七章 「恋の予感」

 春に咲く花々は、どれも甘美な香りをしている。それらが重なり合う複雑な香りは愛情にも似ている。


 どうしてだろうか。

 最近携帯をメールが来ていないかちらちら確認するようになった。

 それで彼女からメールが来ていたら嬉しくなった。彼女とのメールを楽しいと感じている自分がいる。

 しかも用事がない時でも彼女のことが頭に浮かぶ。

 何もしていない時、彼女の綺麗な笑顔を思い出す。

 気のせいかなと思うには回数が多すぎる。

 なんやかんや文句をつけているけど、実は深層心理では彼女のことを思っているから、表に表れてくるのだろうか。

 外に目を向けると、空は昨日の雨が嘘のように晴れていた。まだ残っている水たまりは光り輝いていた。

 俺は最近おかしいのだろうか。

 彼女にもしかして恋してるのだろうか。

 胸の奥がチクチクする。

 彼のことをふとした瞬間に思い出す。

 しかも最近頻繁に思い出す。

 それはいつも優しい彼の顔だった。

 部屋に置いてある姿見の鏡は、現実を映し出している。

 私は前より鏡で自分の姿を見ることが多くなった。

 それは自分がどう見られているか気になるからだろうか。

 彼にどう見えているか気になるのだろうか。

 彼を思い出すたびに、胸の奥がチクチクした。嬉しいはずなのに、チクチクする。

 この感情はなんだろうか。

 私はまさか彼に恋してるのだろうか。

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