Hello,World!-愛を謳う世界より-

しげまつ

000:賢者の創った世界のお話


さて、この世界のはじまりはこうである。


“無”は全ての存在のはじまりであった。

“無”は、世界を創ることを許された。

“無”は万物を理解する知識を与えられた。

故に、“無”は「賢者」と呼ばれる。


彼はまずはじめに愛する自分の子供を創った。

活発で積極的で、周りを明るくしてしまう“朝”と

物静かで控え目だが、心優しい穏やかな“夜”。

愛しい双子は仲が良く、父である賢者を愛していた。


ある時、双子は父と創る世界を彩る何かを考案するようにと言われた。

双子は互いに、世界をキラキラと輝かせてくれる素敵なものを、ああでもない。こうでもないと唸りながら、それでもとても楽しそうに考えだした。


「完成したかな?」


父の深く優しい声に、双子は自分の描いたものを見せた。


「あのね!見て見ておとうさま!すっごいの考えたんだよ。えっとね、エストと考えたの。これ、これはね、“お花”っていうんだよ!色んな形と色があって、ちっさいのとおっきいのがあるの!それでね、おっきいのはこーんなにおっきいの!」


興奮気味で話す“朝”が大きく体を広げて説明する。その絵はゆらゆらと揺らめいていた。

父は“朝”の真似をして目を大きく開き、それはすごいねと楽しそうに笑った。

父の大きくて優しい手が、“朝”の輝く髪を撫でる。


「うん。とっても素敵なものを思いついたね。“朝”のようにキラキラと輝いていて、皆を元気づけてくれる。そんなものを創ってみようか」


父の言葉に、“朝”は嬉しそうに大きく頷く。

そんな“朝”の後ろで、“夜”は不安げに自分の描いた絵を見つめていた。

父の紫色の瞳は、そんな“夜”を見つける。


「“夜”。“夜”はどんなものを描いたんだい?」

「あ…、ボクは…その」

『自信持って見せつけてやれよ!すげーの思いついたんだから!』

『ヴェスト。うるさい』


“夜”の頭の上で吠える“夜”の守護獣に、“朝”の肩に乗っている“朝”の守護獣がぴしゃりと言い放った。

その様子に眉を下げて笑い、父は“夜”の目の前に身を屈め、目線を合わせて微笑みかける。

言ってごらん。と優しげな父の声を聞き、“夜”はようやく手の中の絵を広げて見せた。その絵は、キラキラと瞬いていた。


「あのね、ずっと前にヴェストが教えてくれたの。夜は、真っ暗で怖いけど、光が綺麗に見えるって。だから、ね。空に、キラキラ光る、“星”があればいいなって。あ、たくさんっ、たくさん創りたいの!どこにいても、ひとりぼっちじゃないって、ボクが見てるって、…あと、皆が怖がって道に迷わないようにって……ね。だからね、その…。おっきい星も、見えるようにしたいなって」

「うんうん。“夜”の優しさがたくさん詰まった素敵な贈り物だね」


父の長い指が、“夜”のふっくらとした頬を撫でる。

恥ずかしそうに、くすぐったそうに“夜”は笑った。



―——贈り物…。

父がそう言葉にした通り、双子が創りたいと願ったのは、この世界への贈り物だ。

愛する子たちの思いを形にし、そうやってこの世界は出来上がった。

親子で創り上げた世界を見ると、それはとても良かった。


これからこの世界で始まる多くの物語を想い、双子の両の眼はとても綺麗に輝いていた。

そんな二人を見て、父は二人と向かい合い、そっと片目ずつ手を添えた。


「さあ。私が教えたすべての愛を、“世界”に教え、そして満たしておいで。溢れんばかりの喜びで、お前たちの心と記憶が満ちますように」


父は両手をそっと離す。

双子の瞳に、賢者の瞳が宿った。

父の両目には、双子の瞳が宿っている。


「さあ、楽しんでおいで!」

―——私は、ここで待っているよ……




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