さようならの雪

マドカ

さようならの雪

恋は見える景色の色彩を豊かにし、愛は見える景色の形を変える。

この二つを失った時、

無色の景色に貴方は絶望する


イギリス作家ヘンリー.マーガレット、詩集「小さな紅葉の手」より


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仕方なかったと僕は自分に言い聞かせる。

愛には心の余裕が必要なのだ。

僕にはその余裕が無い。

きっと深く深く傷つけてしまう。

そうなる前にこの選択は正しかったと思いたい。

そして僕より素敵な人と幸せになってほしい。



どうしてこんなことになったのかわからない。

私は私なりに一生懸命だったのに。

初めての恋愛は実らないとよく聞くけれど

あれは本当だったんだ。

悲しい、寂しい、悲しい。



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恋人から友達になった。

僕の恋愛では初めての経験だ。

好きな気持ちを押し殺す。

あくまでも友人として接するのだ。

きっと僕は大丈夫だと思い込む。

相手の幸せを考えれば僕と付き合ってはいけない。

僕は僕に失望しているのだから。



恋人から友達になった。

連絡を取り合う度に悲しい気持ちになる。

彼は私をもうそういう対象として見てないという現実が襲う。

それでも連絡を続けるのはなぜだろう。

私でもわからない。これが恋かと言われればこんなに悲しいことはないのに。



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僕の地元に来るらしい。

会うのは辛い。きっとまた好きになる。

好きになってしまったら地獄じゃないか。

一度別れを告げたのに今更また付き合ってなんて言える筈がない。

それで断られでもしたらまた僕は失望の闇に沈む。



彼の地元に遊びに行く。

私の一世一代の大冒険だ。

期待と、不安で胸が痛い。

けれど付き合っていた時の大切にされていた記憶を私は信じる。

大丈夫、会ってしまえばきっと大丈夫。

何も無かったら諦めよう。

悲しいけれどそれ以上を求めたら私は私の嫌いな女に成り下がってしまう。



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遊びに来たけれどあくまでも友人として接した。

感情は押し殺した。

笑顔を見る度に声を聞く度に心が痛む。

ここまで女々しい男だったとは。

この関係は健全なのだろうか。

僕に求めるものが友情ならそれに応えるべきだ。

それは僕の責任かもしれない。



彼に会ってきた。覚悟はしていたけど何もなかった。

驚くほど友達として接してきた。

彼が笑う度に彼の声を聞く度に私は深く傷ついた。

どうして私がわざわざ一人で来た意味をわかってくれないんだろう。

私には一切魅力がないの?

帰りのバスで涙が零れる。

見返りを求めていたんじゃない。

でも、会いに行けばなんとかなると淡い期待を抱いていた。



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もうそろそろ僕のことは忘れた頃だろうか。

素敵な誰かを見つけ、その相手と幸せになれたかな。

きっとそれが一番いい。

あんなに純粋な子を僕は汚せない。

聖マリアに落書きする人が居ないように。

きっと僕のような汚れた存在が容易く触れてはいけない。

感情は殺せ。欲望は抹消しろ。

耐えろ。



私はもう何もかもがどうでもいい。

愛して欲しい人は遠くへ行き、想いは届かない。

私は乱れた生活を送る。

堕ちたかったのだ。

堕ちて堕ちて心が死んだらきっと楽になれる。

きっと彼の望む友人になれる。



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遂に、覚悟はしていたけれどこの日が来た。

三度目に会った時に彼氏が出来たと報告される。

「おめでとう」と言う言葉をこんなに悲しく告げたのは初めてだった。

覚悟していたことじゃないか。

幸せになって欲しいと願ったじゃないか。

何故僕の心はこんなに切り裂かれたように痛い?



時間が経って彼に、新しい人が出来たと告げる。

呑気におめでとうと言われた。

また、深く失望する。

とことん私はこの人から恋愛対象として見られていないと感じた。

私のことを昔みたいに純粋な子と思っているんだろうな。

私もどうしていいのかわからなくなってきた。

かといって関係を断つことは出来ない、これが一番悲しい。



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誰かを好きになっても直ぐに、飽きる。

比較してしまうのだ。

僕が振って僕が傷つけたあの子と。

少しでも違ったら一気に冷める。

こんなことならあの時に別れるべきではなかったと思う。

今更遅い。

彼女は新しい道を歩んでいる。

邪魔する権利があるはずがない。

でもいつかまた一度告げよう。

ずっと好きだと。

死ぬ間際でもいい。

自分勝手な告白を死ぬ前に最後しよう。



今の彼氏が彼に敵意を生やす。

私は私の思っていることを言っただけなのに。聞いてきたのはそっちなのに。

男は皆こんなに自分勝手なのかしら。

今日も彼から連絡が来た。

心が麻痺する。

連絡を切った方がいいと冷静な私が言う。

それでもやめられない。

どうしたらいいの?



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僕は死のうと、決めた。

友人にも別れを告げる。

体は震え、耳鳴りはし、涙が溢れる。

何かを忘れている。

何かを忘れている。

そうだ、、、あの子に最後好きだと伝えよう。

背負ってしまうかもしれないけど三年間気持ちを殺してきたんだ。

僕の最後のわがままだ。



彼が死ぬかもしれない。

連絡の様子もおかしい、本当に死んでしまう。

私は仕事を終え、彼のホテルへ向かうことにした。

まだ生きて貰わないと、私は貴方に復讐出来ないじゃない。

私がどれだけ辛かったのかも理解されていないのに。

勝手に死なせないから。



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愛は奪う物でも育てる物でもない。

いつの間にかそこに在る物だ。

それに気付けるかどうか素直になれるかどうかが最大の難関なのだ。


フランス詩人、アルフレド.ヘクター「公女に捧ぐ愛の言葉」より


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僕は死のうと決めていた。

彼女に想いを吐露する。

情けない自分を見せつける。

驚く程に彼女は僕を受け入れてくれた。

死にたいという感情が消えた。

自然と言葉がつむぎ出された。

「俺とまた付き合う?」



彼の様子が明らかにおかしかった。

とにかく落ち着かせる。

よかった、なんとかなったみたいだ。

情けないダサい男だなぁ。

歳も大きく離れているのに。

あの頃の純粋な私は居ないのに。

彼が有り得ないことを言った。

待っていた言葉だったけど、遅すぎる。

貴方の好きだった私じゃない。

けれど私は了承してしまった。

あぁ、彼に私の事を伝えなくてはいけない。

昔とは違うと。



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三年間の月日で彼女はかなり変わったようだ。

僕の中では大した問題ではない。

恋焦がれた相手にそこまで想われていたならそれはもう相思相愛だろう。

全てを受け入れよう。

それが僕のこれからの一番大切な人と過ごす人生となる。

ようやく彼女はやっと、やっと、僕の物だ。



三年間の月日の濃さを考える。

そんなに私を好きだったなら早く、言ってこいよ。。。

馬鹿だこの人は。

そんな人を好きになった私も馬鹿だ。

はぁ。どうなるかわからないけど

ここまで来たらもう腐れ縁でしょ。

付き合ってあげる、馬鹿な貴方に。



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さようならの雪 マドカ @madoka_vo

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