なんでもないよ」

「そう?」

木兎侯爵はそのままクッションをポンポンと叩いた。


「猊下がお戻りになられました」

その声と共に部屋の扉が開かれた。

獅子王は椅子から立ち上がると、扉の方へ向かった。

兎公爵も、青鷺侯爵、木兎侯爵も扉の方をむいた。

「瑠璃、お疲れ様。みんな来ているぞ」

黒く揺れる法衣ごと華奢な体を抱きしめた。

「苦しいよ」

小さな声が言う。

「猊下、お誕生日おめでとうございます」

兎公爵はわざと大きな声で言った。

「ありがとう」

猊下は獅子王の腕から抜け出すと兎公爵らの方へ近づいた。

「美味しい桃をありがとう。今日だけじゃなくいつも美味しい果物をありがとう」

そう言ってふわりと笑顔を浮かべる。

兎公爵は青鷺侯爵の言葉を思い出す。確かにこの笑顔を間近で見られる立場でいるだけども、自分たちは幸運なのだと思ってしまう。

「いえいえ、たまたま私の領地は果物の発育がいいんです。それにあの桃はちょうど今が収穫時期。猊下のために実をつけられて、あの桃も満足かと思います」

兎公爵は慇懃に言うとこうべを下げた。

「そんな堅苦しくしないでくれ。困ってしまう」

猊下は本当に困ってしまったのか眉を下げた。

「猊下、お誕生日おめでとうございます」

青鷺侯爵が言う。

「ありがとう。わざわざ来てくれたんだ。姉上の御出産も近くていろいろ大変でしょう?」

「そのようなことまで気にかけていただき恐縮でございます」

「君までもそんな堅苦しくしないでくれ」

「猊下、プレゼント持ってきましたよ」

木兎侯爵の言葉に、兎公爵も青鷺侯爵も鋭い視線を送った。

「臣下の者としてではなく友だちとしてのプレゼント」

「おい、木兎!」

兎公爵は思わず声を上げた。隣に立つ青鷺侯爵は肘で兎公爵を突いた。

黒豹猊下はくすくす笑いながら三人を見た。

「三人からのプレゼント?」

三人は頷くとプレゼントを置いたソファを指した。

「あ」

みるみる子どものような笑顔になると猊下はソファに駆け寄った。

「鯨さんだぁ」

成人で、しかもこの国の守護者という立場の者から発せられた言葉とは思えない。そう言うと大きな白鯨のクッションに抱きついた。

華奢な猊下の体がすっぽりと白鯨に包み込まれた。

「すんごいふわふわ」

気持ちよさそうに体を埋める。その姿を部屋にいる四人が微笑ましく見守っている。

「我々一族は換羽期に多くの羽が抜け替わります。その羽の全てで猊下のお身体を御守り致します」

青鷺侯爵はそう言うと低く頭を下げた。木兎侯爵もそれに倣った。

「我々一族も換毛の季節があります。我々の毛は滑らかな布となって猊下のお身体を御守り致します」

兎公爵が深く頭を下げた。

「お前の毛は黒いじゃないか」

獅子王がすかさず茶々を入れる。

「それは」

顔を上げた兎公爵が言い淀む。鯨は全身が真っ白だった。

「クロのはここだよね」

大きな鯨のクッションに埋もれたままで黒豹猊下が言った。「クロ」は兎公爵が赤ん坊の頃からこの幼馴染の中で呼ばれていた愛称で、今でも日常的に呼ぶのは獅子王と黒豹猊下だけだった。

「少し似ているよ。この口元」

黒糸の刺繍で形作られた口を指した。

「私の口はそのように大きくないですよ、猊下」

「そうかな?美味しいご馳走を前にした時のクロの口は、端っこが少し上がるんだ。こんなふうに」

鯨の口角を細い指でなぞりながら言う。

そして起き上がると三人に近付いた。

「本当にありがとう。君たちの一族の末永き繁栄をここに祈る」

黒豹猊下の大きな瞳が閉じられ、スッと右手を掲げた。

人差し指と小指が伸ばされ、その手が空に揺れる。瞬間、三人の身体をキラキラと金の光が包んだ。

「有り難きお言葉」

三人は膝をつき、深く頭を下げた。

それまで黙っていた獅子王がパンパンと手を叩いた。

「瑠璃、祈りの後だ。疲れたろう。時間まで休むといい」

黒豹猊下は獅子王の方を向くと小首を傾げた。疲れているのは確かだが、今日は自分のために人々が集まる日である。

「麒麟が来たら起こしてやるから、その白鯨と一緒に休むといい」

黒豹猊下はつぶらな瞳の新入りを見ると「そうしようかな」と呟いた。

「ここで休むか?奥で休むか?奥で休むなら、こいつを運んでやろう」

「いいよ。僕が持てる」

「兎と木兎がふたりがかりで運んできたぞ」

鯨のそれは黒豹猊下の背丈よりも大きい。

獅子王はひょいと白鯨を肩に引っ掛けると「おいで」と猊下を促した。

奥のプライベートルームには他の者は入ることができない。

「じゃあ、少し休んでくるから、みんなもくつろいでいて」

猊下は一人ずつ、三人の顔を見た。そして、兎公爵の前に立った。

「クロ」

「はい。猊下」

「ちょっと屈んで」

「はい。猊下」

兎公爵は片膝を床につけた。

「ここ。かわいいけど直してあげる」

兎公爵の黒い耳の先に、猊下の白くて細い指が触れた。

「うん。これで大丈夫」

兎公爵は猊下の触れたあとの自分の耳を触った。

「あ」

「くりんとなっているのも青鷺のみたいでいいんだけどね。でも、クロ気になってたでしょ?」

「ありがとうございます」

兎公爵の赤い瞳に嬉し涙が滲んだ。

「瑠璃。はやくおいで」

奥から獅子王が呼ぶ。

「はーい」

と返事をすると、再び三人を向いて「またね」と言って、奥の部屋に入っていった。


「兎くん、よかったねぇ」

立ち上がれずにいる兎公爵の肩を木兎侯爵がポンと叩いた。

「猊下にとって君はいまだにかわいい小さなクロなんだねぇ。背丈も随分と越されているのに」

青鷺侯爵は顎を撫でながらそう言った。

「麒麟公が来るまで、我々も少しのんびりさせてもらおうか」

青鷺侯爵の声が聞こえてたかのように、談話室の扉が開き、お茶が運ばれてきた。

「獅子王、遅いね」

木兎侯爵が言う。

「猊下に添い寝していたりして」

青鷺侯爵はそう言って隣に座る兎公爵をチラリと見た。

それまでどこか夢心地でいた兎公爵が舌打ちをする。

「猊下は人がいるときちんと眠れないのは獅子王も知っているはずだ」

と言った。

「ともあれ、猊下がこうしていらっしゃる間は我が国の安泰は間違いない」

青鷺侯爵がお茶の香りを堪能しながら言う。

「そうやって、猊下に頼ってばかりでは…」

「違うよ」

兎公爵の言葉を珍しく木兎侯爵が遮った。

「みんなが猊下を守るんだ。猊下が安心しておやすみいただけるように」

木兎侯爵の言うとおりだ、と兎公爵は思った。

「たまにはいいこと言うな」

木兎侯爵は「ヘヘヘ」と昔と変わらない笑顔を浮かべる。

その時、奥の方から「バチン」と何かが弾ける音がした。三人は慌てて立ち上がって、奥の部屋に通じる扉に近付いた。

「失敗、失敗」

獅子王が扉を開けて出てきた。

右手をしきりに振っている。

「鯨と間違えて瑠璃を撫でてしまったよ」

寝付きの悪い猊下の寝入り端を邪魔しては多少痛い目にあうのは当然といえよう。三人は呆れ顔で主君を見た。あの強めの静電気を食らったのだろう。ここにいる誰もが一度は食らったことのあるものだった。それなのに獅子王はどこか嬉しそうににやけている。

「瑠璃の寝巻きは白なんだ。フード付きで、それをすっぽり被って寝るんだ。その真っ白い瑠璃が白鯨に抱きついて寝てたら…撫でたくなるのもわかるだろう?」

「やれやれ」と青鷺侯爵が首を振った。

「獅子王ばかりずるいよ」と木兎侯爵が言う。

「まずは目の前にいるこいつから猊下を守らなくちゃならないのか?」兎公爵はため息をついた。

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